活動ゴジラ・怪獣関連特撮ファン・常岡千恵子の怪獣史観+α

特撮ファン・常岡千恵子の怪獣史観

『スター・ウォーズ』サーガの変節と米帝国主義の肥大 3-5



 ヨーダの果敢な奮闘もむなしく、分離主義者の指導者・ドゥークー伯爵は、
まんまと逃げ去った。だが、クローン軍の活躍で、事態は一応収拾する。
 オビ=ワンは、クローン軍のおかげで一件落着したと安堵するが、ヨーダは
クローン戦争の始まりを予言する。共和国では、今回の一件をきっかけに、強
大なクローン軍を保持することになった。
 一方、アナキンとパドメは、夕陽に包まれたナブーの湖畔で、ひっそりと結
婚式を挙げる。

 『エピソード2/クローンの攻撃』は、銀河共和国をめぐる騒乱を背景に、秀
でたジェダイの資質を持ったアナキンが、暗黒面へと踏み出す過程を描いた、
壮大な物語である。しかしながら、前作を超える最先鋭の特撮を駆使した、息
をのむほど美しく精緻な映像の連続を、素直に楽しむことができない。

 その最大の原因は、役者の演技にある。前作『エピソード1/ファントム・メ
ナス』では、クワイ=ガンがジェダイの威厳を保ち、全編を引き締めていた。
 演技の点で大きな問題を抱えていたのは、パドメ・アミダラぐらいだった。
 ところが、クワイ=ガン亡き後の展開を描いたこの作品では、メインの登場
人物全員が、あまりにも軽すぎて、感情的にストーリーに入り込めないのであ
る。
 アナキンとパドメについてはすでに詳述したが、オビ=ワンもクワイ=ガン
とはまったく比較にならないほど浮ついている。この映画では、オビ=ワンに
ジェダイの尊厳が託されているのに、彼はその重い役割を担いきれていない。

 それどころか、旧三部作に登場する、いかにも老騎士然とした品格のあるオ
ビ=ワンとの落差に、戸惑うばかりである。若気の至りといえばそれまでかも
しれないが、ここまでギャップが大きいと、アナキンからダース・ヴェイダー
への変身よりも、オビ=ワンの豹変に関心が向いてしまうほどだ。次回作では、
この落差をどう埋めるつもりなのだろう、と。
 彼の英語のアクセントも、気になるところだ。若き日のオビ=ワンは、大衆
的な発音で話す。ところが、旧三部作のオビ=ワンは、上流階級のアクセント
で厳かに語る。サッチャー元英首相がかつて発音矯正の特訓を受けたように、
彼もこれから、上流階級のアクセント修得の修行でもするのだろうか。

 また、名優とされる出演者たちも、なぜかこの映画ではダイコン役者に見え
てしまう。
 メインの登場人物全員がここまで無表情で無機的だと、周囲を驚異の特撮映
像で飾れば飾るほど、空疎な感じがするのだ。
 さらに、繰り返し指摘してきたように、人間描写が浅すぎる。とくに、パド
メは、ストーリーを牽引する重要な役柄でありながら、着せ替え人形に終始し、
エネルギーがまったく感じられない。
 ルーカスは、この作品で致命的なミスを犯した。
 実は、当初は、映画の冒頭部分で、パドメが元老院で強大な共和国軍設立に
反対を唱えるシーンが予定されていた。しかも、撮影も合成もセリフの録音も
すでに完了していたのである。

 市販のDVDに、削除されたシーンとして納められた映像を見ると、このシ
ーンが、いかに必要不可欠なものだったかがわかる。
 なぜなら、そこにはパドメの政治家としての信念が描かれていたのだ。
 完成作品を観たかぎりでは、パドメの政治的立場すら判然としないが、もし
このシーンが生かされていたら、彼女が武力を否定し、情熱的に政治に打ち込
んでいることが、伝わっただろう。そして、彼女が命を狙われる理由も、明確
に説明がつく。
 
 ところが、ルーカスは、映画のテンポがもたつくという理由で、あえてこの
シーンをカットしたのだ!
 これこそ、彼がパドメの内面に関心を抱いていないことを示す、動かぬ証拠
である。パドメばかりか、彼は他のキャラクターの人間像にも興味がなさそう
だ。
 CGの魔力に溺れた彼は、ITに浮かれ騒ぐ米国社会のように、文字どおり
目先の事象に心を奪われ、物語を語ることを忘れてしまったようである。

つづく