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さて、2005年12月に入ると、国内で画期的な特集記事が発表され た。 12月1日発売の、我らが『正論』2006年1月号の「世界の『反日 レッド・ペーパー』研究」である。 これは、たいへん秀逸な特集なので、ご興味のある方は、ぜひお近くの 図書館などで精読されることをオススメしたい。 とくにありがたいのは、私が読めない言語のメディアを取り上げてくだ さったことである。 この特集は、仏米中韓独の大手メディアの日本報道を報告。 まずは、フランスのメディアの日本報道だが、天皇や戦争責任に関して、 こぞって批判的だということが、よ〜くわかる。 とくにヨーロッパでは、天皇制の存続に対しても手厳しい議論が多い。 『正論』2006年1月号51ページ下段 さらに特筆すべきは、上に示すように、かつての敵国ドイツに対する評 価が高いこと。 逆にいえば、日本はドイツの外交再建のために、そしてEU結成のため に、これまでずいぶん貢献してきていることになる。 日本はドイツに学ぶべきだという論調は、英国のメディアにも多く、何 も、中国や韓国の十八番ではない。 お次は、米紙の日本報道についてだが、すでにおなじみの『ニューヨー ク・タイムズ』と、例の『産経新聞』絶賛のロバート・ノバク氏のコラム を掲載した『ワシントン・ポスト』を槍玉に挙げている。 ロバート・ノバク氏のコラムのおさらい↓ >>小泉ニッポン!"東アジア一人ぼっち"劇場 5 この2紙は、米国の二大有力紙とされているが、米国の主要紙がともに "アカ"の"反日"ということか。 もしそうだとしたら、この2紙は、"アカ"嫌いの米国で、どうやって 有力紙の地位を維持してきたのだろう? 『正論』2006年1月号58ページ中段 この記事は、"強い日本"を支持する、米経済紙『ウォールストリート・ ジャーナル』の親日姿勢に慰めを見出しているのだが、その『ウォールス トリート・ジャーナル』にしても、小泉首相の靖国参拝については、「さ きの大戦での表現しがたいほどの恐怖の罪を問われた人物たちの霊に参 拝することには明らかに同義的問題はあるだろう」と報じたと伝えている。 つまり、ロバート・ノバク氏のコラムも指摘しているように、よほどの 親日米国人でも、日本の首相の靖国神社参拝にはギョギョギョ!と来ちゃ うことを図らずも露呈した、秀逸なる報告である。 さて、中国や韓国の論調は、日本の大手メディアもよく報じているので、 本稿では省略させていただき、ドイツの日本報道について触れておきたい。 この『正論』の報道によれば、ドイツでも日本の無反省ぶりは批判され ている。 とくに、戦勝国のフランスに受け入れられるよう努力してきた国だから、 小泉首相の、相手の神経を逆なでするような行為は、なおさら不可解のよ うだ。 『正論』2006年1月号72ページ上段 以上のように、欧米の靖国神社観も、中国や韓国のそれと同じだという ことを、くっきりと浮き彫りにした、誠に有意義な特集である。 唯一の難点は、執筆者たちが、いわゆる"自虐史観"が国際常識だと理 解していないことだが、これは、彼らが別々に原稿を書いているので、執 筆中は日本とその国の二国間問題として捉えているからだと思う。 各執筆者のセンセイがたが、一つの特集としてまとまった全体をお読み になれば、実は日本はあの戦争時みたいに包囲陣の中にあるのだ、とハタ とお気づきになるだろう。 いずれも歴史にお詳しいらしい執筆者の諸センセイがたのこと、そのへ んは歴史にかんがみて、必ずや聡明な判断を下されることと信じている。 2005年12月に入っても、海外紙の小泉ニッポン!報道は衰えず、 すっかり"極東の毎度お騒がせ小僧"として定着したようである。 次は、日中関係悪化に米国の関与を求める、ある米紙の社説の要約をご 紹介する。 。。。。。。。。。。。。。 『ボストン・グローブ』(米) 2005年12月5日付 −中日の難題 最近、米国を、中日間で拡大する危険な亀裂を辛抱強く修繕する、関係 改善のセラピスト役として想定することは、容易ではない。 だが、これこそが、これらのアジアの2つの大国が必要としているもの である。 グローバルな平和と繁栄のために不可欠なものとして、日本政府と中国 政府の間の争いを解決することより重要なことは、数少ない。 これらの争いのいくつかは、感情的なものだ。 また、資源と地域的影響力をめぐる、従来からの競争に根ざしたものも ある。 米政府は、この二国民間の反目の原因を取り除くことが米国の利益にか なうことを明示し、和解プロセスに取り掛かるべきだ。 そのためには、中国が米国に対して抱いている、米国が日本に憲法9条 放棄させようと奨励するつもりでいるという疑惑を、ブッシュ政権が晴ら さなければならないだろう。 同時に中国は、日本では右翼政治家が、愛国的独断性の波に乗じて台頭 していると見ている。 彼らの影響力は、日本の教科書が、大日本帝国の中国での残虐行為を否 定するよう書き換えられた件において、歴然としている。 日本の小泉首相の靖国神社参拝も、同様に、日本にナショナリズムの復 活の恐れがあることを中国に確認させるものだ。 中国の共産党指導者たちは、日本による戦争犯罪の否定に対し、民衆の 怒りを煽って、状況を悪化させた。 彼らの権力独占を正当化していた毛沢東主義を放棄したかわりに、彼ら は粗野な愛国主義を誘導した。 両国政府に古い憎悪を掻き立てることをやめるよう助言を与えるほか に、米国は現在の6者協議を、北東アジアの安全保障問題を話し合う、恒 久的なフォーラムへと制度化するべきだ。 米政府は、地域的なエネルギーのコンソーシアムの創設を促して、海底 の天然ガス田をめぐる危険な争いに終止符を打つこともできるだろう。 とりわけ、米政府は、現在の中日関係の悪化は、米国や世界の利益に沿 わないばかりか、損なうものであることを、アジアのすべての国々に明確 に示さなければならない。 。。。。。。。。。。。。。 戦後、米国は、"逆コース"で日本の戦争責任を曖昧にして冷戦に利用 したのだから、米政府が解決に乗り出すのは当然なのかもしれない。 ところで、次にご紹介する、米国の有名保守シンクタンクのディレクタ ーによる論評は、上の米紙の社説が論じるところの、中国が米国に対して 抱く疑念を、そのまま立証するような内容だ。 その要旨をご覧いただきたい。 。。。。。。。。。。。。。 『フィナンシャル・タイムズ』(英) 2005年12月5日付 −世界が、日本を普通の国として見る時が来た: ゲイリー・シュミット筆 先月の自民党50周年で、憲法9条の改正案を発表した。 第二次世界大戦後の休戦あるいは和平条約同様、この改正案は、あの戦 争の終結を示すものである。 この改正は、日本が平和にコミットし、平和維持のために軍隊が必要な 場合があるとを認めることを、再び強調するだろう。 もし採択されたならば、この改正で、日本が戦後60年を経て、ついに 軍事的に"普通の国"になったことを示すことになるだろう。 しかしながら、あの戦争のせいで、憲法から平和主義を排除することに なれば、必然的に近隣諸国の反響を呼ぶだろう。 彼らの不安は、小泉首相やその他の人たちの靖国神社参拝のせいで、和 らぐことはなかった。 それでも、この変更が日本のハイパーナショナリズムの復活を反映する ものだという懸念は、大袈裟だ。 まず第一に、これは、先祖崇拝という、日本の文化的規範を無視してい る。 第二に、そしてより重要なことだが、半世紀に渡る日本の国際舞台にお ける平和主義的、より大きく責任を果たしつつある行動を、無視している。 鍵となる転換点は、湾岸戦争で、日本が多国籍軍の資金的援助しかでき なかったことだ。 日本は、明らかに、小切手を切る傍観者だったことを恥じた。 以来、日本は国連PKOでさまざまな役割を果たしてきた。 最近は、日本の軍隊はアフガニスタンやイラクでの、米国主導の作戦に 協力した。 そして2004年の南アジアの壊滅的津波に対し、ついに日本の軍隊は、 米国、インド、オーストラリアの軍隊とともに、大きな役割を果たした。 自民党の改憲への動きは、よき隣国や同盟国として行動するだけのもの ではない。 日本国民は、厳しさを増す地域に住んでいる。 北朝鮮が核開発や日本へのミサイル発射を行う一方、中国は軍備増強を 図り、日本の領海や領空に海軍艦艇やジェット機を送り込んでいる。 さらに、日本指導者たちは、台湾有事が日本の安全を脅かすと認識して いる。 だが、この変更の理由が何であれ、重要なのは、日本が実際にどのよう に新しい役割を果たそうとしているかだ。 日本は米国との同盟を強化してきた。 米政府は、ゆっくりだが確実に、アジアの民主主義の友好国と関係を広 げている。 これは、日本が孤立しているわけではなく、日本が自らの国際舞台での 役割を、ほかの民主主義国との連携に結びつけることによって正当化して いるということだ。 また、先述したように、日本のリベラリズムが表面的なものだとはいえ ない。 9月の選挙では、小泉首相が、日本の従来の不透明な政治経済システム の改革に、(国民から)明確な負託を受けた。 これらの国内変化と、海外での役割拡大のための憲法改正への、国民の 支持を得た小泉氏らは、日本をかつて前例のない、そしてリベラルな道 に置いた。 これは、あなたたちの祖父の世代の日本ではない。 日本の友好国が日本のためにできる最良のことは、国連安保理常任理事 国入りを含め、日本の国際舞台でより大きな役割を果たすための努力を支 持することだ。 第二次世界大戦は、半世紀以上前に終わった。 日本は絶対に歴史を忘れるべきではないが、われわれは現在の日本を認 めるべきだ。あの戦争は終わったのだ。 。。。。。。。。。。。。 米国の保守シンクタンクが、このようなことを堂々と唱えているのだか ら、前出の中国の懸念も、根拠がなくはないといえよう。 それに、このような論評が出てくること自体、逆説的に、いかに世界が 日本を"普通の国"としてみようとしていないか、ということを示唆して いるような・・・。 だけど、小泉首相は2005年9月の選挙の争点を郵政民営化に絞った だけなのに、いつ"従来の不透明な政治経済システムの改革"を掲げてた んだろー??? ましてや、"改憲"なんて、国民の負託を受けたっけ? それに、米政府だって、実際には、日本の国連安保理常任理事国入りに は冷たいし。 常任理事国入りで日本を釣って、早く憲法改正させちゃおうとしている、 と感じるのは、筆者だけかしらん? ところで、この論評を掲載した英紙本体は、小泉首相の靖国神社参拝に 批判的であること、海外英文メディア(中国・韓国を除く)では、このよ うな論評が少数派であることも、付け加えておく。 |
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