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空から見おろした大東京の街並に、ゆっくりと鼓動を打つ心臓の音が重なる。 そして、平和に暮らす市民の姿と戦車が、フラッシュバック。次に、戦争のニ ュース映像が映し出され、英語のアナウンスが流れる。さらに、軽快な音楽と ともに軍事訓練の風景が映し出され、『We are 陸上自衛隊 Catch Your DREAM』というタイトルが登場。 そう、これは防衛庁陸上幕幕僚監部広報室が企画・監修した、陸上自衛隊の 広報ビデオである。そして、ビデオ製作に当たったのは、驚くなかれ、あの円 谷英二が設立した、円谷プロ。それまで空想の世界に留まっていた円谷プロが、 突如として外界に足を踏み出したのである! |
件のビデオは、陸上自衛隊の活動や役割などを、一般市民への街頭インタビ ューを随所に混じえながら解説した、いかにもお役所的な内容。しかし、国の 防衛を説明する部分で、敵の戦闘機が日本上空に侵入する様子を、CGと自衛 隊の実写映像を組み合わせて、視覚化している。そのスピード感溢れる演出は、 さすが手慣れたもの。陸自が敵機を迎撃するイメージ映像も、CGで処理。も っとも、現在の日本においては、敵の本土侵攻などきわめて現実性が薄く、む しろ空想に近い事態ともいえる。その意味では、円谷プロは依然として空想の 世界に留まっていたのかもしれない。ともかく、このビデオは、「陸上自衛隊 の隊員たちは、いつもあなたがたの隣にいて、日本の平和と安全を見守りなが ら、さまざまな緊急の事態が起きた時、必ず国民のみなさんのところに駆けつ ける、そういう存在なのです」というあか抜けないナレーションで終わる。見 所の、陸自広報ビデオ初登場のCG映像は、合わせて数分にも満たない。 |
『ハワイ・マレー沖海戦』から57年、『ゴジラ』誕生から45年を経て、 ついに日本の特撮界は忌まわしい先祖返りを果たした?! しかしながら、そ う単純に結論づけるのは、早計というものである。 2001年7月から放映開始された円谷プロ製作の『ウルトラマンコスモス』 は、「怪獣保護」がテーマ。『ウルトラシリーズ』に付き物の怪獣退治の専門 チームは、怪獣を捕獲して管理センターに収容する、民間の国際的科学調査組 織の怪獣保護チームに取って代わられた。そして、怪獣の保護を目指す彼らと、 怪獣を悪と決めつけて、その抹殺を目標とする「防衛軍」との対立が、何度と なく描かれる。円谷プロが陸自広報ビデオを手がけた後に、しかも円谷英二生 誕100周年の記念日である7月7日に、つまり米国同時多発テロの約2カ月 前に、軍隊と対立するウルトラマンが生まれたのだ! だが、その一方で、こ の年に自衛隊史上初の戦地派遣が実施されたのも、因縁めいている。それは、 まるで、反核と平和を訴えた『ゴジラ』が製作された年に、自衛隊が発足した 巡り合わせと、重なりあうかのようだ。 |
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