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『ザ・タイムズ』(英) 2005年9月2日付
−テレビのペイストリー・シェフが、有権者により軽い政治を提供
有名なペイストリー・シェフが、小泉首相の"刺客"選挙隊の一人と
して、海千山千の政界に飛び込もうとしている。
政治経験がなくテレビを通じた知名度が高いという理由で、小泉首相
に選ばれた藤野真紀子は、日本政治を永遠に歪めてしまう恐れもある選
挙における、奇抜なギャンブルの一部である。
小泉氏は、選挙そのものを郵政改革の国民投票に仕立てた。
彼は、自分の意のままに動く少数の有名人を、法案に反対投票した自
民党の造反者を辱めるために使っている。
55歳のスタイリッシュな藤野氏は、テレビ視聴者に完璧なミルフィ
ーユの作り方を語ることに、キャリアのほとんどを捧げてきた。
彼女は、臆面もなく、首相の道具として動くことは「夢みたい」だと
認めた。
昨日、名古屋での多忙なキャンペーン中に、藤野氏は、『ザ・タイムズ』
に、食育を通じて日本の多くの問題を解決するための急進的なプランを
語った。
彼女は、巨大で複雑な都市である名古屋については、何も知らないと
認めた。
小泉氏は、日本郵政公社を民営化することにより、日本は地方の無駄
な公共事業から解放されると主張している。
藤野氏に、名古屋の大規模な公共事業にどんなものがあるかを尋ねた
ところ、彼女はひとつも挙げることができなかった。
付近に、1500億ポンド近くかけて建設中の、悪名高い無駄な高速
道路があるにもかかわらず、である。
彼女は対立候補との直接対決をよしとせず、彼女自身も政治に関して
無知だと認めている事実は、この選挙がいかに真面目な争点から切り離
されたものになっているかを、はっきり示すものである。
彼女は、「財政や外交政策などのテーマ、あるいは私の知っている食に
関するものを超えたどんな分野も、議論できません。でも、今からたく
さん勉強できると思っています。今の政治家だって、怠惰で勉強しない
から、多くの課題をろくに知りません。少なくとも、私は勉強できます」
と語った。
食関連の政策推進のほかに、藤野氏は、子ども一人当たり300万円
の出産一時金を女性に出すことに賛成だと述べた。
日本の人口減少は、有権者にとっては、郵政民営化より大きな問題だ。
藤野氏は、「ワーキング・マザーの抱える問題はよくわかっています。
夫(元キャリア官僚の自民党参議院議員)は育児を手伝いませんでした
し、料理もできません」と述べた。
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候補者の政治家としての資質にズバリ斬り込んだ、痛快な記事である。
自民党は郵政民営化に争点を絞ったのだから、自民党候補は、せめて
その問題については説明できてしかるべき、というのが、欧米の基準な
のだ。
日本の大手メディアも、政界の人間関係や、候補者の私生活のような
瑣末な事柄をつつくことに終始せず、候補者の資質を抉ってもらいたい
ものである。
さて、次は日本の民主主義を分析した、米有力紙の記事の要旨をご覧
いただきたい。
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『ニューヨーク・タイムズ』(米) 2005年9月7日付
−なぜ日本は一党支配に満足しているようなのか
日本をほぼ一貫して半世紀間統治してきた自民党は、世論調査が正し
ければ、来る日曜日の総選挙で、再び勝利を手にすることになりそうだ。
日本の民主主義は東アジアで最も古いが、自民党は、中国と北朝鮮
の共産党と同じぐらい長く、与党であり続けている。
韓国や台湾では、日本より歴史の浅い民主主義は、すでに政権交代を
経験し、活気ある市民社会から独立した強いメディアまで、民主主義の
基盤が、日本より栄えているように見える。
先月、選挙を決定してから、小泉首相は、テレビ映えのする女性を候
補にし、郵政民営化の反対者を反動派として描くことで、抜け目なく自
民党のイメージを改革政党に衣替えした。
元自民党議員、前三重県知事で、現在、早稲田大学教授の北川正泰氏
によれば、選挙戦で政策がほとんど問題にならなかった過去においては、
政治家が支持者に好意を約束するだけだった。
北川氏は、「それは、パトロンとクライアントの関係で、本当の民主主
義ではなく、むしろ民主主義の反対でした」と語った。
北川氏は、政治的な説明責任を推進するために、"マニフェスト"導入
で主導的な役割を果たした。
"マニフェスト"という言葉や概念は、2年前の総選挙ではほとんど
理解されなかったが、今回は浸透している。
北川氏は、「マニフェスト導入で、日本人がこれまで民主主義だと信じ
ていたものが幻想であることを、わかってくれれば満足です」と述べた。
この幻想は、1955年の自民党結成でつくられた。自民党は、日本
をひたすら経済大国にすることに集中した。
米国や強力な官僚機構、効果的利益誘導政治に支えられ、自民党は何
十年間も、不動の権力を手にした。
党内の派閥抗争はあったが、(政権の)意思決定は、そして首相の選定
までもが、密室の交渉でなされた。
冷戦と、米国への軍事的依存のため、社会党が真剣に受け止められる
ことはなかった。
有権者は「もし自民党が倒れて社会党政権になってしまったら、アメ
リカとの友好関係が壊れて、日本はもう一回貧乏になってしまうのでは
ないか」と恐れていたと、慶応大学総合政策学部助教授の小熊英二氏は
述べた。
1993年には、党の分裂によって、自民党は10ヶ月下野した。
この短い期間に、連立政権が、重要な選挙制度改革を成し遂げた。
現在の最大野党の民主党は1998年に結成されて以来、とくに都市
部で支持者を広げてきた。
しかし専門家たちは、半世紀にも及ぶ一党支配は、日本の民主主義の
発達を妨げ、今なおその影響が感じられると指摘する。
市民社会は、依然として脆弱だ。
人権や、情報公開、政府の運営などといった、微妙な問題を探る市民
団体の影響力は小さい。
政府の情報へのアクセスのために戦っている市民団体、情報公開クリ
アリングハウス室長の三木由希子氏は、日本人は日本の民主主義に個人
的なつながりをほとんど感じていない、と指摘した。
三木氏は、「日本の市民は、究極的なフリーライダーです。民主主義の
基礎をつくるためには、市民の支持が必要ですが、日本国民は自分たち
が市民社会を支えるべきだと感じていないようです」と語った。
自民党の権力掌握は、情報の拡散をも制限してきた。
たとえば、他国では、インターネットが選挙への関心を盛り上げてき
た。
ところが、世界でも有数のインターネット大国である日本では、選挙
の公示日から12日間は、サイトで特定の選挙での候補を宣伝すること
や、候補が自分のホームページを更新することを、公職選挙法で禁じて
いる。
自民党は、支持者の中心が、インターネットをあまり利用しない年配
層であるため、この制限を維持してきた。
政権交代がないため、マス・メディアは自民党のラインに沿いがちだ。
今回の選挙では、メディアは、小泉氏のアジア諸国に対する外交政策
や、イラク派兵など、自民党への投票を妨げるような課題を無視してい
る。
2004年4月から、日本の大手メディアは、サマワの日本軍取材の
ために記者を派遣していない。
専門家たちは、日本の民主主義の柱が脆弱な傾向にあるのと同じよう
に、最大野党の民主党の安定性も疑っている。
元自民党議員や元社会党議員、その他のグループが集まって構成され
る民主党は、まとまりのないことで知られ、惨敗すれば分解するかもし
れない。
だが、ソウル国立大学の日本政治の専門家、パク・チェオル・ヒー氏
は、もっと成熟した民主主義が日本に現れるだろうと述べた。
彼は、「今は一党支配の最後段階です。自民党が今後50年間も政権に
あるとは思いません。あと5年か10年ぐらいでしょう。民主党は今回
は失敗するかもしれませんが、再び挑戦するでしょう。そうなれば、最
終的に、競争力のある二大政党制が作られ、日本を本当の民主主義に導
くでしょう」と語った。
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われわれが民主主義だと信じていたものを再考させられる内容だが、
このような分析は、外国人よりもむしろ日本人にとって有益なのではな
いか。
日本の大手メディアが、現政権に都合のいい海外記事ばかり国民に紹
介して、日本の状況を外から忌憚なく分析した記事をシャットアウトし
ているという事実自体が、危ういものを感じさせる。
日本の大手メディアの特派員も、現地の日本の記者クラブに縛られて
いるらしいが、日本政府にとって都合のいいことばかりを国民に伝えて
も、海外と国内の認識のギャップが広がるばかりだ。
インターネットの政治的影響力が大きい韓国では、近年、日本の植民
地統治時代に導入された、記者クラブ制度が廃止された。
日本も、本当の意味での改革を進めないと、70年前みたいに、また
もや世界から取り残されて、トンチンカンをやらかしちゃうかも。
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