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小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場 15

(報告:常岡千恵子)


 2006年に入ると、ポスト小泉としての安倍官房長官への関心も、グ
ンと高まってきた。

 以下に、英国のメディアによる安倍報道の要旨をご報告する。

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『ロイター通信』(英)          2006年1月10日配信
    −神社をめぐるタカ派イメージを和らげようとする、日本の安倍
 
	  
 

 日本の次期首相への競争において勝利を得ようと積極的な安倍官房長
官は、中国との緊張を悪化させるタカ派外交家というイメージを和らげよ
うとしている。

 日本の中国と韓国との関係は、小泉首相の靖国神社参拝で冷え込んだ。
 批判者は、この神社を日本の過去の軍国主義のシンボルと見ており、政
治アナリストは、安倍氏の参拝支持は、が彼のアキレス腱だと語る。

 ある欧米の外交官は、「もし"ストップ・アベ"の動きがあるとすれば、
対中・対韓関係への影響への懸念によって強められることになる。もし彼
がこの問題を和らげることができたら、彼は大丈夫だ」と語った。

 安倍氏は、火曜日、日本の指導者が靖国神社参拝を行うかどうかは、小
泉後継レースの焦点になるべきではない、と示唆した。

 彼は日曜日、日本政府は、小泉首相の靖国神社参拝が軍国主義を美化す
るものではない、もっと積極的に中国政府を説得するべきだ、と語った。
 だが、彼は同時に、自分が首相になったら参拝するかもしれない、と示
唆した。

 日本の戦時の侵略の記憶が根強く残る中国と韓国の関係は、2001年
に小泉氏が首相に就任し靖国神社参拝を始めて以来、悪化してきた。
 この神社には、日本の250万人の戦没者とともに、戦犯も祀られてい
る。
 小泉氏は、平和を祈るためにこの神社を参拝している、と述べている。

 この摩擦は日本の経済界を心配させている。
 2004年、中国は米国に代わって、日本の最大貿易パートナーとなっ
た。

 柔和な口調の、ダンディーな安倍氏の人気は、北朝鮮が2002年に日
本人拉致を認めたことを受けて、彼が強硬姿勢を示して以来、急上昇した。

 彼は、小泉首相の靖国神社参拝を理由に首脳会談を拒否してきた中国政
府を激しく非難し、中国を脅威と観る日本の選挙民の共感を得ている。

 しかしながら、この姿勢は、日本政府はアジアの近隣諸国との関係修復
の必要を認める自民党内のライバルに攻撃されやすい、だから彼は最近ト
ーンを変えたのだ、とアナリストたちは指摘する。

 靖国神社参拝を支持する麻生外相は、自民党総裁選出馬への意欲を示し
た。

 NHKが週末に行った世論調査では、38.8%が安倍氏を支持し、2
位の福田氏は5.7%だった。

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『ガーディアン・アンリミティッド』(英)    2006年1月10日付
     −確実な後継者
		  


 堅苦しく不透明な日本の政治では、数ヶ月も先のリーダーの退陣が国民
的憶測を呼ぶことは、あまりない。

 だが、かつて自民党の後継者選びを主導した裏取引は、小泉氏が約5年
前に党総裁・首相に就任して以来、屠殺された聖なる牛のひとつだ。

 そして専門家を信じるならば、安倍氏が改革続行と自民党の権力維持の
勤めを授けられることになる。

 もし彼が今秋首相になれば、おなじみの銀髪のタテガミと保守的なドレ
ス・センスの獅子王首相は、柔らかいモップヘアのヨーロッパ風にダンデ
ィな安倍氏に代わることになる。
 だが、スタイルを除くと、安倍政権は表は変わっても中身は変わらない、
という感じが強い。

 日本が直面している主要な外交課題に対する彼の見解は、小泉派のナシ
ョナリズムと直結し、分野によっては、彼はボス(注:小泉氏のこと)よ
りさらに右だ。

 彼は、冷戦中に起こった日本人拉致問題を解決するために日本は北朝鮮
に経済制裁を科すべきだと主張し、北朝鮮との交渉の初期に、拉致被害者
家族の信頼を得た。

 彼は、憲法9条を改正し、日本の軍隊が海外でよりアクティブな軍事的
役割を果たすことを支持し、中国の軍備増強を脅威と見る自民党右派の見
解に同意している。

 首相の靖国神社参拝を支持するにあたっても、安倍氏は明快だ。

 そして、支配層が政治家一族の子孫で独占されているこの国では、安倍
氏の血統はまちがいない。

 父の安倍晋太郎氏は、自民党幹事長で1980年代に外相を務めた。
 彼の母方の祖父は、A級戦犯容疑者として収監されたものの、公式には
裁判にかけられなかった岸信介元首相で、戦後日本の米国との軍事同盟の
主要な設計者である。

 小泉氏と親密な彼は、多少の貴族趣味と、最近週刊誌が報じた彼の知性
に関する疑いにもかかわらず、有権者の人気を集めた。

 世論調査では、彼は福田康夫氏のような潜在的ライバルを大きく引き離
して、1位になる。

 一方、小泉氏は、後継者レースに関わらないようにしてきたが、その試
みは成功しているとはいえない。
 自民党の誰かが、比較的若い安倍氏は今は野心を抑えるべきだと示唆し
たとき、首相は、敵に阻まれて逃げるのはよくない、と言った。

 これは断固たる承認ではないが、多くの者がいつも信じてきたことを確
かなものにした。
 安倍氏が小泉氏の確実な後継者であることを。

 だが、安倍氏の優勢は、まだ安全ではない。
 彼が首相になったら、すでに危うい中国と韓国との関係がさらに打撃を
受ける、という同僚たちの声も上がってきている。

 当然、安倍氏は、プラグマティックな側面を表わし始めている。

 彼はテレビで、靖国神社問題が誤解されやすく、中国の人々が過去の記
憶のせいで苦痛を感じやすいことは理解できるし、日本がこの誤解を解く
ためにじゅうぶんな努力をしてきたとは思わない、と語った。

  従来型の安倍氏ならば、これほど慎重ではないが、より野心的な安倍氏
の新型モデルは、迅速に政治家らしい用心深さを学んでいる。

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  お次は、シンガポール紙が報じた、新年の小泉分析の要旨をご紹介する。

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『ストレーツ・タイムズ』(シンガポール)     2006年1月13日付
        −小泉の頑迷さが日本を孤立させうる
				 


  一国の指導者が、最も大切な2つの隣国に対して悪意ある調子で新年を
スタートさせるには、勇気がいる。
  たとえ、現在の関係が最悪であったとしても。

  先週水曜日、小泉首相は、まさにこれを行った。
  彼は新年の記者会見で、なぜ中国政府と韓国政府が心の問題に介入し、
外交問題にするのか理解できない、とけんか腰で述べた。

  彼が言及したのは、もちろん、中国政府と韓国政府が不快に感じ、日本
政府との関係を冷え込ませている毎年の靖国神社参拝についてである。

  A級戦犯14人が250万人の戦没者とともに祀られているこの神社
は、アジアの国々から日本の軍事侵略のシンボルと目されている。

  だが、理解を超えるのは、小泉氏自身である。
  彼と同国人でさえも、そうなのだ。

  彼は記者会見で、なぜ日本のオピニオン・リーダーたちと知識人たちが
靖国をめぐって反対するのかもわからない、とも述べた。

  元首相たちや、学者、外交専門家も靖国問題で彼を支持しない。

  靖国神社は、近隣諸国に対する日本の戦争を指導した人々を祀っている
だけでなく、その博物館の展示も、日本の戦時の内閣が使用した大東亜戦
争という呼称を用い、日本の軍国主義を肯定している。

  小泉氏は靖国を外交問題にするべきではないというが、2001年に、
第二次世界大戦で日本が降伏し、アジアの国々にとって微妙な日にちであ
る8月15日に毎年参拝すると誓い、外交問題にしたのは彼自身であるこ
とを、都合よく忘れている。

  日本と中国との冷ややかな政治的関係は、まだ両国間の経済的関係に影
響を及ぼしていないものの、小泉氏は財界人を心配させている。

  彼の批判者たちは、小泉氏は、本当の問題を器用に彼の創作にすりかえ
ることで、外交的明敏さの欠落を補ってきた、という。

  彼は、靖国神社参拝は「心の問題」で、首相が自国の戦没者に謝意を示す
ことは自然なことだ、と主張する。

  しかし、中国や韓国は、彼が戦没者の魂に祈りを捧げ、あるいは不戦の
誓いをしていることに文句を言っているのではない。

  問題は、小泉氏が、あの悪評高い神社でこのふたつを行うと執拗に主張
していることだ。

  小泉氏は、この点を理解できないらしい。あるいは、理解しようとした
ことがないのかもしれない。

  青年時代、そして政治家になった後も、彼は靖国神社への関心を微塵も
示したことはなかった。

  多くの日本人は、たとえどのようなマイナスの意味を持とうが、小泉氏
は自らの約束を守るという美徳を行うために、参拝を続けているのだと信
じている。

  小泉氏の性格の中にある頑迷さを考えると、中国と韓国からの抗議によ
って、彼はますます譲歩し難くなる。

  最近、週刊誌や時事問題のケーブル・テレビの評論家たちが、小泉氏の
靖国に対するスタンスは"幼稚"だと述べた。
  彼らは、小泉氏は自らの利益を追及することで日本を傷つけた、と信じ
ている。

  たとえば、靖国問題は、昨年、中国政府に、日本の国連常任理事国入り
を拒否するための、都合よい理由を与えた。

  危険なのは、たとえば、新年の記者会見で目に涙をためながら靖国を語
るといったような、小泉氏の演劇的所作が、日本国民をミスリードするか
もしれないことだ。

  彼の演技は、疑いなく国内向けで、大衆の支持を呼び集めるために計算
されたものである。

  というのも、靖国問題を理解せず、中国や韓国の圧力に折れない小泉氏
は正しいと容易に支持する日本人が、とりわけ若い世代に多いからだ。

  頑迷な小泉氏は、9月の退陣まで、靖国へのスタンスを変えそうにない。

  問題は、彼が去った後も、靖国をめぐる孤立が続くかもしれないことだ。

  選挙民の間での圧倒的な人気を拠り所にしている、現在後継者レースの
一番手の安倍官房長官は、残念なことに小泉氏と同様の愚直さを示してい
る。
  彼の外交モデルは、小泉氏である。

  アジアの国々は、小泉氏の退陣で中国や韓国との争いが終わらないかも
しれないことに対して、明らかに不安を覚えている。

  時事通信によれば、火曜日、シンガポールのゴー・チョク・トン上級相
が、シンガポール訪問中の山崎拓氏に、日本の次期首相は靖国参拝を控え
てほしい、と語った。

  米国も、日本を東アジアで孤立させようと、靖国をはじめとする、戦争
問題を利用している感のある中国に対処できない日本に、懸念を表明した。

  前ホワイトハウス安全保障担当高官のマイケル・グリーン氏は、『毎日
新聞』とのインタビューで、日本には中国に対する戦略がない、と指摘し
た。

  米国の学者のケント・カルダー氏は、最近日本で開催された非公開の会
議で、この地域の国々が日本抜きで東アジア共同体をつくるという、最悪
のシナリオを怖れている、と語ったと伝えられる。

  いつも対話の機会をオープンにしていると主張する小泉氏は、ボールは
今、中国政府と韓国政府のコートにある、と日本国民に信じ込ませたかも
しれない。

  明らかに、そうではない。

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  ところで、2006年に入っても衰えを知らぬ海外メディアの日本批判
を憂慮したのか、日本の外務省の在米大使館公使が、国際的な仏紙に反駁
を寄稿した。
  その要旨をご紹介しよう。

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『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』(仏)
                                            2006年1月13日付
          −日本のナショナリズム的世論の台頭という神話;北野充・筆



  今日、一部米メディアの間で、日本の行き過ぎたナショナリズムの報道
が流行している。
  彼らは選択的に現象を寄せ集めて報道の支えとしているので、多くの人
がこれを信じることになるかもしれない。
  だが、それは本当に真実か?
  事実をチェックすると、そうでないことが示される。

  日本を批判する人々は、韓国と中国に対する日本の極端な反感が台頭し
ている、と非難する。
  しかしながら、韓国に対して親しみを抱く日本人の比率は、1996年
に36%だったが、2004年には57%だった。
  さらに、韓国のテレビドラマや俳優は、日本で非常に人気がある。

  一方、中国に対して親しみを抱く日本人は減少した。
  1989年の天安門事件と最近の暴力的な反日デモが、残念なことに、
日本の世論に影響を与えた。
  しかしながら、同時に、日中間の経済と文化の交流は、深まっている。

  もうひとつの批判は、日本が戦前の軍国主義を美化し、過去の悪行を糊
塗しようとしているというものだ。

  新しく検定に合格した教科書が、このいわゆるリヴィジョニズムの証拠
として挙げられたが、この教科書を採用した日本の学校は全体数のわずか
0.    4%で、第二次世界大戦を「この戦争は、戦場となったアジア諸地域
の人々に大きな損害と苦しみを与えた。とくに中国の兵士や民衆には、日
本軍の侵攻により多数の犠牲者が出た」と表現していることは、ほとんど
報じられない。

  さらに、小泉首相の靖国神社参拝に反対する声もあるが、彼は明らかに
日本の過去の植民地主義と侵略を謝罪し、反省を述べた。
  そして日本は、極東軍事裁判の判決の受け入れをはじめとする、サンフ
ランシスコ平和条約を戦後日本の基盤とし、依然としてこれにコミットし
ている。

  もう一つの誤った批判は、日本が危険な軍国主義を復活させようとして
いる、というものだ。

  近年、日本は自衛隊をPKO活動やイラク、インド洋に派遣した。
  日本は米国との安全保障上の関係も強化したし、国連安保理常任理事国
入りも望んでいる。
  これらの行動は、日本の従来の受動的外交からの離別と見ることもでき
る。

  だが、日本は米国と緊密に協力し、国際社会を強化する道を歩いている
のだ。
  日本の状況は、危険なナショナリズムの進行を志向するのとは反対だ。

  支配者が権威を強化するためにナショナリズムに頼りがちになるのは、
表現の自由のない非民主主義国家においてである。

。。。。。。。。。。。。。

  外務省も、海外紙上においては、米メディアの批判を認めている様子。
でも、これまで本連載でご報告したように、現実は、そ〜んな生易しい
もんじゃないんですけどぉぉぉ。

  また、日韓関係が急激に悪化したのは2005年であって、2004年
の数字じゃ、最近の傾向は示せないんじゃ……。

  上の寄稿で自ら執筆なさったように、事実をきち〜んとチェックして、
正しく認識してくださいね〜、外務省さん!!
  なんてったって、日本国を背負ったお役所なんだから、『ニューズウィ
ーク・ニホンバン』みたいな、一企業の出版物と同じじゃ、困りますよぉ〜!

     『ニューズウィーク日本版』の脚色↓
      >> 小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場 5

  尚、この外務省の寄稿の効能のほどを確かめるためにも、これから続々
ご紹介する、小泉ニッポン報道の要旨を引き続きご愛読いただきたい。

  『ニューズウィーク・ニホンバン』は、購読者のおカネが絡んでいるだ
けだが、税金で養われている外務省については、その仕事の効率をチェッ
クするのが納税者の務めというものだ。
  それでこそ、一人前の"民主主義国家"ですよねぇ〜、外務省さん!


続く