宮嶋茂樹氏は、自分の心情描写はかなり正直である。
とかく、格好いいことだけ表現した戦争ジャーナリスト業界において、この正直
さは、真実を伝えるという視点からも褒められることだ。
カトケンについての記述が加藤健二郎とフルネームで3回ほど出てくる。
しかも、宮嶋氏の目からは、カトケンはジャーナリストやカメラマンではなく、
軍事評論家である。
その軍事評論家が人間の盾とともに居座っているドーラ地区(バグダッド南方)へ
は、宮嶋氏は怖くてなかなか行けなかったことも正直に書いている。これは、宮
嶋氏だけではなく、バグダッドの高級ホテルで監視されていた一流ジャーナリス
ト全員が、同じ心境だったのだそうだ。格好つけるタイプのカメラマンだった
ら、人間の盾や軍事評論家が日常生活を送っているドーラに怖くて行けなかった
とは書きたくない。
そして、カトケンの「イラク戦争最前線」を読んでしまうと、一流ジャーナリス
ト軍団が、ドーラ地区を恐れて近づけなかった姿が、滑稽に見えるだろう。宮嶋
氏は、「イラク戦争最前線」を読んでくれているので、それをわかっていて、一
流ジャーナリスト様たちの滑稽さを意図的に伝えたかったことはわかる。私も、
宮嶋氏の本は、何冊も読んでいるので、彼のそういう本心は、よくわかってい
る。さすが、不肖・宮嶋だ。
また、米軍戦車部隊が、バグダッド中心街に突入してチグリス川を渡河する戦闘
のときに、どこへ取材に行ってよいかわからなくなって、ホテルの中からの撮影
のみになってしまったときの、パニック的な心境と行動の描写もなかなかリアル
でいい。ボスニアやチェチェンで何度か経験したが、戦闘シーンなんて、そうい
うことが多い。特に市街戦の場合は。しかし結果的に、ホテルの上から俯瞰する
ようなアングルでの撮影に徹した宮嶋氏の写真は、現場に近づく発想しかなかっ
たカメラマンよりも、戦闘の全体像がわかる写真を撮った勝ち組になっている。 |