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小泉ニッポン!”果敢の先制攻撃”劇場4

(報告:常岡千恵子)


『クリスチャン・サイエンス・モニター』(米)
                    2006年7月13日付
     −ミサイルをめぐり、日本と韓国の亀裂が広がる;
北朝鮮の核計画に団結した戦略で臨もうとする米国の努力が、
                  緊張のせいで困難になる
	  


 木曜日、ヒル米国務次官補は、北朝鮮が多国間協議に復帰するかどう
か不確実なままで米国に帰国するが、キムジョンイルとミサイルと核へ
の対処をめぐり、韓国と日本の間で、異例で多少厄介な展開が見られる。

 ソウルでは、(韓国政府が)キムジョンイル政権に関するネガティブ
なニュースを見逃すか、否定していることを、政府の批判者ばかりだけ
でなく支持者たちも認める。

 専門家たちは、外国人には理解しがたいことだが、この沈黙の意図は、
韓国政府に統一の準備が整うまで、おそらく20年か30年先まで、キ
ム氏の政権を維持するつもりなのだ、という。

 ノムヒョン氏は、月曜日に沈黙を破り、北朝鮮のテストそのものより、
日本政府のさまざまな対応について批判的な言葉を連射した。
 その後数日間、日本政府と韓国政府の間で、辛らつな応酬が繰り返さ
れた。

 東京の政治家たちは、北朝鮮のミサイルに対する"先制攻撃"構想を
浮上させた。
 次期総理とされる安倍官房長官は、北朝鮮が日本にミサイルを発射し
たら反撃する方法を探らなくてはならない、と示唆した。

 ノ氏の大統領府は7月11日に、日本の「脅迫的な生命は北東アジア
の平和を危うくする。これらは日本の好戦的性質をあらわにし・・・」
という声明を出した。

 だが、日本の額賀防衛庁長官は、韓国の非難に屈するには程遠く、さ
らに前進した。

 日本の『読売新聞』は社説で、額賀氏が提案した"敵基地攻撃能力"
の保持を支持した。

  この1年間、日本は韓国のドクトの領有権主張に挑戦し、韓国を怒ら
せてきた。

 だが、日本がミサイル・テストに過剰反応してきたとすれば、韓国は
沈黙を保ち続けた。

 外交官や米軍筋や韓国のジャーナリストたちは、ノムヒョン政権の北
朝鮮についての沈黙は新しいものではない、という。

 韓国政府は、キムデジュン前政権当時から、北についての批判的ニュ
ースを抑えており、統一に向けて、段階的に北へのアプローチを変える
ことに成功した。
  批判者たちは、このために韓国の国民が北の犯罪や虐待に関して無知
になり、韓国に対する不信の種を米軍に植え付けている、と語る。

。。。。。。。。。。。。。

 さて、以下の社説を掲げた米有力紙は、中国に対して強い警戒感を抱
き、2005年10月17日の小泉首相の靖国神社参拝についても、行
為そのものには道義的問題があるとしながら小泉首相は自らに誠実で
あった、とエールを送っていた。

  『正論』2006年1月号による報道のおさらい↓
 >>小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場 9

  と・こ・ろ・が……  その要旨をお伝えする。

。。。。。。。。。。。。。

『ウォールストリート・ジャーナル』(米)   2006年7月13日付
          −日本の核武装?
		  


  日本がどれぐらいの時間で核武装できるかは、数日間か数週間という
推定はあるものの、誰も知らない。
  だが、日本は60年間、核保有国になることを控え、軍事的に穏やか
だった。

  しかしながら、北朝鮮の独裁者の軍事的脅威を支持する中国と韓国の
せいで、日は再び昇ることになるかもしれない。

  これが、今週の注目すべきだが過少に報道された、日本が北朝鮮のミ
サイル基地を軍事的先制攻撃で叩くことを望むかもしれない、という発
言の意味である。
  安倍官房長官は「議論を深める必要がある」と述べ、防衛庁長官も同様
の発言を行った。

  安倍氏が言及した議論はすでに始まっており、彼は世論を反映してい
るだけだという側面もある。

  9月に退陣する小泉氏は、日本が"普通の国"になることを繰り返し
語ってきた。
  日本はすでに、非戦闘兵士600人をイラクに派遣するなど、米国と
の軍事同盟を大きく広げた。

  次の改革は平和憲法の改正かもしれない。
  次期首相とされる安倍氏も、憲法改正を支持している。
  小泉内閣は、その第一歩として、先月、防衛庁を省に格上げする法案
を国会に提出した。

  日本の新たな自己主張の強さは、国連でも現れている。

  一方、中国と韓国の北朝鮮政府のミサイル・テストに対する反応は、
日本に強い軍隊の保持が必要だと思わせるだけだ。

  北東アジアは、朝鮮戦争の終結以来、米軍が提供する平和と安全保障
の下に、繁栄してきた。
  日本政府は、米国の核の傘の下に留まる恩恵を賢く理解してきたが、
国内の政治的かつナショナリスティックな弾みが起動すると、抑えるこ
とが難しい。

  中国の従属国の独裁者に対する戦略的シニシズムと、韓国の素朴な融
和の取り合わせは、近隣をさらにとても危険な場にしている。
  北朝鮮が世界を無視し、世界が何もしない状態が続ければ、軍事的に
強硬で、おそらく核武装した日本の登場が避けられなくなる。

。。。。。。。。。。。。。

 以前、2005年10月17日の小泉首相の靖国参拝以降、小泉ニッ
ポンへのスタンスを変えた英一流経済誌をご紹介したけど、こうやって、
どんどんお友達がいなくなっちゃう・・・?

 英一流経済誌の転向↓
 >>小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場 7


  以下も、日本の"先制攻撃論"報道の要旨をご紹介する。

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『マニラ・ブレティン』(フィリピン)   2006年7月13日付
   −北朝鮮のミサイル・テストが、
日本政府に出現しているタカ派を浮き彫りにする;
 東京−北朝鮮の弾道ミサイル・テストの意図が何であれ、
   少なくとも日本内部の安全保障強硬派にとって好ましい時に到来した



  この地域で、日本ほど、このミサイル発射を激しく批判した国はない。
  その中で、ひときわ大きな声があった。
  政府スポークスマンの安倍晋三氏の声である。

  世論調査によれば、日本人の大半が51歳の安倍氏を新首相に望んで
いる。

  今週、安倍氏は、日本は平和憲法下で北朝鮮のミサイル基地への先制
攻撃が可能かどうか検討するべきだ、と述べた。

  ウォッチャーたちは、この言葉は主として北朝鮮への警告だが、安倍
氏が国民に強いリーダーとしてアピールするためのものだとも見る。

  すでに安倍氏は、拉致問題で強硬な姿勢を取ることで人気を稼いでき
た。

  また、彼は、自衛のみを目的とした武装組織でなく、通常の軍隊を保
持できるよう憲法改正を提唱する、保守派の主導者として知られる。

  北朝鮮のミサイル・テストは、この動きへの支持を得るための機会か
もしれない。

  安倍氏はまた、小泉氏の毎年の靖国神社参拝を強く弁護した。
  論争の的の靖国神社には、戦犯も祀られている。

。。。。。。。。。。。。。

『ロイター通信』(英)                   2006年7月13日配信
           −分析: 北朝鮮のミサイル危機後に攻撃される日本外交

		  


  先週、ミサイルを発射したのは北朝鮮なのに、なぜ日本が非難される
のか?

  国連安保理決議を追求した日本は、中国と韓国から激しい批判を浴び
た。

  コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授は、「日本が国際的安
全保障問題の前線に立つのは、第二次世界大戦以降初めてだ」、「下積み
不足で転落しかねない」と言った。

  アナリストたちは、ロシアにも反対された日本のイニシアティヴに対
する敵意は、各国の国内政治とこの地域の地政学による。

  日本は、中国侵略と朝鮮半島の植民地化を行ったため、中国と韓国、
北朝鮮から、いまだに深い猜疑の目で見られている。

  過去をめぐる苦い思いは、現在、地域の勢力をめぐる競争意識を煽っ
ている。

  これは、中国経済の覚醒と、平和憲法の制約を捨て、同盟国の米国と
ともにグローバルな安全保障でより大きな役割を果たそうとする日本
によって、誘発された。

  多くの人々は、日本の小泉首相の靖国神社参拝によって不信が掻き立
てられたと、非難する。
  靖国神社には、戦没者とともに戦犯が祀られている。

  専門家たちは、韓国のノムヒョン大統領は下降する国内の支持を上昇
させるため、反日の論理を利用しているが、小泉氏の参拝が大統領に攻
撃の材料を与えている、という。

  この度のミサイル発射以降、日本は先制攻撃能力を取得するかどうか
の議論を復活させ、この地域を揺るがした。

  安倍氏は"先制攻撃"という言葉こそ使わなかったが、彼とその他の
指導者たちは、敵が攻撃に"着手"した場合に敵の基地を攻撃する能力
を保有するかどうかの議論をするべきだと述べた。
  この発想は、防衛専門家が"急迫の脅威"と呼ぶところの状況をも含
む。

  マサチューセッツ工科大学の日本専門家、リチャード・サミュエルズ
氏は、「日本が非難されているのは、近隣諸国を動揺させるような気迫
と意気込みで先制攻撃の問題を振り回したからだと思う」と語った。

  この議論は、一部の日本のグループの、海外での攻撃能力を取得した
いという、長年の念願を反映している。

  だが、日本国民の拉致という情緒的な問題で北朝鮮に対し強硬姿勢を
取ることにより人気を得た安全保障のタカ派の安倍氏は、強硬な発言を
行うことによって首相になるチャンスを高めるという賭けに出ている
ようでもある。

  サミュエル氏は、「安倍氏はうまくやった……拉致問題を掲げて国民
的ステータスを得た」と述べた。

。。。。。。。。。。。。。

  "急迫の脅威"という条件の特殊性も指摘した、かなり厳しい内容だ。

  ところで、この記事に登場する、2004年に日本政府から旭日重光
章を授与された知日派のカーティス教授は、以前、国際的に発行されて
いる英経済紙で、日本は広報の地球規模的大失敗に陥っていると指摘し
たが、今回の"先制攻撃論"によって、その大失敗はさらに深みにはま
ってしまった様子。

  カーティス教授による"日本の広報の地球規模的大失敗"の指摘↓
 http://www.higashi-nagasaki.com/e_pub/EE2006_06_z01_18.html

 旭日重光章を授与されたカーティス教授↓
 http://www.cgj.org/jp/i/news58.html

 ここでいう"広報"とは、外務省が海外各紙に送りつけている抗議の
手紙や寄稿のことではない。
とくにあの戦争にまつわる話題は、"日本は悪くない"と言えば言う
ほど、計50カ国以上の旧敵国や旧植民地国の読者に、"やはり日本は
反省していない"という印象を与えてしまう。

 これまでご紹介した記事をご覧になっておわかりのように、抗議の手
紙や寄稿は何の効果ももたらさない。

 成果の上がらぬ、外務省による寄稿や抗議の手紙の例↓
 http://www.higashi-nagasaki.com/e_pub/EE2006_06_z01_15.html
 http://www.higashi-nagasaki.com/e_pub/EE2006_06_z01_16.html
 http://www.higashi-nagasaki.com/e_pub/EE2006_06_z01_19.html


 効果的な広報活動とは、政治家による外交的発言のことなのだが、こ
の1年以上、日本はずっとトホホの大失点続きのようだ。

 麻生大臣の発言への反響例↓
 http://www.higashi-nagasaki.com/e_pub/EE2006_06_z01_10.html 
 http://www.higashi-nagasaki.com/e_pub/EE2006_06_z01_17.html
 http://www.higashi-nagasaki.com/e_pub/EE2006_06_z01_18.html
 http://www.higashi-nagasaki.com/e_pub/EE2006_06_z01_20.html

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『ザ・ネルソン・メール』(ニュージーランド)
                    2006年7月13日付
          −対テロ戦争の勝者はほとんどいない



  侵略者たち(注;米国をはじめとする多国籍軍を指す)は、イラクが
内戦に引き込まれていくのを阻止できない様子だが、これはブッシュ政
権の他の対テロ戦争の失敗を覆い隠しているだけだ。

  ブッシュ氏の第一のターゲット、オサマ・ビン・ラーディンは、欧米
をあざけり続けている。

  これと同様に明白なのは、ブッシュ政権の対北朝鮮政策が深刻に無効
になっていること、あるいは少なくとも有効ではないことだ。
  アナリストたちは、今日の北朝鮮政府は、13個の爆弾の製造にじゅ
うぶんなプルトニウムを持っていると示唆する。
  これは、ブッシュ政権スタート時より、ずっと多い。

  先週のミサイル発射は、北朝鮮が、欧米の敵にとって、主要な武器デ
ィーラーだということも思い出させた。

  他方、このミサイル発射で、一部の日本政府当局者が、ブッシュ氏の
外交の教科書から、ある言葉をそのまま採用した。先制攻撃である。

  最新の報道は、日本の政府当局者たちが、"日本に発射される直前の
ミサイル"への先制攻撃が、憲法枠内の自衛の定義に収まるかどうかを
検討していることを示している。

 対テロ戦争は、世界をより平和にするためのものとされていた。
  米国はイラクで泥沼にはまり、イスラエルと近隣諸国が全面紛争に近
づき、イランの野望に対する懸念、北朝鮮でボタンを押すクレージーな
リーダーと、平和と安定という目標は、かつてなく遠のいたようだ。

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 次は、前出の、小泉ニッポンへのスタンスを変えた英一流経済誌の報
道の要旨をお伝えする。

 転向後の報道の要旨↓
 http://www.higashi-nagasaki.com/e_pub/EE2006_06_z01_18.html

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『エコノミスト』(英)          2006年7月22日号
     −日本外交;自己主張のトレーニング
             日本政府と中国政府;目先を変えて硬球
		  


 7月5日にキムジョンイル政権が7発のミサイルを発射した北朝鮮
の爆発で、日本は、ふだんは主導より追従に傾きがちな自国の外交官た
ちも驚くような、目的意識を示した。

 これは、現代人が知る限り、日本が初めて外交の主導権を握ったとき
であり、自国が世界の中でより積極的な役割を果たすことを願う多くの
政策決定者は、そろそろその時が来た、という。
 その一人は、「日本は処女を喪失した」と自慢する。

 だが、日本の強硬姿勢は、とくに米国、英国、フランスの賞賛を得た
ものの、その誇張めいた反応は、支持国の間にも不安を与えた。

 さらに、日本の大騒ぎと怒りは、安倍官房長官が国内向けに演出した
もののようだった。
 彼の国内での人気の理由のひとつは、北朝鮮への強硬姿勢にある。
 ミサイル発射後、安倍氏は公然と、平和主義の日本が北朝鮮のミサイ
ル施設を先制攻撃することを考案した(現在の日本にはその手段がない
にもかかわらず)。
 
 だが、日本の積極性は、北朝鮮の6カ国協議復帰への外交に望みをか
けなくないような印象を与え、実に悲嘆に近い結果に陥った。
 日本がひたすら騒いでいるときに、中国はピョンヤンに代表団を派遣
すると申し出た。
 日本は、同盟国かつ師である米国に圧力をかけられ、安保理決議案を
数日取り下げることに同意した。

 もし中国が北朝鮮の6カ国協議復帰を果たしていたら、日本外交はひ
どい誤算にみえただろう。

 経験豊富なウォッチャーたちの中には、日本の新たな積極性に疑念を
抱く者もいる。
 彼らは、"押せ押せ"の手法の問題は、実際の交渉相手の外国よりも、
日本国内のほうに効くということだ、という。

 だが、日本はついに外交の処女を失ったようであるから、もう元には
戻れない。

。。。。。。。。。。。。。

 以上、日本が"先制攻撃論"を唱えた以降の海外英文メディア(中国
と韓国は除く)の報道のごく一部を要約してご紹介した。

 親分の小泉首相同様、現政権には、一見おしゃれな紳士風でいながら、
TPOをわきまえない閣僚が多いようだ。

 米国をはじめ、関係諸国が事態を丸く納めようと努力している矢先に、
一国だけ意気込んで"先制攻撃"を論じちゃうのは、70年以上も前の
日本同様、トンチンカ〜ン!!

 TPOを忘れた小泉首相↓
 http://www.higashi-nagasaki.com/e_pub/EE2006_06_z01_23.html


 国際社会にアピールしたいなら、せめて国際的マナーをわきまえてお
いていただきたいものである。
 くれぐれも、他国にあの戦争を連想させちゃうような、"ニッポンの
ぉ〜!"的アプローチだけは、やめてくださいねェ〜!!


 ところで、戦火が広がる中東に2006年7月12日に一番乗りした
小泉首相は、海外メディアにほとんど相手にされなかったのに引き換え、
この"先制攻撃論"は、すっかり今後の日本のイメージとして定着した
ようで、ミサイル騒動が終わったあとも、以下のような報道が続いた。

  その要旨をお伝えする。

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『オーストラリアン・ファイナンシャル・リヴュー』(オーストラリア)
                        2006年7月24日付
     −安倍が次期首相のトップ候補に躍り出る



  2週間前、日本が北朝鮮のミサイル・テストのニュースで目覚めたと
き、一連の政府声明の発表での小泉首相の不在が目立った。

  そのかわり、最後のミサイルが発射される前に、安倍官房長官が、重
大な結果と迅速な制裁を警告していた。
  彼は、日本の平和憲法にもかかわらず、先制攻撃まで口にした。

  しかしながら、最も明示的な付随被害は、金曜日の夜に、安部氏のラ
イバルの福田氏が総裁選不出馬を発表したことだった。

  昨年の新内閣組閣以来、小泉首相は安倍氏を育ててきたが、官房長官
がミサイル・テストへの対処の前面に出たことで、このことがより明確
になり、以前から高かった支持率がさらに上昇した。

  テストは、安倍氏にとって、非常にタイミングのよい政治的贈り物だ
った。
  この政界の貴族は、拉致問題解決という事実上たったひとつの政策の
みで、51歳の若さで体制のトップに躍り出た。

  福田氏は年齢を理由に出馬を断念したが、安部氏と福田氏の争いは、
実は日本の近隣諸国に対するアプローチの違いといえる。

  安倍氏は、ネオコンや、首相の靖国神社参拝を支持するナショナリス
ト・グループと近い。
  靖国神社には、他のアジア諸国の思いなどお構いなしに、戦犯が祀ら
れている。

  気位の高い福田氏は、最近の世論調査で勝算が無くなったので、出馬
を断念したようだ。

  これを額面どおりに受け止めれば、彼の退場は、騒々しい街宣車から、
もっと思慮深くて若い自民党議員まで、日本で高まるナショナリスト勢
力の微妙な勝利をしるしている。

  一方、ウォッチャーの中には、経済界とメディアがより穏やかな対中
関係を求めているので、安倍氏はこれを無視するわけにはいかず、実質
的に福田氏が議論を制した、という者もいる。

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『シドニー・モーニング・ヘラルド』(オーストラリア)
                                      2006年7月29日付
          −ライジング・サン;
        次に控えるリーダーは、日本にツメを望むタカ派


  大半の評論家が信じるところによれば、猛烈な愛国心を抱き、キャシ
ー・フリーマンが直面した葛藤に思いを馳せた右翼ナショナリストが、
確実に日本の次期首相となる。

 政界の名門出身の安倍晋三氏は、オリンピックで優勝したフリーマン
が、オーストラリアとアボリジニの両方の旗を掲げてヴィクトリーラン
をしたとき、「オーストラリアの期待を一心に集めた」と、今月出版し
た『美しい国へ』に記した。

 安倍氏は、オーストラリアと、米国、インド、日本で戦略的"民主主
義同盟"を構築し、彼の祖国の歴史的敵国である中国を牽制することを
支持している。

 慶応大学の添谷芳秀教授は、「安倍氏は、対米戦争までも間違ってい
なかったと考えているようにみえる」、「彼の東京裁判に対する見解は、
政治的理由で本人は明言しないが、よく知られている」と語った。

 「このような姿勢は、日本の成功のよりどころとなった戦後の国際社
会の基礎である、サンフランシスコ平和条約の正当性を否定するものだ。
彼の史観は、少なくとも理論上、米国と国際社会のほぼ全体と敵対する
要素を内包している」。

 安倍氏は、愛国教育を支持している。

 2001年には、天皇の擬似裁判を報じたNHKのテレビ番組の修正
に関与したとされる。
 法廷では、天皇が慰安婦連行で有罪とされたが、番組から判決が削除
された。
 安倍氏は、政治的圧力をかけた証拠があるにもかかわらず、介入を否
定した。

 彼は、戦犯と戦没者を祀る靖国神社も参拝している。

 防衛のタカ派で、北朝鮮に敵対的な安倍氏は、3週間前、北朝鮮のミ
サイル・テストへの対応として、日本は先制攻撃を検討するべきだと発
言し、国際社会を警戒させた。

 米国の戦略アナリストたちによれば、彼の発言はホワイトハウスを心
配させた。

。。。。。。。。。。。。。

 尚、上の記事は、同日、オーストラリアの『ジ・エイジ』にも掲載さ
れた。

 それにしても、ホワイトハウスまでビビらせちゃうとは、さすがは、
"ミスター先制攻撃・闘う政治家・日米豪印同盟論者"!!

 さて、次は、日本の大手メディアが例によって"黙殺"した情報をお
伝えする。

。。。。。。。。。。。。。

『ジ・オーストラリアン』(オーストラリア) 2006年8月2日付
     −小泉、神社についてダウナーの意見を聞く



 アレクサンダー・ダウナー氏(注:オーストラリアの外相)は、退陣
間近の日本の小泉首相に、彼と日本の長老政治家たちの靖国神社参拝に
対するオーストラリアの懸念を伝えた。

 この地域の他国の政府高官同様、ダウナー氏は、小泉氏が8月15日
にこの物議を醸す戦争追悼施設に参拝するかどうか、もし参拝するなら
ば、日本とアジアの関係、とくに中国と韓国との関係がどれだけ犠牲に
なるかを懸念をもって見守っている。

 北東アジアの政治的敵対は、現在、深刻に燃え上がっているが、小泉
氏は退陣前にこの記念日に参拝して、自ら政権に名誉を与えることを固
く決意しているようだ。

 ダウナー氏は、昨日、小泉氏の後継者として注目され、8月15日の
靖国神社参拝を習慣としている安倍官房長官とも会見した。

 小泉氏に、オーストラリアの参拝反対の理由がA級戦犯の合祀にある
ことを説明したダウナー氏は、「見守るだけだ」と語った。

。。。。。。。。。。。。。

 日本の大手メディアは、ダウナー外相の日豪防衛交流の提案しか報じ
なかったけれど、実は、こ〜んな大事なことも議題にあがっていたのだ!

 これで、中国、韓国、シンガポール、マレーシアに続き、オーストラ
リアも公式に首相の靖国参拝に懸念を表明していたことになる。
 
。。。。。。。。。。。。。

『ザ・クーリエ・メール』(オーストラリア) 2006年8月5日付
     −タカ派が控える



  来月、タカ派の安倍氏が小泉首相の後継者として支持されるなか、日
本と中国・韓国との不安定な関係は、さらに揺さぶられようとしている。

  小泉氏は、250万人の戦没者ととも戦犯が祀られている、悪評高い
靖国神社を参拝し、近隣諸国を苛立たせた。

  だが、昨日は、51歳の安倍官房長官が4月に靖国神社を参拝したこ
とが発覚した。
  この展開は、中国政府と韓国政府に受け入れがたいものになるだろう。

  これは、安倍氏が、日本が戦争犯罪を認めないことに対する論争のさ
なかに、首相に就任することを意味する。

  今月、小泉氏が日本の敗戦記念日の8月15日にこの神社を参拝すれ
ば、さらに問題が広がる可能性が高い。

  安倍氏は、自らが強硬派のタカ派であることを隠さない。

  新著『美しい国へ』では、自らを闘う政治家だと記した。

  彼のタカ派としてのステータスは、北朝鮮と中国に対する独自の強い
見解で、高められた。

  彼は、平和主義の教科書を修正しようとする、国会議員の会の事務局
長になった。
  この会は、帝国陸軍の戦時の残虐行為を否定する教科書を振興してい
る、と糾弾されている。

。。。。。。。。。。。。。

 安倍官房長官の極秘参拝は、同日、『ジ・オーストラリアン』、『デイ
リー・テレグラフ』、翌日の『サンデー・タイムズ』などのオーストラ
リア各紙も、こぞって報じた。

 オーストラリアは、キビシイなぁ〜。

続く