インフラ海外拠点イラク

大手英米メディアの自衛隊報道7

(報告:常岡千恵子)


『ロサンゼルス・タイムズ』  2004年12月10日
−日本の兵士、もう1年間イラク駐留へ
   小規模部隊を投入し、国内世論より米国への忠誠を優先する小泉首相


日本政府は、小規模でほとんどシンボリックな自衛隊イラク派遣の中止 を望む国内世論より米国への忠誠を優先し、派遣の1年間延長を発表した。 大方の予想どおりのこの延長は、いくつかの同盟国軍がイラク撤退の 意志表示や検討をしている中、ブッシュ政権を支える決定である。 しかしながら、この決定は、まだイラクに駐留する同盟国軍の大半が、 ほとんど名ばかりのものであることを示してもいる。 日本は、イラク国内紛争を終結させるという大きな課題において、何の 役割も果たしていない。 日本では、この展開は、日本政府が米国政府との同盟関係を強化するた めの低リスクの方便だと見る向きが多い。 日本の世論調査では、60%が派遣延長に反対しているが、小泉首相は、 日米同盟によって日本の繁栄が確保できると反論した。 また、小泉首相は、国際社会における日本の役割を拡大し、国連安保理 の常任理事国入りを目指し、結果として、日本の軍隊を自衛に制限した、 平和憲法の制約を広げる機会をも掴んだ。 さらに、日本の軍事的活動の拡大の例として、武器輸出三原則の緩和、 米国とのミサイル防衛システム共同開発、国際平和協力業務への積極的参 加などが挙げられる。 また、新防衛大綱は、北朝鮮の兵器開発と中国の軍事近代化などを懸念 している。 小泉首相は、聞き分けのよい日本のメディアに助けられてきた。日本政 府は、メディアに対し、サマワへの記者派遣を控えるよう要請している。 結果として、サマワの自衛隊が襲撃されていないとか、武器を使用する ような状況に直面していないという政府の主張が本当かどうか、客観的な 確認がなされていない。 また、小泉首相は、3月のオランダ軍撤退後に、自衛隊がどのように自 らを守るのかという厳しい質問を免れている。 この点に関しては、英軍が護衛を引き受けるという予測や、自衛隊には 自らの安全確保能力があるとする意見もある。 だが、その場合は、自衛隊がもっと戦闘的なスタンスを取ることになり、 派遣人員を増加してリスクを高めてしまうことにもなりかねない。 。。。。。。。。。。。。。 やはり、サマワの現状に関する報道がないままに、派遣延長を決定した のは、国民を置き去りにしているとしか、言いようがない。 派遣延長決定の時期に、大野防衛庁長官をはじめ、政治家がサマワの宿 営地を訪問したが、この時でさえ、大手メディアは同行取材を怠った。 そこで、天下の5大全国紙の読者相談室に、なぜサマワを取材しない のかを尋ねてみると……  朝日「政府の方から、独自に取材記者が現地に入ることを禁止されてお ります。朝日新聞も独自に取材したいのですが、現地の状況からいきまし て、取材許可が下りないというのがあります。新聞協会で(取材の)申し 入れはしているのですが、現地の実情が厳しいということと、危険が大で あるということで、政府が危険ということで、出入り禁止というか、取材 派遣を禁止されているので、なかなか実態や生の声が届きにくいのです が」 ――丁寧に説明し、こちらの意見もよく聞いてくれた。  産経「そういう(サマワ発の報道を増やしてほしいという)ご要望、結 構来てますね。(現地に記者がいないのは、なぜかという問いに対して) ちょっとここの部署ではわからないんですね。」 ――勇ましい紙面の割には質問に答えられず、終始受身の対応であった。  日経「外務省の勧告もあって、非常に治安が悪いために実際に取材に入 っても身の危険があるんですね。報道機関の多くが、入国を辛抱している わけですね。政府からは(避難)勧告は受けてますが、最終的には身の安 全ということで、うちの場合はそういう判断しています。最近、他の方か らもサマワの実情が伝わってくる報道が非常に少ないとお叱りを承るこ とも度々あります。」 ――対応は丁寧だが、突っ込まないと答えが返ってこなかった。  毎日「サマワに外国人がいること自体が危険ということもありまして、 イラクの人をスタッフにして現地に行ってもらって、その人からの情報を もとにして記事を書いています。12月4日朝刊に、現地の人の声を一面 で掲載しました。(大野長官のサマワ訪問も、記者が同行しなかったのは、 大本営発表ではないかと問うと)なるほど、つまり、いわゆる自衛隊側の 発表ではない、ごくふつうのイラク市民の目にどう映っているのか知りた い、ということですね。」 ――丁寧で饒舌だが、自衛隊側の発表だけを垂れ流すことに問題意識を 感じていなかったのには、ビックリ!  読売「とくに動きもないということもあるんですけど、かなり報道が制 限されてますんでね。まず現地に入ること自体がですね、非常に難しい点 がひとつありますね。外国人と見れば人質にするという事件があちこちで 起きてますからね。最寄の国にいて、入れる機会を窺っているという状況 です。報道陣も出たり入ったりという状況なんですよ。もちろん、(避難) 勧告は受けてはいるでしょうけど、独自の判断でね。(大野長官のサマワ 訪問時に同行しなかったことに疑問を呈すると)わかりました。危険を冒 してでも、現地に行って取材して情報を送れというご意見ですね。ハイ、 わかりました。」  ――最初は丁寧だったけど、こちらが反論するとイラつき始め、"早く 切りたいモード"に変わってしまった。 。。。。。。。。。。。。。 『フィナンシャル・タイムズ』 2004年12月13日 −平和憲法が疲弊するにつれ、軍事用語を新たに仕入れる日本 "海軍"を"海上自衛隊"と命名するなど、以前は戦争を連想させるよ うな軍事用語を極力避けていた日本の防衛官僚が、近年、少なくともプラ イベートな会話においては、より現実的な言葉遣いをするようになった。 この変化は、現実の変化を反映したものだ。日本の平和憲法は、少なく とも現在は維持されているが、防衛政策は劇的変化のど真ん中である。 その第一は、ソ連の脅威がなくなり、テロ対策やならず者国家に対処す べく、即応性や機動性を重視した防衛力への改革だ。 第二は、日本が米国の圧力に屈し、より深く国際的な軍事活動に関わる ようになっていることだ。湾岸戦争時は、平和憲法を隠れみのに、国際的 な活動を避けていたが、経済力をもってして他国に日本の国益を守らせる ことが難しくなってきた。 第三は、日本が周辺の脅威に対して、対応していることだ。北朝鮮が核 兵器開発を認めたことで、日本に、米国とのミサイル防衛の共同技術開発 の口実を与えた。これにより、日本はミサイル防衛に関する武器輸出を解 禁することになった。 日本政府は、これまで中国を脅威と名指しすることに消極的だったが、 中国の潜水艦の領海侵犯が発覚し、決意を固めた。 新防衛大綱には、中国の動向に「注目」しなければならないと記されてい る。 ある防衛政策担当高官は、中国側の度重なる日本の水域侵入に関して、 「われわれにも我慢の限界がある。われわれは、もっとアクティブになる べきだと感じるし、もし彼らがわれわれの抗議に耳を貸さない場合は、彼 らを物理的に阻止すべく、われわれの部隊を派遣するべきだ」と語る。 。。。。。。。。。。。。。 最近の防衛庁内部の雰囲気を伝えた記事だが、どうやら悲願成就のチャ ンス到来とばかりに沸き立っている様子。 新防衛大綱にまで、本来は外交マターであるはずの国連改革への積極的 な取り組みを明記し、"常任理事国入り"の願望をあらわにしちゃうぐら いだから、「早く軍隊になりた〜い!」と浮き足だっているんだろう。 その証拠に、2004年4月19日に日本外国特派員協会で行われた陸 海空の幕僚長による講演で、古庄海上幕僚長が、「他国の海軍と同じよう に国際社会に寄与するためには、いろいろな問題を解決しなくてはならな い。とくに集団的自衛権の問題がある」と公言。  さらに翌日の記者会見でも、集団的自衛権の行使の容認を求めた。  また、陸上自衛隊の陸上幕僚監部防衛部防衛班所属の幹部が、元陸上自 衛官の中谷元・自民党憲法改正案起草委員長に、憲法改正案を提出してい たことが、2004年12月に明らかになった。 報道によれば、「すべての国民は国防の義務を負う」などの条文が盛り込 まれていたそうだが、どーせ国民一人一人に小銃なんて持たせてくれるは ずもなく、竹槍でも持たせようという魂胆なんだろう。 何たる発想の貧困!! 1978年に、来栖統幕議長が、現行法制では有事の際に超法規的に行 動せざるをえないと発言し、金丸防衛庁長官に解任されたのも、今は昔。 前出のような事件を厳しく糾弾しない今の日本の大手メディアって、一 体何?!! まさしく、民主国家存亡の危機である。 そもそも軍人に殺人兵器を委ねるのは、政治に介入しないという民主主 義の大前提による。  "集団的自衛権の行使"だの、"改憲案作成"だのは、日本の政治の根 幹に関わる重大事項である。日本の民主主義は、いつの間にここまで危う くなっちゃったんだろう?  それとも、「"自衛官"は"軍人"じゃないも〜ん!」と逃げる気かしら ん? しかし、すでに海外では"軍人"とみなされているのだ。  民主主義国家においては、政治とは国民の意思決定システムであり、政 治に従う、すなわち民に仕えるのが、軍人の本分であり美徳というもので ある。  しかるに、己の本分を忘れ、政治に色気を出し、軍人の道を逸脱すると は、まったくもって、たるんどる!!!  大手海外メディアのサマワ報道を読んでもわかるように、自衛隊は海外 平和協力業務において、初心者なのだ。人見知りも激しそうだし、とくに 透明性と情報公開において、他国軍に大きく遅れを取っている。  国際平和協力業務が本来任務となり、米軍とのより緊密な連携が確実と なった今、しっかりその方面の勉強に励むのが筋というものであろう。  今一度、自衛隊の諸君に告ぐ。  諸君には、年末年始の休みに『失敗の本質』を精読し、日本的組織と米 軍の組織のあり方の違いを学び、新たな任務に備えられたし!! http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4122018331/249-3475248-2442742


続く