『ボストン・グローブ』(米) 2005年10月23日付
−日本の記憶の悪さ
常に正しいとはいえないが、民主国家の指導者の行動は、しばしばその
国民を反映したものだと受け止められる。
これは、小泉首相の靖国神社参拝には当てはまる。
彼が参拝するたびに、アジアの近隣諸国を怒らせ、第二次世界大戦で大
日本帝国が行った罪を認めようとする日本人を辱めている。
小泉氏は今年の参拝の形式を多少変えたが、その(参拝という)行為の
象徴的な意味は、韓国人や中国人の不快感を減少させるものではない。
これらの微妙なシグナルは、小泉氏に自民党の右翼のナショナリストに
へつらってもらいたくない日本人にとっては意味があるかもしれないが、
国外では、彼の様式の変化は何の意味ももたらさない。
とくに、韓国と中国の首脳が、彼らが日本の軍国主義の露骨なシンボル
だとみなすものへの参拝中止を再三求めていたのに、まったく政治的な意
味のない私的参拝のふりをするのは、近隣諸国の憤慨を悪化させただけの
ようだ。
11月にはAPECが、12月には初の東アジアサミットが予定され、
地域の協力を要する、鳥インフルエンザやテロ、核拡散、エネルギー資源
紛争などの諸問題を抱えるなか、小泉氏が無頓着にアジア諸国の心情を尊
重することを拒否したことは不適切なだけでなく、たとえ必ずしもそうで
なくとも、日本国民を、近隣諸国の歴史的体験の真実を受け入れたくない
人々として描くことになる。
。。。。。。。。。。。。。
『フィナンシャル・タイムズ』(英) 2005年10月24日付
−日本が普通の国の地位を受け入れてもらいたければ、
近隣諸国と話し合わなければならない
先月の選挙で圧勝したばかりの小泉首相だが、日本が国連安保理常任理
事国になれないことに明確に苛立っている。
日本は安保理改革の低迷との直接の関連性を否定しているが、小泉氏は、
さっそく国連分担金軽減要求を復活させた。
数字的には、日本政府の主張はもっともである。
日本は、全世界の収入の14%を占めているが、国連予算の19.5%
を負担しており、これは常任理事国5カ国の合計より多い。
しかしながら、常任理事国入りしなければ分担金の軽減、というのは、
よい外交政策にはならない。
そして小泉氏が、日本を"普通"の国にするという目標を達成する上で
必要なのは、よい外交政策だ。
先週の小泉氏の靖国神社参拝は、終戦60周年に彼が行った外交的な成
果、つまりお決まりではあるかもしれないが日本の侵略の犠牲者への全面
的謝罪を、台無しにした。
靖国神社と、それが示唆する(過去への)無反省のおかげで、日本は敵
対国に、常任理事国入りを反対する、格好の言い訳を与えている。
日本の戦時の行動をもっと償うかどうかについて、日本国民の意見は割
れており、靖国神社参拝そのものが不要な挑発ではあるが、小泉氏は今回、
私人として参拝した。
このような行為によって、日本が常任理事国入りすることも、分担金を
減らされることもないが、靖国神社をめぐって繰り返される儀式的応酬を
徐々に弱体化させ、北東アジアでの永続的平和を後押しするかもしれない、
ある種の小さな懐柔的ステップではある。
。。。。。。。。。。。。。
『ジャカルタ・ポスト』(インドネシア) 2005年10月25日付
−小泉が東アジア共同体の未来を危うくする
月曜日の小泉首相の靖国神社参拝は、中国と韓国で再び物議を醸した。
今回の参拝は、近隣諸国に激しい反応をもたらしたが、日本国内でもお
おいに議論を招いた。
小泉氏は私人として参拝したと述べたが、彼の行為は、近隣諸国に対す
る傲慢さと鈍感さを示すものである。
小泉氏の参拝は、日本の外交を危うくするだけでなく、現在進行中の地
域共同体構築の展望を危険にさらす可能性もある。
小泉氏は私的参拝だと主張するが、彼が自覚しているかどうかはともか
く、彼の私的行為は、彼の首相としてのイメージ、そして政権のイメージ
にも直接影響を与えるもので、彼のこの問題に関する見通しはやや希薄な
ようである。
このことは、日本の外交を危険にさらし、不幸かつ不要な地域の緊張を
つくる可能性がある。
日本は最近、(失敗したのものの)国連安保理の拡大と自らの常任理事
国入りを提案した。
この点からすると、小泉氏の参拝は、潜在的常任理事国としての日本の
イメージに、打撃を与えたかもしれない。
日本はまた、2005年12月14日に予定された東アジアサミットを
積極的に支持している。
東アジア共同体の構築は、日中関係を含めた、多くの重要な課題を抱え
ている。
日中関係は、領海紛争や、第二次世界大戦中の日本の中国支配の歴史認
識など、いくつもの未解決の問題を抱えている。
この問題は、現在の両国間において非常に敏感で、日本の高官の靖国神
社参拝は、この問題における緊張の引き金となる。
東アジア共同体構築には多くの課題があり、将来、これ以上の緊張が生
まれれば、このプロジェクト全体が狂うことになるかもしれない。
すなわち、小泉氏の私的行為は、事態を改善していないのだ。
将来の東アジア共同体は、メンバーがお互いを尊重しあうものでなけれ
ばならない。
つまり、日本の近隣諸国は(日本を)許し前進する意志と力を喚起しな
ければならないし、この問題を国内問題として抗議する日本も、近隣諸国
を苛立たせ、不幸かつ不要な緊張をつくらぬよう、もっと注意しなければ
ならないだろう。
。。。。。。。。。。。。。
『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』(仏) 2005年10 月25日付
−小泉の危険な約束
先週、5度目の靖国神社参拝を行った小泉首相は、アジアの近隣諸国の
抗議を顧みなかった。
小泉氏の決心が明白なら、その結果も同様で、この点こそが靖国神社を
めぐる議論の真の問題である。
日本政府の、近隣諸国の懸念を無視して緊張を掻き立てようとする態度
は、この地域で主導的役割を果たそうとする努力に水を差す。
小泉氏は有権者との約束を守る決意で参拝したが、しかしそれは同時に、
日本の戦没者を称え、日本の健全な愛国心を活性化させて正当化し、日本
政府の平和へのコミットメントを強調し、日本が"普通"の国際関係に近
づくよう後押しする決意でもある。
今週の参拝後、中国と韓国は激しく抗議し、日本とのハイレベルの会談
をキャンセルした。
重要なのは、東南アジア諸国も、参拝に怒りしたことだ。
シンガポールの『ストレーツ・タイムズ』の社説は、この参拝は、日本
が近隣諸国との関係を明らかに尊重していないことを示した、と論じた。
ここが、もっとも重要な点だ。
自国民にアピールしようとする決意は、高い代価を伴う。
日本を孤立させ、アジアでの主導的役割を担おうとする日本政府の主張
を崩すのである。
日本がこの地域との関わりの深めることに好意的なシンガポールでさ
え、文句を言わざるを得なくなった。
これは、軍国主義の復活を懸念しているわけではないが、日本政府が、
自らの行為が招く結果に無関心に見えることへの懸念である。
外国の感情に対する無関心のせいで、中国をはじめとする他国は、重要
課題での妥協が困難になる。
靖国神社参拝は、日本の国連安保理常任理事国入りを妨げる。
この地域で孤立し、日本政府は米国に接近せざるをえない。
だが、この動きは短期的に日米同盟を助けるかもしれないが、長期的に
は危険である。
外国から、選択の余地がないように見られるのは得策ではない。
靖国神社参拝についての判断を控える一方で、米国の政策立案者たちが、
参拝が招く結果と、米国の国益への影響を懸念するのはもっともだ。
日本政府の行動がこの地域の緊張を高めているとみなされ、米国がそれ
を推奨していると非難される可能性があるのだ。
米政権が同盟の歴史より問題解決を優先すれば、日本への支持が低下す
るかもしれない。
そして、ラムズフェルド国防長官が、一説によれば米軍再編問題の停滞
に対する苛立ちのため、この地域への訪問で日本に立ち寄らなかったこと
も忘れてはならない。
小泉氏は、目的を達成した。
今、彼とその後継者は、日本のこの地域における地位を懸念するべきだ。
靖国神社における妥協は、世界における日本の立場の回復という、より
大きな任務を阻害するものではない。
。。。。。。。。。。。。。
『ザ・ネイション』(タイ) 2005年10月29日付
−日本のカミカゼ孤立
日本は、自らアジアで孤立しようと努めているかのように見える。
日本は再び、相互協力的国際機関のなく、信頼だけで成立している地域
で、信頼を再建するチャンスを逸した。
なぜ日本は、自らの歴史の扱い方が、20世紀に日本軍が支配したアジ
アの隅々まで影響を及ぼすことを、未だに理解できないのだろうか?
日本のリアクションは、並外れの頑迷な独善性を露わにしている。
多くの日本人が(ある程度の正当性とともに)、韓国と、ことに中国が、
日本のこの地域における影響力を低下させ、両国民のナショナリズムに迎
合するため、靖国問題を利用していると感じているが、彼らは的外れであ
る。
小泉氏の、私人としての体裁の靖国神社参拝は、海外での影響を顧みず
に、日本国民にアピールする意図で行われた。
だが今、日本は孤立し、地域安定の枠組みに影響を与えている。
日本の外交的孤立は、経済的・軍事的にまだアジア最大である大国を追
い込み、この地域のほかの国々をより深く自分の懐に吸い込むことを狙っ
てきた中国指導層を、強化する。
日本の孤立は、同盟国の米国への依存を増やし、アジアの枠組みを発展
させるチャンスを阻害する。
日本の孤立は日本国民だけの問題ではなく、欧米の政策にも関わるに違
いない。
流行に乗って、増大する中国の影響力を懸念する米政権は、日本が米国
との絆を深め中国の抑えになることを歓迎しているようだ。
だが、これは明らかに近視眼的アプローチである。
米国とだけ結びついた日本は、この地域で中国に負けることになり、均
衡を取りにくくなるからだ。
ヨーロッパは、対日政策をまったく持たない。
成長する中国市場に注目するだけで、この地域の安定には関心がない。
昨年、EUが中国への武器輸出解禁を検討したとき、ヨーロッパが中国
の地域政策に政治的ウェイトを置いているというメッセージをアジアじ
ゅうに発することになる、と考えたヨーロッパの政権はなかった。
日本が解禁を再考するよう求めても無視されたが、米下院議員たちが経
済的反撃をちらつかせ、中国が台湾への圧力を増やしたことで、初めて再
考された。
米国は日本を地域の空母として利用しようとし、ヨーロッパは政治的に
日本を無視しているが、できれば米国とヨーロッパが共同で、新しい戦略
アプローチを考えることが必要だ。
その目的は、ナショナリズムの衝突を妨げ、この地域の国々がお互いの
利益を尊重し交流する、協力的枠組み構築の奨励でなければならない。
もちろん、日本が主導的役割を果たさなければならない。
日本の指導者たちは、彼らがいまだに20世紀の日本の帝国主義に苦し
んだ国々の敏感な心情を無頓着に扱うことは、道義的に無配慮であると同
時に戦略的にも有害だ、と認識しなければならない。
しかし、この認識のプロセスは、日本が追い込まれていると感じること
がないように進めたほうが、いまくいくだろう。
それゆえ、海外の友人たちは、日本が孤立感を抱くことがないようにす
ることによって、このプロセスを援助できる。
無配慮な日本を是認せずに、欧米が積極的に政治的に働きかけて、日本
の未来がこの地域で信頼を得ることにかかっていることを伝えなければ
ならない。
これは、難しいことではない。
日本は半世紀にもおよぶ冷戦の間、ずっと政治的味方だった。
その経済力は強大で、欧米との商業的・文化的絆は広範で多様だ。
日本は、国際秩序を維持する努力に数十年間参加してこなかったが、国
際的責任への新たな認識が着実に生まれている。
アジアの安定を望む国にとって、日本とよい関係をつくることの利益は
明白なはずだ。
そのために、中国やインドなどの国との同様な絆を犠牲にするべきでは
ないが、これらの絆は日本を孤立させることによって獲得してはならない。
。。。。。。。。。。。。。
尚、最後のタイ紙の論説記事は、2005年11月5日付『ジ・エッジ・
フィナンシャル・デイリー』(マレーシア)にも転載された。
以上が、2005年10月中の海外英文メディア(中国と韓国を除く)
の、論評および社説の一部である。
一般報道もあわせれば、その数は膨大なものになるので、すべてご紹介
できないが、以上の例を読んでおわかりのとおり、「小泉首相は大人げな
い」という論調が大勢を占めている。
|