インフラ海外拠点イラク

大手英米メディアの自衛隊報道9-1

(報告:常岡千恵子)


  前回は、大野防衛庁長官が2005年1月7日に、記者会見という公の
場で、今後サマワの自衛隊の取材が可能になるようにすると述べたにもか
かわらず、この重大発言を伝えた大手英米メディアとは対照的に、日本の
大手メディアがお得意の必殺技"黙殺"をもって、発言を封じた事実をご
報告した。

  大手英米メディアとて、決して権力との癒着がないわけではない。
だが、少なくとも日本の大手メディアに比べれば、権力に対して距離を
置いているといえよう。

  たとえば、戦時下にある大手英米メディアは、自国兵のイラク人虐待を
暴露したが、万一同様の状況下でこのような事件が起こった場合、はたし
て日本の大手メディアは大々的に報道するだろうか?

  また、2004年、米国の2大有力紙、『ニューヨーク・タイムズ』と
『ワシントン・ポスト』は、イラク戦争が始まる前の大量破壊兵器をめ
ぐる報道が、杜撰で不正確であったと自省する記事を掲載した。





  2004年5月26日付『ニューヨーク・タイムズ』は、同紙編集者自
らが、過去の記事を具体的に示しながら問題点を検証。2004年5月
30日付では、社外から招いた審査役のオンブズマンが、過去の記事と記
者の氏名を具体的に挙げながら、誤りを鋭く指摘した。
  同紙は、2004年10月3日にも、イラクの核疑惑に関する米政府の
情報操作の詳細を検証した、特大記事を掲載。
	   


  こちらは、2004年8月12日付『ワシントン・ポスト』の自己批判
記事。2004年3月16日付同紙に掲載された、イラクが大量破壊兵器
を隠し持っているという米政府の主張に疑問を呈する重要な記事が、いか
にして17面に埋もれてしまったかについて、関係者を徹底取材して検証。

  2004年12月26日に起きた、インドネシアのスマトラ沖地震と津
波の被害への支援に関する報道を見ても、英語圏の有力メディアは、日本
のそれより自国政府に対して遥かに手厳しい。



  今回、国際社会の政府支援レースで第1位に輝いたオーストラリアの、
2004年12月29日付『ザ・クーリエー・アンド・メイル』は、「現
時点までのオーストラリア政府の支援は、水や緊急医療品の提供と100
0万ドルの援助額の表明。(略)だが、これでは悲しいほど不十分ではな
いか?」と嘆き、「国防省は、家屋の修復や衛生対策など、各種技術要員派
遣の動きを見せていない」とグサリ!



  PKOの大御所・カナダでは、2004年12月29日付『ザ・グロー
ブ・アンド・メイル』が、1996年に鳴り物入りで創設された災害援助
対策部隊"DART"の派遣に消極的なカナダ政府を批判した。
結局、カナダ政府は、2005年1月にDARTをスリランカに派遣。

  ところで、日本ではあまり大きく報じられなかったが、今回の国際支援
競争は、2004年12月27日に、国連事務次長が「多くの国の援助が
国民総所得の0.1%から0.2%でしかないなら、実にケチだと思う」
と述べたことによって火がついた。
 日本のメディアは、国連、国連と騒ぐくせに、実際に国連で起こってい
ることについては、安保理常任理事国入りの話題以外は、無関心だ。

 だが、この国連事務次長の"重大発言"は、他の民主主義先進諸国でセ
ンセーションを巻き起こし、とくに米国メディアが、敏感に反応。
発言の翌日、テレビ番組に登場したパウエル米国務長官は、不快感を表
明した。



  しかし米有力紙『ニューヨーク・タイムズ』は、12月30日に「われ
われはケチか? その通りだ」と題する社説を掲げ、国連事務次長は「的を
射た」と、米政府を痛烈に批判。
  米国務長官の「過去4年間、(米国は)どの国、あるいはどの国家間共同
体よりも多くの援助を与えてきた」という発言に対し、2002年と20
03年の米国の開発援助額がEUを下回っていることや、ブッシュ政権が
イランやアフリカに表明した援助が、全額支払われていない事実を突きつ
けて反駁した。



  一方、民間寄付が政府支援を上回った英国では、国を挙げての募金活動
で、大手メディアが重要な役割を担った。
  2005年1月2日付『インディペンデント・オン・サンデー』は、2
004年末までに5000万ポンド以上の寄付が集まったことを伝えな
がらも、「はたして、これで充分か? 圧倒的で、震えるほどの反響があっ
たから、これでお終いとするべきか?  答えは、ノーだ。まだまだ全然で
ある」として、さらなる募金を呼びかけた。
  英国では、現地での救援活動参加を希望する一般人が続出し、ユニセフ
のスポークスウーマンが、素人は必要ではないと、なだめるほどの盛り上
がりを見せた。

  以上、民主主義先進諸国の有力メディアによる活発かつ能動的な報道と
議論をご紹介したが、翻ってわが国の大手メディアはというと、海外の災
害ということもあってか、例のごとく、米国と日本政府の動きを受動的に
受け止めることに終始した印象を拭えない。

  とくに今回、日本のメディアは、日本政府と一緒になって、中国の動き
を気にしたようである。
  また、たまたま被災地域付近を航行していた海上自衛隊の艦艇の派遣は
早かったものの、本格的な自衛隊派遣が他の先進諸国に大きく遅れを取っ
ていたことも、日本の大手メディアはあまり報じなかった。

  他の民主主義先進諸国の迅速な動きは、メディアと国民の、人道支援に
対する関心の高さの結果と言ってもいい。
  誠に残念ながら、こんな有り様では、わが祖国に国連安保理常任理事国
が務まるか甚だ疑問なのだが、この点も日本の大手メディアは、知ってか
知らずか、黙して語らない。	  


続く