ヒマヒマバブル絶好調道の川柳・森川晃

豊洲・1004−(07)



 次に、東雲方向から環状線へ向かうルートを探してみる。隅田川右岸から環状
線までは、築地川ルートと直交する川跡をまっすぐ進めば、築地川ルートと直交
する地点から約250メートルで環状線に到達する。新橋演舞場脇、采女橋あた
りである。外回りの銀座入口料金所の真下にぶつかる。この区間は、すぐに道路
に流用できる構造物は準備されていない。また、首都高速環状線にも双方に合流
する亘り線を接続する 準備はできていない。

 本線は采女橋下で大きくS字カーブを描いていて、本線合流を 追加するには
適切ではない。もし、接続するとすれば、環状線の大規模な改修を要すると考え
られる。川跡の距離は短いが、10号晴海線の接続する余地はないのだろうか。

 川跡にはいくつかの建物があるが、いずれも公的施設である。用地は中央区が
所有しているのだ。また、環状線は采女橋の橋脚が掘り割り中央に立ちはだかっ
ているため、広い中央帯で内回りと外回りが分離している。采女橋を橋脚のない
かたちに架け替えれば環状線中央帯に広い空間ができる。内回りの銀座出口が左
分岐しているので、この空間は内回りの本線合流に使えばよい。外回りの本線合
流は、銀座入口から汐留トンネルまでの区間の掘り割り斜面を切り立たせればな
んとか空間を確保できる かもしれない。

 隅田川を渡る区間からは、上下線一体で晴海出入口に至ると考えられる。

◆図6
 晴海線が環状線まで延伸された場合の路線模式図。新富町出入口は、左右双方
に本線を分岐させることにより、現状と同じサービスを継続することができる。
築地出入口は、新大橋通りに接続するのが自然だが、築地市場移転後の再開発
で、再開発地区に巻き込むかたちになるかもしれない。さらに、2016年東京
オリンピックが確定すれば、新宿方面への延伸も着工されるかもしれない。都心
を横断する大深度地下トンネルの縦坑を視野に入れれば、さらに構造は複雑にな
るだろう。2016年に間に合わせるのならば、すでにタイムリミットである。
はたして本気だろうか。築地の路線は、晴海通りよりも西に150メートルずれ
ているので、勝どきで晴海通り上に乗せるためには、墨田川を斜めに横断しなけ
ればならない。美しい構造美を誇る晴海通 りの勝鬨橋の脇にすんなりと作らせ
てもらえるかどうか気になる。
 ルート、構造ともに不明瞭だが、構想ではっきりしているのが、設置される出
入口である。先述のように豊洲出入口が1004番、そして晴海出入口が
1003番である。ここまでは確定である。この先は1002番で築地出入口を
設置するようだ。東雲方向と連絡するハーフタイプである。1001番は現在の
新富町出口だろうか。新富町出口は環状線の出口として運用しているため、外回
りが13番、内回りが14番だが、晴海線として延伸されれば、本線分岐は新富
町JCTで、出口は晴海線の1番 目の出口になるはずである。

 このレポートに記しているルートは確定事項ではなく、当方が考える実現可能
なルートである。現在確保している公有地と準備構造物を最大限に利用した予想
で、妄想と考えていただいてもよい。このルートは30年以上前から気になって
いたのだ が、いくつかのネックにより記す気にはなれなかった。

1 環状線の新富町分岐が狭すぎる。
2 入船分岐の直角カーブがきつすぎる。
3 築地の本線分離部の東雲方向への本線のカーブがきつすぎる。

いずれも高速道路本線には不適切である。しかし、似たような理由で不可能と考
えていた中央環状新宿線の西新宿JCTの開通により、実現可能性が高くなった。

また、このルートが通過するエリアは密度の高い都心で、ほかのルートを新設す
るには無理がある。さらに、地下鉄が輻輳する都心において、このルートを阻む
かたちで地下構造物が存在していない。2000年12月12日に開通した地下
鉄大江戸線の勝どき駅と築地市場駅の間のルートは、まるで晴海線の構造物予定
箇所を避けるかのような線形である。晴海線の環状線接続ルートは、このルート
以外は考えにくいのだ。


【むすび】

 首都高速晴海線は、次の6つの区間で構成される新都市軸に含まれる。2から
開通 可能性の高い順になっている。

1 開通区間
 豊洲出入口と東雲JCTの間の1.5キロ
2 着工区間
 晴海仮出入口と豊洲出入口の間の1.2キロ
3 計画区間(準備OK)
 東雲JCTと第二湾岸道路の間の約4キロ
4 構想区間(準備がハンパ)
 首都高速環状線(新富町、築地)と晴海出入口の間の1.1キロ
5 夢区間(莫大な投資だが、投資に見合う需要と効果が期待できる)
 新宿と築地の間の約8キロ
6 妄想区間(国家的損失になりかねない)
 第二湾岸道路と(湾央人工島を経て)袖ヶ浦の間の約20キロ

◆図7
 首都高速10号晴海線を含む新都市軸の全体図。
 湾央人工島プランは、主として建築系でさまざまな案を公表している。手元に
ある資料(市販の図書)で10以上はある。位置や構造は異なる。水辺をなるべ
く残した小さな島が点在するもの、ほとんど埋め立てて整然とした運河で舟運を
保持するもの、埋め立てではなく巨大な船のような鋼鉄のプレートを並べたも
の・・・。これらの中庸にあたるかたちで作図してみた。当方の道路レポートも
妄想が多いが、建築系 の人にはとうてい及ばない。
 今回の開通は、わずか1.5キロだが、夢と妄想に挟まれた珍しい路線であ
る。首都の新たな交通需要を見いだす冒険のひとつと言える。全区間が新しいの
ではなく、築地川ルートという古い路線を蘇らせているところがユニークであ
る。50年前に準備された路盤と、現時点で陸地すらない湾央人工島を結ぶの
だ。正気の沙汰とは思えない遠大な構想である。リアリティがあるのは、1から
せいぜい4までである。

 5は 中央環状新宿線の開通、品川線の着工で、実現の可能性は高まったが、
これはあくまでも技術的な視点であり、経済的には難しいと言える。品川線開通
後も、大規模プロジェクトを継続しなければならないという至上命令があれば仕
方がないが、地下鉄建設を終了させた東京は、道路もこのあたりで新設を終了さ
せる方が無難である。それよりも都心の老朽化した既存インフラの作り替えに着
手する方がよいと思う。日本橋の空を取り戻す構想があるが、作り替え着手のよ
い機会になるかもしれない。

 この構想は、ソウルの燭渓川高架道路の撤去と比較されるようだ。河川上の高
架道路を撤去して水際環境を取り戻すところは似ているが、交通状況は全く異な
る。交通量、ほかの路線との接続(高速ネットワークの構成)の視点で相当する
のはボストンのビッグディグである。ソウルは大規模プロジェクトとは言い難
い。代替道路(内部循環路など)の開通で需要の少なくなった、老朽化した高架
道路の撤去に過ぎない。
日本橋川区間の作り替えは、間違いなく大規模プロジェクトに当たる。湾央人工
島よ りも直接的な効果が期待できるはずである。

 ちなみに、当方は現在の日本橋川区間の構造の方が好きである。空間に浮かぶ
ダイナミックな構造物は、20世紀最大の芸術作品だと思っている。機能重視の
東京にハンパなノスタルジーは不要である。どんなに「機能」で埋め尽くしても
隙間は見つかる ものだ。その隙間にこそ本当のノスタルジーがあるのではない
だろうか。

(2009年5月20日、脱稿。)

続く