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小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場 20

(報告:常岡千恵子)


 さて、2006年に入ると、ようやく日本の大手新聞も中国と韓国以
外の、海外メディアの小泉首相の靖国神社参拝への批判集中を認知する
ようになった。

 そして、世界最多発行部数を誇る『読売新聞』も、そのことを第一面
で報じたのだが・・・
	  
『読売新聞』2006年3月6日付1面  

 「米メディアでは昨年10月の小泉首相の靖国神社参拝以降、日本に
厳しい論調が急速に目立ち始めた」とあるが、これは、2006年1月
13日付『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』に寄稿した、
外務省の北野充氏の反駁における過小評価と同じだよね。

   2006年1月13日の北野充氏の反駁とその欠陥↓

    >> 小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場15
    >> 小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場16

 あの〜、米メディアばかりか、他国のメディアも、2005年の小泉
首相の靖国神社参拝以前から、日本に対して厳しかったんですけどぉ。

2005年10月17日以前の日本の右傾化・靖国報道例↓

    >> 英語圏大手メディアの"沖ノ鳥島"報道5
    >> 海外メディアの"靖国神社"報道1
    >> 海外メディアの"靖国神社"報道2
    >> 海外メディアの"靖国神社"報道3
    >> 海外メディアの"靖国神社"報道4
    >> 海外メディアの"靖国神社"報道5
    >> 海外メディアの"靖国神社"報道6
    >> 海外メディアの"靖国神社"報道7
    >> 海外メディアの"靖国神社"報道8
    >> 小泉首相の靖国参拝中止をめぐる疑惑2 
    >> 大手英米紙の"ピリ辛"選挙戦報道1
    >> 小泉首相、それでも靖国参拝?2
    >> 小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場1 	


 つまり、マイケル・グリーンがブッシュ政権内にいたときから、日本
に対する厳しい論調が、世界中ビュンビュン飛び交ってたんですけどぉ。

 世界最多発行部数を誇り、世界中に支局もあるんだから、ちゃ〜んと
事実を確かめてから書いてくださいね、『読売新聞』さん!!


 そしてお次は、カナダの元外交官の評論家の論評の要旨をご紹介しよ
う。

。。。。。。。。。。。。。

『エドモントン・ジャーナル』(カナダ)   2006年3月9日付
   −日本の腹立たしい戦争観が原因の地域の張り合い
     国際舞台でもっと目に見える役割を果たしたい日本人
                     ハリー・スターリング筆
		  


 彼は、"日本の不快な外相"と呼ばれた。

 『ニューヨーク・タイムズ』は社説で、日本の麻生外相が昨秋の就任
以来、挑発的な発言で近隣諸国を不必要に怒らせていると、痛烈に批判
した。

  麻生氏に対する批判は、BBC(英国放送協会)や『エコノミスト』
などの、ほかの欧米の有力メディアも伝えた。
  このような批判は、麻生氏個人に向けられたものだとみなす人もいる
だろうが、彼のけんか腰の発言は、一個人の考えを超えたものであるこ
とをほのめかしている。

  論争の的の靖国神社は、ある意味、ウルトラナショナリストや一部の
自民党議員を含む、日本は過去の戦争に対する罪の意識を放棄して、他
国を怒らせてでも、より強く国益を追求するべきだと信じる人々の活力
回復点のようなものになっている。

  日本のカリスマ的な小泉首相は、こうした見解の一部を共有している
と伝えられる。

  中国と日本の関係は、中国とその他の国々が日本の侵略を糊塗してい
るとみなす新しい歴史教科書も含めて、いくつもの理由から、緊張が増
している。

  多くの中国人は、悪名高い南京大虐殺や市民の生体実験を含む、中国
侵略における苛酷な政策について、日本は本当に責任を認めたことがな
いと信じている。

  小泉氏がなぜ、隣接する戦争博物館とともに、他国を激怒させるよう
な浄化された利己的な日本の軍事史を掲げる靖国神社を参拝し続ける
のか、測りかねる者もいる。

  この博物館が、1930年代と1940年代の日本の軍事行動を、今
日のインドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポール、ベトナム、
ミャンマーの外国による植民地化を終わらせるためのものとして描写
していることは、近隣諸国の天然資源を支配しようとした日本の試みの、
露骨な合理的解釈をしているとみなされている。

  だが、小泉氏の参拝は、明らかに、彼が日本でだんだん発言権を拡大
しているナショナリストたちと同じ立場を取っていることを強調した。
  現在、一部のウルトラナショナリストは、憲法が禁じた、日本の"自
衛隊"の海外における攻撃的軍事作戦を解禁したいと望んでいる。

 これは、日本社会の根底の変化を反映した現象だとする者もいる。
  近年、日本の経済的成功に対するもっともなプライドから、多くの日
本人が日本が国際舞台でもっと見える役割を果たすことを望むように
なったのだ。

  だが、ちょうど日本がより大きな国際的役割を果たし始めたときに、
中国と韓国という、かつて日本が支配した国々も自己主張を強め、さま
ざまな課題で日本に挑戦している。

  不幸にも、再三の靖国神社参拝と、麻生外相の物議を醸す発言は、近
年増加してきている緊張を悪化させるだけだ。
  この緊張は、日本と近隣諸国が、競争や張り合いが高まるなかで、国
益を追求しようとするかぎり、減少しそうにない。

。。。。。。。。。。。。。

  さて、こういう海外メディアでの評判を気にしたのか、当の麻生大臣
が、2006年3月13日付『アジアン・ウォールストリート・ジャー
ナル』に、「日本は中国の民主的な未来を歓迎する」と題する論文を寄稿
した。

麻生大臣の2006年3月13日の寄稿↓
英語版 http://www.mofa.go.jp/announce/fm/aso/contribute0603.html
日本語翻訳 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/18/easo_0313.html

  「20年後、日本に対する中国の影響は非常に大きくなる。(中略)東
京のタクシー運転手も、英語ではなく、中国語を話すようになるだろう」
などと、国内向けの発言とはずいぶん様相を異にしている。

  読者の方々には、この寄稿についても、ぜひ今後の成果を見守ってい
ただきたい。


  ところで、麻生大臣のライバルと目される、中国の外相を伝える記事
を発見した。その要約を、以下にご紹介したい。

。。。。。。。。。。。。。

『オーストラリアン・ファイナンシャル・リヴュー』(オーストラリア)
                                         2006年3月14日付
         −ユーモアの後ろに自信がのぞく



  中国の血気盛んなリーチャオシン外相の、型破りなユーモア感覚は、
滅多に公共の電波に乗らない。
  だが、彼が気を緩めたとき、ちょうど先週の北京の人民大会堂の会見
時のように、外交に対する中国のアプローチの興味深い本音をのぞかせ
る。

  日本や米国、台湾に対する感情の度合いや、中国のグローバルな役割
に対して自信を深めていることは、間違えようがない。

  ふんぞり返って歩くリー氏の語り口は、傲慢さを滲ませている。
世俗的な彼は、現在の大半の中国の指導者とは異なり、国外経験が豊
富だ。
  1998年から2001年まで、駐米中国大使を務め、1990年半
ばにも、国連の中国代表として、3年間ニューヨークに駐在した。

  彼は外交の罠を避けることに通じている。そして、いかにして強いメ
ッセージを発するかも、心得ている。

  人民大会堂での、彼の対日関係のブリーフィングを例に取ってみよう。

  リー氏は、日本の短所についての長い論述の中で、小泉首相を名指し
しなかった。これは、明らかに軽蔑を含んでいる。
  彼は、日本の指導者たちと述べただけだった。
  彼は、たたみかけるように、靖国神社参拝問題の重要性を強調した。

  そして、自国の軍事史に対する日本の態度にとても批判的な、ドイツ
や米国、マレーシアの有力者の友人達について、氏名を明かすことなく
語った。
  そのメッセージは、これは中国だけの問題ではなく、日本は国際的な
問題を抱えており、行動を正さなければならない、ということだ。

  そして、米中貿易不均衡については、米国が、ボーイングの飛行機以
外にも、高価な技術製品を中国に買わせれば、これほど問題にはならな
い、と述べた。

  自分のテーマならびに突飛なセンスに熱が入ったリー氏は、自分のカ
ップを持ち上げて、「たとえば、この一杯のお茶だ」と言って、しばらく
眺めた。
  そして、もし兵士がそれを飲んだら、軍需品だとみなされると説明し
た。

  リー氏の発言は、そのユーモア感覚が発揮されると、ときにきわどく
なる。
  たとえば、中国が米国に作り物のクリスマスツリーを輸出しているこ
とを指摘し、米国の環境およびエコロジーを守っていると述べた。

  そして、中国の軍備費増加に対する米国の批判には、一人当たりの金
額でいえば、米国の77分の1だと指摘した。

  リー氏の国際情勢に対する見解は、中国でさえ、なかなか公表されな
い。

  毎年、人民大会堂での記者会見は、注目を集めている。

  リー氏は、何度か面白い脱線をしたが、今年の回答は過去の記者会見
より、準備されていた。
  彼はしばしば用意された紙を読んだが、それでもいくつかの強いメッ
セージを発した。

  彼と、国際関係と世界における役割への自信を深める中国のアプロー
チを滅多に目にすることがないのは、国際的対話における損失のように
見受けられる。

  リー氏が示すように、中国は大いなる自信とともに、手を広げてい
る。

。。。。。。。。。。。。。

  われらが麻生大臣、すでに、だいぶ水を開けられている……?

  さて、お次は、初の日米豪3カ国戦略対話を控えた、オーストラリア
紙の報道の要約をご覧いただきたい。

。。。。。。。。。。。。。

『キャンベラ・タイムズ』(オーストラリア)
                                         2006年3月15日付
          −3カ国対話が、我が国を微妙な立場に置く
		  


 ライス米国務長官がやって来る・・・おおかた予想のつく、根拠のな
い、まったく不必要な、オーストラリアにとって国家的に危険な中国バ
ッシングのひとときを先行させながら。
 中国のウェンチアパオ首相のオーストラリア訪問を月末に控え、タイ
ミングは最悪だ。

 ダウナー外相は、ライス長官の米政府見解を阻止するために、最善を
尽くしている。
 彼の「建設的な取り決め」に対して、彼女の「中国封じ込め」だが、
この苦境はわれわれ自身が作りだしたものであり、最悪なのは、日中関
係悪化が今その主要な構成要素であることだ。

 今週、米国、オーストラリア、日本の外相が、初の戦略対話を行う。

 日中関係悪化、台湾問題における米日の同盟関係の戦略的重要性、イ
ンドに中国との均衡を取らせるための米国のインド核開発支援、そして、
オーストラリアの明るい未来と経済的繁栄は中国との良好な関係にあ
ることが明確になったこと。

 豪米の外相レベル対話は、50年も続いており、珍しいことではない。
 だが、豪米日対話となると、話は全然別だ。

 これは、1884年から1895年の中日戦争に始まる、100年以
上に及ぶ中日関係の動乱の血塗られたトラウマの未来の結果の混乱に
われわれを引きずり込む可能性もありうる。

 いったい、われわれは、どうしてこの不必要で潜在的に危険性の高い
国際的もつれに引っかかったのか?

 豪日の外相会談も、長年続けられてきたものだ。
 2000年のブッシュ米大統領就任直後、ネオコンの中国封じ込めと
いう課題が、米国の主要な戦略的外交的軍事的目標としていっそうの急
務になった。

 太平洋の2つの主要な同盟国と正式に取り込んで、米国の「中国問題」
をどうするかについてハイレベルの政治的決定を行うことは、米国の目
標の助けとなる。

 当初ハワード豪首相は、3カ国戦略対話を、しばらく官僚レベルにし
ておくつもりだった。

 現在のオーストラリアの「中国問題」とは、2002年半ばでさえも、
中国がこれほど短期間にオーストラリアにとって重要になるとは予測
していなかったことだ。
  
 ウェンチアパオ氏がハワード氏に尋ねそうなことは、米豪日戦略対話
の結果だ。

 日本の軍隊に自衛以上の役割を与えるための日本の憲法改正が、いよ
いよ行われそうなこと。
オーストラリアは、中国が日本と争っている、東シナ海の公海上の春
暁ガス田開発を支持するか。
 今年ハワイで行われる、米日のミサイル防衛テスト計画の進行具合。
 日米は、台湾に対する中国軍の軍事力に、深刻な脅威を感じているか。
 日本の首相は退陣前に、再び靖国神社を参拝するか。
 そして、3カ国戦略対話がどれぐらい存続するか。
 
。。。。。。。。。。。。。

 なんか、迷惑がってるみたい・・・

 さて、お次は、中国での気になる動きを報じた記事の要旨をお伝えし
たい。

。。。。。。。。。。。。。

『ニューヨーク・タイムズ』(米)     2006年3月15日付
     −中国がよきナチス党員を称え、日本に意識させる




 外側から見ると、何のへんてつもない。
 冬の霧雨がそぼ降る日、側面に足場が組まれた二階建てのレンガ建築
物の建材置き場になっている中庭で、2人の建築作業員がうろついてい
る。

 だが、69年前、この中庭は、当時中国の首都だった都市で暴れ回る
日本兵から逃れようとする中国人で、ごった返した。
 侵略者たちは、南京を6週間の恐怖の支配下に置いた。

 この建物は、ナチス党員でシーメンス社員だったジョン・ラーベの家
だった。
 彼は人々を邸内にかくまっただけでなく、ほかの外国人とともに、国
際安全区をつくり、日本人の手から20万人以上の中国人をかくまった。

 その英雄的な行為にもかかわらず、ラーベは何十年も忘れられてきた。
 彼の自宅があった土地も、今日では南京大学のキャンパスとなり、そ
の位置すらわからない。

 1997年にラーベの日記が出版されて以来、彼の著述は南京大虐殺
の中心的テーマになり、また、大虐殺の話そのものが中国に現れた新た
なナショナリズムの重要な支柱となった。

 なぜ急に、70年前の事件への関心が高まったのか。
 歴史家たちは、日本の否定に反駁し、若い中国人の愛国心を推進する
ためだという。

 しかし、70年を経た今も、死亡者数などの基本的事実でさえ、学術
的な論争となっている。
 推定死亡者数は、数万人から30万人以上までと、大きな幅がある。

 これは中国だけの話ではない。
 日本では、政治の右傾化により、かつては極右のみが主張していた虐
殺の否定が、主流の意見になっている。
 今日、多くの日本の教科書は、この事件を最小限に伝え、日本の残虐
行為を示す記述を抑えている。

 専門家たちは、大量虐殺があったこと自体は、議論の余地がないとい
う。

 ラーベの家の中庭にかくまわれた中国人の一人、83歳のムーシーフ
氏は、「川の中や路面いっぱいに死体が転がっていた」と述べた。

 だが、公式記録は乏しく、もしくは信頼性が低い。
 戦争中、日本は自国の戦死者は熱心に数えたが、中国の犠牲者はほと
んど気にかけなかった。
 敗北した日本軍は、記録を市中で焼いた。

 この事件についての中国の説明も、政治に侵されている。
 
 中国人専門家は、共産党が勝利した1949年から、日本の教科書問
題が初めて浮上した1980年代初めまで、虐殺についての真剣な研究
は行われなかったという。

 何十年もの沈黙は、中国政府が、国民軍が日本と戦ったことを認めた
くなかったこともある。

 また、南京陥落では、訓練もまともに受けていない中国人徴集兵が、
制服を脱ぎ捨てて、日本の侵略から逃げ出したことが、深い屈辱となっ
ている。

 ここ数十年、中国政府は日本に対応するため、団結を促進し社会問題
を鎮めるために、ナショナリズムを利用してきた。

 このような動きは、日本の新しい右派が、自虐的な歴史と呼ぶものを
教えることをやめ、若い世代が誇れる日本をもたらすことを狙いとした
動きの鏡となっている。

 日本の立命館大学のデイヴィット・アスキュー教授は、「日本人も中
国人も、被害者意識にしがみついてきた。中国人は戦争中に起こったこ
とついて、日本人は戦後に起こったことについて。彼らは自分の国の国
際的な地位についてほど、南京に関心を抱いていないのだ」と語った。

続く