戦争・軍事 > 海外メディア視線

庁カラ省ヘノ格上ゲニ際シ、『戦史叢書』ヲ検証ス

(報告:常岡千恵子)


 2006年12月、めでたく省格上げが決まった防衛庁。
 来年からは海外派遣が本来任務となり、海外での行動について、さら
なる研究が必要とされる。

 まずは、旧軍の失敗から真摯に学ぶことから始めるのが妥当であろう。
  


 防衛庁防衛研修所編纂、つまり日本政府による公式の戦史が綴られて
いる『戦史叢書』。



 『戦史叢書・北支の治安戦』の「序」には、「本書の編纂に当たって
は自衛隊の教育、又は研究の資とすることを主目的とし」と、明記され
ている。

 その目的達成の時とばかり、2005年1月29日放映NHKスペシ
ャル『陸上自衛隊 イラク派遣の一年』で、陸自幹部が『戦史叢書・
北支の治安戦』をサマワ派遣の参考にしたと述べた。

 しかしながら、この本は、中国北部の侵略戦争をまとめたものである
にもかかわらず、現地の中国人との接触の様子や、中国人虐待、中国人
が受けた被害にはまったくといっていいほど触れていない。
 しかも、中国人の抵抗をソ連の工作のせいにする傾向が強く、日本の
侵略に対する憎悪が国共合作を実現させたという自覚も感じられない。

 冷戦たけなわの1960年代に、とかく自分の行為を他人のせいにし
たがる無責任な旧軍出身者が編纂した本であるから、すべてをソ連のせ
いにするのは、当然なのかもしれない。

 だが、"治安戦の教科書"であるのに、肝心の現地民との関係や住民
感情がこれほど無視されていたら、何の役にも立たぬではないか!

 それはさておき、戦闘行動の教科書としては、いかほどのものなのか?
 この本には、無数の行動が、淡々と記されており、
あたかも、ものごとが順調に進んだような印象を受ける。
 しかしながら、ある討伐行動の詳報を紐解いてみると・・・
  防衛研究所図書館所蔵の、司令部が残した討伐行動詳報。
  旧軍の資料は敗戦時に抹殺されたものが多いが、こうして残っている
公文書もあるのだ。 

 な、なんと、「蒙軍一人舞台ニ終ワリテ旅団ノ面目丸潰レ」、つまり、
活躍したのは日本軍でなく、日本軍傘下のモンゴル軍だった!!

 日本軍の情報が漏れまくり、通信線を切られて難儀し、各組織がバラ
バラでうまく連携できず(映画『硫黄島からの手紙』でも描かれている
ように、日本の組織の典型)、中国人民にソッポを向かれたことがよく
記録されている。

  また、郵電建設員が満蒙人に”甚ダ恥スヘキ言動ヲ為”し、これを
諌めたことも記されている。


 やはり、勝手わからぬ海外での治安戦は想像以上に難しいのだ。
 アフガンで現地の部族とともにタリバーンと戦った米軍も、案外、こ
うだったのかもしれない。

 それにしても、先人たちが1939年春に「其ノ因果ヲ研究シテ以テ
諸官ノ参考ニ供セントス」との精神で残した公文書が手の届く場所に保
管されているにもかかわらず、実態を糊塗する不誠実、何ヲカイワンヤ!!

 どうも、日本の"軍事通"には、原典を歪めるという悪癖が染み付い
ているらしい。↓
 >> 小泉ニッポン!”果敢の先制攻撃”劇場1

 このような糊塗は、随所で行われている可能性が高く、『戦史叢書』
を鵜呑みにするのは、たいへん危険である。

 
 このところ、旧軍に関する美談や珍説がまかりとおっているが、海外
における戦闘とは、かようにトホホなものなのである。

 自衛隊の諸君、"先人ノ精神"をないがしろにする、甚ダたるんだ旧
軍出身者の虚言・妄言の類には、よくよく注意されたし!! 
 

続く