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小泉首相の靖国参拝中止をめぐる疑惑 2

(報告:常岡千恵子)


 ついでに、この質問を喚起した、『ワシントン・タイムズ』の記事の
要旨も、ご紹介しちゃおう。

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『ワシントン・タイムズ』(米)      2005年7月28日付
     −怒りを掻き立てる東京の神社
                   ;戦犯礼賛とみなされる小泉の参拝



 日本の首都の中心にある靖国神社は、一部の歴史家の間で考えられな
いようなものとして、たとえられる。
 現代のベルリンの中心地に、ナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーを
祭る聖堂があるようなものだ。

 だが、境内を訪れる数百万人の日本人にとって、この地はアーリント
ン国立墓地のように神聖なものである。

 一部の日本人は、1869年に創立されたこの神社を崇めるが、この
優雅な木造建築物と美しく管理された境内は、日本の近隣諸国の多く、
とりわけ中国と韓国と北朝鮮にとっては、日本の戦時の残虐行為への憎
悪のシンボルである。

 中国とビルマで戦った、82歳の元日本兵は、「中国人や朝鮮人のい
うことはきけない。われわれは毅然とした態度を示さなければならな
い」、そして、日本は「必要とあらば再び軍国化するべきだ、中国と戦
う以外、選択肢がない」と語った。

 東京では、7月半ばに首相の靖国参拝を求めるデモが行われた。

 靖国問題は、中国と韓国、北朝鮮だけでなく、他のアジア諸国にも悪
影響を与えた。

 政策研究大学院大学の橋本晃和氏は、「東南アジア諸国は、日本にこ
の地域のリーダーになってほしかったのに、小泉首相の中国との友好関
係の構築に失敗しているのを見て、日本に失望している」と語った。

 他方、一部のアナリストたちは、中国の胡錦涛主席のような新世代リ
ーダーたちは、靖国問題のできるだけ早い解決を望んでいる、と確信し
ている。
 彼らは、中国政府は、この地にはBC級戦犯も祭られているにもかか
わらず、それを問題にしたことはない、と指摘する。

 この神社に内外の注目が集まるにつれ、戦争犯罪の問題が重要視され
るようになった。
 多くの日本人は、東京裁判を"不当"だと信じている。
 ウルトラナショナリストの団体だけでなく、より多くの政治家、学者、
ジャーナリストが、このような見解を表明するようになった。

 天皇ヒロヒトと、日本の生物兵器部隊である731部隊は、米国の占
領軍の都合で裁判にかけられなかった、と批判派は主張する。

 2002年に拡張され新装された遊就館の担当者たちは、米国は大恐
慌から脱出するために日本に第二次世界大戦を強いたと主張する。

 遊就館で上映しているビデオ『私たちは忘れない』は、日本が真珠湾
を攻撃した時、ルーズベルト大統領の「政略は成功した」と主張する。
 また、遊就館は、「不当な」東京裁判が「歪曲した歴史観を押し付け
た」と強調する。

 靖国神社の広報部は、書面で、神社のスタンスは「信頼できる歴史デ
ータにもとづいた見方を提示し、問題を提起する・・・政治的なイデオ
ロギーにもとづいた特別の史観を強いるつもりはない」と回答した。

 子どもと教科書全国ネット21のタワラ・ヨシフミ氏は、「彼らは日
本の侵略戦争を否定したいので、東京裁判を否定するのです」と述べ、
「靖国の歴史観は、新しい歴史教科書をつくる会の主張と似ている」と
指摘し、「彼らはともに、日本によるアジアの国々の侵略と植民地化を
正当化しようとしているのです」と続けた。

 政治評論家の森田実氏は、日本の政治指導者とビジネス・リーダーた
ちの「究極的な目標は、日本を軍国化することです」と述べた。
 彼は、米国が何も言わないため、いわゆる日本の"ネオ・ナショナリ
ズム"が加速化した、と語った。
 そして、「このごろ、より多くの専門家たちが、米国は日中関係がこ
のような敵対的なものであることを望んでいる、だから沈黙を保ってい
るのだ、としばしば公言しています」と述べた。

 東洋学園大学のZhu Jian Rong教授は、米国が、なぜ一部の日本の
リーダーたちの戦争犯罪否定に対して黙っているのか、理解しがたいと
語った。
 「理解できません。東京裁判を主導したのは米国です。中国と韓国は、
米国に従ったまでです」。

 シンクタンクのカトー研究所の、防衛外交政策研究部副部長テッド・
ガレン・カーペンター氏は、「米国は、日本政府を困惑させるようなこ
とや、日本が世界情勢で普通の国の役割を果たすことを非難しているよ
うに受け止められるようなことを、言いたくないのだと思います」と述
べた。

 カーペンター氏は、「米国は、日本を中国に均衡する戦略的な錘と見
ていますが、それよりも広く、北朝鮮の核問題を含むさまざまな問題に
対処するうえでの、重要なパートナーと考えています」と語った。

 靖国神社をめぐる論争は、日本と中国、韓国の関係悪化を示すもので
ある。

 4月には、中国の主要都市で、日本政府の教科書検定と、国連安保理
常任理事国入りに抗議する、反日デモが行われた。
 デモ参加者たちは、石や瓶を北京の日本大使館に投げつけ、日本企業
を襲った。

 杏林大学客員教授の田久保忠衛氏は、「(中国のような)国家体制では、
デモを行うことは不可能です。明らかに政府が主導していたのです」と
述べた。

 新しい歴史教科書をつくる会の理事でもあり、時事通信社のワシント
ン支局長でもあった田久保氏は、日本の外交が中国と韓国に何度も頭を
下げることだという考えを批判した。
 しかしながら最近は、より多くのオピニオンリーダーやジャーナリス
トたちが、中国と韓国の批判に反応しており、田久保氏は「健全なナシ
ョナリズム」と歓迎している。

 ナショナリズムの台頭と、東京裁判の否定、小泉首相の靖国参拝は、
過去10年間における日本の政治的な空気の大きな変化を示している。

 このシフトは、政党政治における世代交代に帰するものだ、とワシン
トン大学ヘンリー・M.ジャクソン・スクールのロバート・ペッカネン
助教授は述べた。

「多くの若い日本人は、自分たちがやらなかったことについて、韓国人
や中国人から説教されることにウンザリしている。彼らは、まったく責
任を感じていない」とペッカネン氏は語った。

 そのうえ、中国の台頭と長引く不況のせいで、国民の間に停滞感が広
がり、「内向きのナショナリズム」醸成を助けた、と東洋学園大学の
Zhu教授は述べた。

 アナリストたちは、中国の台頭に加え、北朝鮮の脅威が、国際的要因
として重要だ、と述べた。
 1998年のテポドン発射、2002年の2度目の核危機、そして拉
致事件について、怒りを感じている。

 だが、アナリストたちによれば、日本は、米政府が北朝鮮について日
本とは違う関心を抱いていることを理解するようになったという。
 さらに、9・11以降は、米政府はイラクやアルカイダに気を取られ
ている。

 ペッカネン氏によれば、米政府は、拉致問題を「核ミサイルに比べれ
ば瑣末なもの」と見ており、「この件について、米国の関心は日本のそ
れと完全に一致していない。だから非常に不安定なのです」。

 過去10年間に国際情勢が劇的に変化し、日本は世界情勢においてそ
れまでとは異なる役割を果たすようになってきた。
 自衛隊初の戦地派遣は、シンボリックな動きだ。

 マッカーサーの憲法は、戦争と、国際紛争を威嚇や武力行使で解決す
ることを放棄した。
 だが、今、日本は、米国とともにミサイル防衛を研究している。
 
 一方で、日本の軍国主義の復活が近隣諸国に脅威を与えることになる、
と案じる者もいる。

 ペッカネン氏は、「日本が軍事的に攻撃的になるとは、とても考えに
くい」と強調し、「今日の日本は、1930年代の日本とは、まったく
違う。民主主義がよく確立している」と語った。

 杏林大学の田久保氏は、「米日の軍事的絆を強化することは、アジア
太平洋地域の平和に貢献する」と述べた。

 しかし、小泉首相は米政府に目を向けるばかりで、アジア諸国との関
係を危険にさらしながら、日本を"米国の51番目の州"にしてきた、
という批判もある。

 政策研究大学院大学の橋本氏は、「日本は米国流の民主主義に従う必
要はない」とする。
 「日本はどのような民主主義を望むのか? 60周年の折に、小泉氏
は、その重要なメッセージを国際社会に送ることができなかったので
す」。

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 結局、小泉首相は、"日本の正しさ"を訴える人々に支持された靖国
神社参拝さえも、米政府に気兼ねしてやめちゃった、ってことなのかも
しれない。

続く