ヒマヒマバブル絶好調道の川柳・森川晃

中国自動車道の戦略的理由 2



 中国自動車道は、着工当初から主として山陽地域の諸都市から疑問視する声がささ 
やかれていた。国道2号沿道には「山陽自動車道の早期着工」の広告板を数多く見か 
けた(1977年ころ)。それでも政府の決定事項に従い、山陽道には目もくれず中 
国道に全精力を注ぎ、1983年に中央ルートで開通した。既存都市群を直結しない 
ため開通当初から重交通を担うことはなかったが、広島自動車道の開通で広島市まで 
直結した1985年ころから交通量は増加していった。そのほとんどが関西から広島 
市まで直通の長距離利用で、途中に知名度の高いマイルストーン的な地名が見当たら 
ないため精神的にも苛酷なドライブが強いられた。ところで、中国自動車道は、姫路 
から東広島までの長きにわたる山陽の既存都市群にはあまりにも遠すぎた。国道2号 
をひた走るよりは早いが、大阪から岡山市に行くのに津山回りはあまりにも大回りで 
ある。そのため、大きな交通需要を抱えるこの区間を目的地とする車両の高速道路へ 
のシフトがうまくいかない。
交通量データの見方
2002年7月の各区間の交通量、および各分岐部の方向別交通量
 山陽自動車道は、部分開通を繰り返して全通に至った。開通区間の延長経緯により 
徐々に中国自動車道の利用状況に変化が表れてきた。最終的には中国自動車道と山陽 
自動車道のメインとサブの関係が逆転してしまったのである。山陽自動車道は既存の 
都市群を連結するルートのため開通当初から短距離利用の交通量が多いと考えられて 
いたが、大阪から広島以西の長距離利用でも山陽道へのシフトが見られた。吹田から 
広島までは、距離で51キロ、時間で39分短い(JH関西WEBサイトからデータ 
引用)ので当然だろう。山岳ルートの中国自動車道は特に大型車には負担が大きい。 
東京と名古屋での中央自動車道利用は、東名高速道路の渋滞を避けるメリットがある 
が、山陽自動車道に渋滞は無縁だ。中国自動車道を全線通過するメリットは何もない 
のである。

2002年7月の各区間の交通量
 中国自動車道は戦略的な理由で中央ルートになり、山陽自動車道の開通でその役割 
を果たした感がある。ところが、双方を接続する岡山自動車道や山陰方面への分岐線 
(米子自動車道、浜田自動車道)が接続し、中国地方の高速道路ネットワークが格子 
状になり利用状況がさらに変わってきた。
  格子状(ラダ?ネットワーク)特有の区間利用の傾向が現れてきた。通常の都市間 
高速道路は起点の大都市を離れるにしたがって交通量が少なくなり、中都市で交通量 
が増える傾向にある。つまり交通量は沿道人口にほぼ比例するのである。ところが、 
格子状になると沿線人口に関係なく、ルート設定の都合で交通量が増えることがある。
 中国自動車道の利用特性は、大きく4つの区間で分けられる。

(1)  大阪圏(吹田JCTと福崎ICの間)

  吹田JCTで名神高速道路や近畿自動車道など大阪以東の交通を集め、中国池田 
ICで大阪市内の交通が合流してここから神戸JCTまでの区間が中国道の最大交通 
量を担う。神戸JCTから先は、ここで山陽自動車道へ、吉川JCTで舞鶴若狭自動 
車道へ、福崎ICで播但ハイウエイへ分岐し、徐々に交通量は少なくなる。ここから 
先は最大交通量の20%程度の交通量になる。この区間の利用状況は、都市から離れ 
るにつれて徐々に交通量が少なくなる都市間高速道路の典型的な特徴を持っている。

(2)  落合JCTと北房JCTの間

  大阪方面からの約半分が米子自動車道へ分岐する。また北房JCTと併せて、岡 
山自動車道から米子自動車道へ分岐する比率も大きい。この交通は中国自動車道を亘 
り線として利用している。ラダ?ネット特有の特徴である。岡山と出雲地方東部の結 
びつきが大きいことがわかる。

(3)  三次ICと戸河内ICの間

  この区間は、広島圏の交通特性が影響している。広島自動車道から中国道を経て 
三次ICまでの利用比率が大きい。広島と同県内陸部の交通の要衝である三次への利用 
だけでなく、さらに国道54号で出雲地方西部との結びつきが大きいことがわかる。 
また、中国道の西方向は戸河内ICまでの利用比率が大きい。比率は大きいが交通量 
そのものは多くなので、広島と戸河内の連絡利用がほとんどと考えられる。(冬季 
は、広島地区では手軽なスキーに利用される。休日夕方には交通集中で渋滞すること 
もある。)この区間は、広島を起点として各方向へ交通が分散している。(1)の特 
徴と似ているが、徐々に少なくなるのでななく、特定のインターチェンジまでの利用 
である。これは、目的地まで高速道路が開通していないケースの特徴である。広島か 
ら出雲地方西部に行くとき、開通している三次までは高速道路を利用するということ 
である。出雲地方西部までの区間が開通すれば三次ICの利用比率は少なくなるはず 
である。※
  戸河内IC利用に関しては、この先に特に広島と交流のある地域が見当たらない 
ので、今後利用状況には変化はないと考えられる。

(4)  山口ICと下関ICの間

  山口ICからの利用比率は大きいが交通量そのものは少ない。この区間は、山口 
JCTから山陽自動車道の延長として利用されている。つまり、山陽自動車道そのも 
のである。既存の都市群を連絡するルートで、長距離利用だけでなく短距離利用も増 
える。中国池田ICから福崎JCTまで徐々に交通量が少なくなり20000台を割 
ったが、山口JCTで再び20000台に戻る。

 各ジャンクションの方向別分岐比率。 (本線の全交通量における分岐線への交通量の比率。)
※ 三次から出雲地方西部までは松江自動車道が着工されている。2002年度中に 
三刀屋から山陰自動車道まで開通予定である。最終的には、南側は尾道で山陽自動車 
道に接続する。確かに広島と出雲地方西部の時間短縮には大いに効果を発揮するとは 
思うが、交通量そのものは極めて少ない。このルートが公開されたとき、(あくまで 
も個人的な意見だが、)政治のにおいがした。中国地方では比較的交通量の多い国道 
54号に並行する高速道路計画は一見合理的だが、故竹下元総理のお膝元である掛合 
町を通過させるために立案したのではないかと疑ってしまった。当方は高速道路の建 
設には基本的には賛成だが、明らかに需要の少ないこのようなルートには理解できる 
説明をうかがたいと思う。

中国自動車道の利用状況

続く