インフラ海外拠点イラク

大手英米メディアの自衛隊報道6

(報告:常岡千恵子)


『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』(米)
2004年12月2日
   −日本、イラクでの軍事任務を延長へ


イラク南部の日本の兵士への攻撃が増加し、彼らの活動が縮小しても、 日本政府は彼らの任務を延長する模様だ。 大野防衛庁長官は、インタビューで、自衛隊の展開に満足していると 語った。 戦後日本で最も重大な軍事任務に参加中のサマワの自衛隊は、米国に とって重要な外交上の支援となっている。 米政府は、日本政府に派遣延長を迫り、米中央軍司令官がサマワの宿 営地を訪問した。 自衛隊のサマワ派遣は、日本の軍隊のトランスフォーメーションのお 膳立ての役割をも果たしている。 つい最近まで自衛隊のイラク派遣など想像もつかなかったこの国で、 政府は現在、武器輸出の解禁や、中国を潜在的脅威と名指しすること、 また、平和憲法を改正して自衛隊を正規の軍隊に変えることを検討中だ。 大野長官は、「日本の防衛力の考え方が、変わりつつある。ひとつは、 国際協力業務を本来任務にしていこうということも検討しているし、日 本としても幅広く考えなければならない」と述べた。 政界では、野党と、与党の一部が、派遣延長に反対している。 彼らは、宿営地への攻撃が増えるにつれて兵士たちはほとんど外に出 なくなり、支援活動ができなくなっている、と指摘する。そして、サマ ワがすでに非戦闘地域ではなくなった、とも。 自民党議員の加藤紘一は、復興支援は単なる口実にすぎず、自衛隊の 本当の任務はイラクにいることによってブッシュ政権を支えることだ と述べた。 そして、アラブ社会が日本を米国の軍事同盟国だとみなし始めた、と も語る。 「非常に危険です。60年から100年かかって作り上げてきた、ア ラブにおけるいいイメージが、1年ぐらいで壊れてしまった」。 大野長官によれば、自衛隊がまったく宿営地の外に出なかったのは、 わずか9日である。だが、自衛隊に支援活動を行えなかった日数を問い 合わせると、彼らは回答を拒否した。 一方、前群長が、8月の半分は外に出られなかったと述べたという報 道もある。 日本政府にとって、サマワで何が行われているかは、非常にデリケー トな問題だ。 日本政府は、4月に日本人記者にサマワ撤退を迫り、以来、日本の大 手メディアの記者は誰一人としてサマワに戻っていない。 その結果、日本は、これまで3億ドルもかけた最重要任務についての ニュースがまったく報じられないという、シュールな状況に陥っている。 日本国民は、自衛隊が随時提供する、フィルターのかかった情報しか 得られない。 加えて、保守派のマスコミや政治家が、サマワの自衛隊の神話化のよ うなことを始め出した。 最近、産経新聞の記者たちが、『武士道の国から来た自衛隊』なる本 を上梓したが、この本のある章は、サマワに派遣された24歳の自衛官 の父親に焦点をあて、息子は「昭和54年12月8日、帝国海軍が真珠 湾攻撃を敢行した"トラトラトラの日"に生まれた」と記している。 また、この本は、中国や北朝鮮を批判し、イラクの自衛隊を英霊に関 連づけている。  政治の場では非戦闘地域の定義が議論され、小泉首相は、「自衛隊が 活動している地域は非戦闘地域」と発言する一方、町村外相は、戦闘地 域とは国または国に準ずる組織と戦争状態に入る地域を指し、ファルー ジャは非戦闘地域だとした。 日本が自衛隊をファルージャに派遣するかどうかは、定かではない。 この質問が提起される前に、外相は、この定義を撤回した。 。。。。。。。。。。。。。 自衛隊サマワ派遣延長をめぐって揺れる日本を報じた記事だが、日本 の大手メディアが現地に正規の記者を送って取材せずに、ほとんど自衛 隊が提供する情報だけを頼りに報道を行っていることは、やはり"シュ ール"としかいいようがない。 サマワには自衛隊とお役人しかいないのだから、政府は自画自賛のプ ロパガンダのやりたい放題である。 それをいいことに、最近、妙な回顧趣味的出版物が出回り始めたこと も、この記事は指摘している。 9.11を境に世界が変わり、世界唯一の超大国・米国の軍事改革に 自衛隊が巻き込まれてしまうのは、いたしかたあるまい。 しかしながら、これに乗じて、何やら不穏な動きも感じられる今日こ の頃である。 欧米では、ベトナム戦争以降、戦闘が大きく変わった。 それ以前も、日本と比較すればじゅうぶん人命を尊重していたが、メ ディアの発達によって戦争の実態が国民に伝えられるようになり、多数 の戦死者を出すと国民が戦争に嫌気を示すようになった。  つまり、欧米の民主国家の軍隊は"闘って生還する"をモットーにし ている。 ところが、なぜか日本では、約60年前の大量自滅のイメージがもて はやされつつある。 過去60年間近く戦争を経験せず、もっとも新しい実戦経験が太平洋 戦争なのだから、しかたがないといえばそれまでだが、それにしても、 あまりにも戦争や防衛のイメージが時代遅れ、かつ貧困だ。 戦後日本は、経済や貿易の分野以外は、再び鎖国状態にあったと言っ ていい。 これだけ海外で戦争や紛争が起こり、日本に伝えられても、すべて対 岸の火事であり、人々は当世諸国戦争事情に無頓着だった。 そして今、国際貢献が自衛隊の本来任務になろうという時に、古臭い イメージが勢いよく復活している。 ここでよ〜く思い出してほしいのは、日本は59年前に大敗を喫した、 すなわち大失敗したという事実だ。 真珠湾攻撃に成功したとはいえ、景気がよかったのもわずか半年、ミ ッドウェー海戦以後、卑怯にも国民を欺きながらどんどん転落し、結局 は"シオシオのパ〜"に終わったのである。  にもかかわらず、その大失敗のイメージを自衛隊に重ねあわせると は、何たることだ!! それでは、自衛隊に対して失礼というもので あろう。 戦前・戦中の日本は、己の実力を客観的に分析することなく、誇大な 妄想にとりつかれ、集団ヒステリーを起こし(メディアの罪も大きい)、 精一杯背伸びをし続け、最後は自暴自棄に陥って潰れた。 外交・防衛は、常に自国と他国の関係の上に成り立つ。他国と自国に ついての正確かつ客観的な情報、冷徹な分析、感情にとらわれない現実 的かつ合理的な判断が必要不可欠であることは、いうまでもない。 この重大な転換期にこそ、懐古趣味的プロパガンダに浮かれることな く、襟を正して初心に戻り、基本を学ぶべきである。 そこで、自衛隊の諸君にお勧めしたいのが、1980年代に防衛大学 校教授らがモノした名著『失敗の本質』。 この本は、旧軍の組織を合理的な米軍と比較しながら、その欠陥を浮 き彫りにしている。その内容は、現在でも充分日本の組織の参考になる。 これから欧米諸国と肩を並べて活動する自衛官にとって、必読の書で あると信ずる。 中公文庫で、お値段も800円とお手頃なので、ぜひ年末年始の休み に目を通し、国際貢献活動に備えていただきたい! http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4122018331/249-3475248-2442742 さらに、海外では、軍事のイメージも大きく変わった。情報と情報 システムを最大限に活用するRMAもそうだが、常任理事国にな りたければ、ぜひとも推進しなければならないのが、男女平等参画 である。 国連は、女性の社会進出を後押ししているが、日本の現状は先進国と して、何ともお寒いかぎり。 先進国のみならず、同じアジアのインド、パキスタン、インドネシア、 フィリピンなどにも女性首相・大統領が出たというのに、日本はこの点 では完全に後進国だ。 http://unstats.un.org/unsd/demographic/products/indwm/table6a.htm ↑国連がまとめた、議会(下院、日本では衆議院)の女性議員の比率と、 政府機関の意思決定を行うポストにいる女性管理職の比率。 ようやく日本でも女帝容認の議論が出始めたが、女王陛下の国・英国 では、サッチャー首相が堂々フォークランド戦争を敢行したし、泣く子 も黙る情報局保安部のMI5の長官は女性である。 http://www.mi5.gov.uk/output/Page60.html ↑ジャ〜ン! この迫力と威厳! その英国を宗主国と仰ぐオーストラリアでは、いまだ英米海軍も実現 していない、女性の潜水艦乗りの採用を行っている。  米軍はといえば、イラク戦争で、女性兵士がイラク人男性の腹を蹴り 上げたり、囚人虐待で悪名を馳せたアブグレイブの刑務所のトップが 女性准将だったり。  これらのケースは、イスラム文化を無視した、米国の横暴を示す悪例 ではあるが、とにかく最先端の軍隊はマッチョな男だけの集団ではなく なっていることを、如実に示している。  世界は、新しい安全保障の時代に入った。  日本も、60年前の轍を踏むことなく、情緒に捕われない、クールで 現実的かつ合理的な、新時代の戦略を模索することが求められている。 ま、年金をはじめとする諸問題を見ても、こんなに無責任で無計画な 今の日本政府が戦争をするとしたら、かつてフィリピンで50万人の 自国兵士を平気で見捨てその多くを餓死させたように、きっと正面ばか りを気にして兵站・防御を怠り、また、われわれ国民も飢えることにな ろう。 腹ペコなんて、まっぴらごめんである。 Special thanks to Mr Kenjiro Kato for providing me with a valuable insight


続く