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『孫子』と日本人

(報告:常岡千恵子)


  世界中の軍人に親しまれている中国の兵法書『孫子』。
  第一次イラク復興支援群長の番匠幸一郎氏も、愛読しているそうだ。



『戦国自衛隊1549オフィシャルガイド』15ページより


  もちろん、『孫子』の原典は中国語で記されている。
  そうなると、『孫子』の理解は、漢字に親しんでる日本人に圧倒的有利?

  そこで、『孫子』の和訳を読んでみると、何となくわかったような、
わからないような……




『新訂 孫子』(岩波文庫)74ページ


  たとえば、「虚実編」の"虚実"って、「虚は空虚の
意で、備えなくすきのあること。実は充実で十分の準備
を整えること」とあるけど、何を意味してるのか、よく
わかんなーい!!
  中国人や、その他の外国人は、わかってんのかしら?

  ちょっと、英語版をのぞいてみよーっと!!


 英軍の中国専門家、サム・グリフィス将軍が訳した『SUN TZU -THE ART
OF WAR』。英国の軍事評論家リデル・ハートが前書きを記している。

  外国の軍隊には、軍人兼学者がたくさんいて、学術的研究を積み重ねて
いる。
  遅れ馳せながら、自衛隊にも、付け焼き刃ではないアカデミックな隊員
が必要と思われるが……





  和訳では雲をつかむような「虚実編」は、「WEAKNESSES AND STRENGTHS」
つまり、"弱みと強み"。
  な、なんと、英訳のほうがわかりやすい!!

  和訳と英訳では解釈の食い違う部分があるが、学者によっても見解の違
いがあるので、一概に比較できないが、全般的に英訳のほうが、より具体
的で明快に理解しやすい。
 
  本当は中国語の原典が読めればいちばんいいのだが、残念ながら筆者に
はその能力がない。

  ただ、中国語の文法や漢字を調べてみると、文法は日本語よりも英語に
近く、漢字の意味も日本語の漢字のそれとは、かなり違う。

  中国語の思考パターンは、曖昧な日本語より、英語に近いといえそうだ。
  だから中国は、経済発展に伴って、急速に欧米と渡り合えるようになった
のかもしれない……

  余談だが、せっかく小学校で実施していた英語教育が廃止されることに
なったが、将来、ますます内向きで曖昧で国際的に通用しない思考を持つ
日本人ばかりになり、日本にとってマイナスではなかろうか?
  これからの日本に必要なのは、国際情勢の変化に柔軟に対応できる人材
だと思うのだが……



"西洋の言語に訳された孫子"


  この本は、『孫子』がいかにして西洋に伝わったかも解説している。




  1905年に英陸軍のカルスロップ大尉が、東京で『Sonshi』というタイ
トルで英訳出版した13編を見ると・・・

  「カルスロップは、正確でなさそうな日本語のテキストを使った」!!!

  ふーむ、やはり"日本の軍事通"には、原典をねじまげるという特性が
あるのかも……↓
  >>庁カラ省ヘノ格上ゲニ際シ、『戦史叢書』ヲ検証ス



"日本の軍事思想への孫子の影響"


  さらに、吉備真備の時代から、『孫子』が日本の軍事に与えた思想的影
響についての論文も同書に収められている。




   そして、
  「日本人は熱心な『孫子』の研究にもかかわらず、その理解は表面的以
上のものではなかったようだ。最も深い意味において、彼らは敵のことも
自分のことも理解していなかった。会議において客観的に予測がなされ
なかった」
 と結論づける。

  つまり、いくら字面を追ってたって、きちんと理解しているかどうかは、
別問題、ってこと。

  20世紀前半の日本の行動を見れば、こう指摘されて当然、といえよう。
  国際情勢を読み違え、自国の実力も見誤った日本軍の浅薄さは、まとも
に『孫子』を研究していたとは到底思えない。

  そういえば、『孫子』を読んでるっていう日本人は、結構、頭が硬直し
た人が多いよね〜〜。
  "硬派"のイメージに憧れて『孫子』を愛読していると吹聴する人が多
いのかもしれないけど、実際には、その逆のことが書いてあるんですけどぉ。

  やはり、イメージに流されやすい日本語の思考で、きちんと読みこなす
ことは難しいのだろうか?

  "国際派"の番匠さんは、日本語の思考を超えて、このへん、ちゃ〜ん
と理解なさってますよねぇ。


       不知彼不知己  毎戦必殆
    If ignorant both of your enemy and of yourself,
         you are certain in every battle to be in peril. 

続く