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大手英米紙の"ピリ辛"選挙戦報道 1

(報告:常岡千恵子)


 選挙戦も、いよいよファイナル・カウントダウン突入。

 相も変わらず内向きな日本の大手メディアは、『ウォールストリート・
ジャーナル』や『ワシントン・ポスト』などの海外有力紙が現政権を支
持するような記事を掲載したときだけ、日本の読者に紹介するという、
誠に嘆かわしい傾向を急激に加速させている。

 靖国報道を見ても顕著なように、昨今の日本の大手メディアの大本営
発表ぶりは、目にあまるものがある。
 これでは、日本国民の国際情勢認識を、間違った方向に誘導している
のと同じ。(もっとも、それが彼らの使命だったりして)

 そこで、今回は、日本の大手メディアが紹介しない、"ピリ辛"選挙戦
報道の要旨を公開しちゃおう。

。。。。。。。。。。。。。。

『フィナンシャル・タイムズ』(英)  2005年8月29日付
     −危機に瀕した外交政策を無視する、日本の矮小な選挙運動



 日本の小泉首相は、突如9月11日の選挙を仕掛けて以来、巧妙な選 挙戦を行ってきた。  郵政民営化をめぐる自民党内の反乱後、有権者の注意を彼自身と自民 党改革と日本郵政公社に集中させてきた。  小泉首相の、"刺客"と呼ばれるエリートの女性候補を自民党造反者の 対抗馬とする方法は、地味な日本政治においては斬新で、その結果は目 覚しいものだった。  日本がいくつもの危急の外交課題に直面しているにもかかわらず、こ の選挙戦(の争点)からは、外交政策が著しく抜け落ちている。  たとえば、原油高、中国との関係悪化、米軍再編交渉など。そして先 週、フランスのテロ捜査官が、日本が将来アルカイダの標的になりそう だと警告した。  2週間前の終戦60周年記念日に、小泉氏は選挙戦を維持するために 中国との対立を和らげた。  日本の侵略に対し、形式的にせよ包括的な謝罪を発表し、物議を醸し た靖国神社参拝を取りやめた。  しかしそれも、年内参拝の余地を残している。  これは、うまい作戦であった。  だが、外交政策においては、岡田代表と民主党候補者たちは、たくさ ん言うべきことがある。  アジアとの友好、首相の靖国参拝禁止、岡田氏が言うところの日本の "外国人嫌いのナショナリズム"を捨てること、イラクからの日本兵撤 退。  小泉氏は、有権者にこのような問題を深く考えてもらいたくないのだ。  そのかわりに、彼は"刺客"で有権者の目をくらましたいのである。  国内改革も重要だが、小泉氏さえ、日本郵政公社の金融サービスの完 全民営化は2017年まで避けている。  それよりずっと前に、この選挙戦で無視された外交政策の矛盾が日本 を悩ますだろう。 。。。。。。。。。。。。。  海外情勢をまったく無視して、国内だけで浮かれ騒ぐ日本の選挙戦を 俯瞰した論説である。  この状況は、70年前の日本と酷似しているようで、恐ろしささえ感 じてしまう。  これほど海外渡航者、留学経験者、海外赴任者が増加し、さらにイン ターネットという国際的なツールが発達しているのに、まったくの鎖国 状態!  外国人の間では、文部科学省が一向にまともな英語教育に踏み切らない のは、外国の影響を遮断するためだという説が、まことしやかにささや かれるほどなのだが、案外、本当の話かも。    さて、次は英米有力紙の典型的な報道の要旨をご紹介する。 。。。。。。。。。。。。。 『ロサンゼルス・タイムズ』(米)      2005年8月31日付     −彩りとヒートで走り出した日本の選挙戦;       自らの政権を賭し、エリート素人をリクルートして        郵政民営化を目指す小泉
      "造反者"に"刺客"を放ったとして非難される首相は、寺を焼き尽 くして中にいる敵を殺した16世紀のサムライにたとえられてきた。  彼はガリレオ・ガリレイの精神に訴えたり、「殺されてもいい」と発言。  日本人がそこまで郵政改革に昂ぶるとは、誰が予想しただろう?  日本政治のグレーのキャンバスに大量の彩りをぶちまけている小泉氏 は、4年4ヶ月も首相を在任した、政界の一匹狼だ。  現在、再選に向けて、エリート候補を外から導入して自民党の造反者 に挑戦するという、大胆な選挙戦を展開している。 この手にそそられたメディアは、彼らを"刺客"と呼ぶ。 小泉氏は、これらの新参者たちをとりまく話題性を利用して、この選 挙の争点を郵政民営化の一点に絞り込んできた。  野党が落胆することには、首相の戦略は図に当たっているようだ。  民主党の岡田克也代表は、「すばらしいテクニックです。私たちに、彼 が成し遂げたことと、成し遂げなかったことを議論する余地を与えない」 と述べたが、「彼の技です。私は真似をするわけにはいかない」と語った。  岡田氏のキャンペーンは、年金改革や出生率の低下、中国との関係悪 化、イラク派兵をベースにしている。  しかし、与党内の衝突に取りつかれた日本のメディアは、これらの争 点にたいして注目しない。  このドラマは、小泉氏が追放した守旧派なしで、自民党を与党として 維持できるかについてだけで展開していない。  より大きな問題は、自民党の従来の厳しくコントロールされた議員創 出方式を破り、政治経験のないエリートたちを出馬させるという彼のギ ャンブルが、日本政治における根本的な変化のシグナルなのかどうか、 ということだ。  小泉氏は、改革派候補として、インターネット企業家をリクルートし た。  また、小泉氏がリクルートした有名な女性候補たちも、集中的にメデ ィアの注目を浴びている。  "改革のマドンナ"あるいは"くの一"と呼ばれる彼女たちは、ほと んど女人禁制の日本の政界に旋風を巻き起こしている。  衆議院議員477人のうち、女性はわずか33人、7%を占める。  月曜日に名古屋でキャンペーンを行った自民党の新人候補、藤野真紀 子は、「日本の過渡期です。より多くの女性が働き、今、日本の男性の態 度を変えさせなければなりません」と語った。  藤野氏は、料理研究家としてすでに全国的な知名度があり、政界入り を目指しているが、ほとんど女性ばかりが集った昼食時の集会で、料理 と政治は基本的に同じだと語った。 「人のためにすることです」。  一部の造反者たちは、ミニスカート姿の対立候補と競わなければなら ないうえでの彼女たちの優位を引き合いに出して、メディアの女性候補 をめぐる騒動に苦情を呈している。  しかしながら、一部のフェミニストと主流の政治ウオッチャーたちも、 小泉氏の手法を、有権者の注意を郵政民営化以外の争点からそらす浅薄 な策略だとして、心穏やかではない。  同志社大学大学院ビジネス研究科の浜矩子氏は、「シニカルなことに、 彼は明らかに、改革者として見られたい彼の願望にそうようにメディア を上手に使って、男女の性別の問題を利用していますが、女性の役割を 軽視しています」と述べた。  だが、浜氏は、このような著名な女性候補を出馬させることは、「数年 前には、まったく想像もできなかったことです」と認め、小泉氏は「時々、 誤った理屈のために正しいことをやってのけることがあります」と語っ た。  藤野氏自身、政治的に洗練されておらず、日中関係よりも、ペイスト リーや子どものためのパーティー開催について語るほうが、自信がある と認めている。  しかし彼女は、男性優位の日本政治では認められなかった議題である、 食の安全と子どもの栄養に関心を寄せていると言う。  藤野氏は、「日本の男性はこういう問題を理解していません。彼らは子 どもの問題を理解していません。私たちは、もっとヨーロッパのような、 アメリカのような態度に改めなければなりません」と述べた。  彼女は、「でも、小泉さんが指揮者で、私たち国民はただの奏者なので す」と語った。 。。。。。。。。。。。。。  小泉首相の鮮やかな手法とメディアの騒乱に大いに注目しながらも、 ちょっと皮肉っぽく、実は女性を軽視しているのではないかとチクリと 刺す記事は、2005年8月24日付『フィナンシャル・タイムズ』(英)、 2005年9月3日付『ワシントン・ポスト』(米)にも掲載された。  ただし、同じ藤野氏の報道でも、もっと辛口なものもある。  お次は、英国の高級紙『ザ・タイムズ』の報道の要約をお楽しみいた だきたい。

続く