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英語圏大手メディアの"沖ノ鳥島"報道 6

(報告:常岡千恵子)



  最近、米有力紙に、面白い"沖ノ鳥"の記事が掲載された。
 
 日本の大手メディアは、例によって、なかなかこうした報道を行わず、
このような見方が一般の方々の目に触れる機会が少ないと思うので、そ
の要旨をご紹介したい。

。。。。。。。。。。。。。

『ニューヨーク・タイムズ』(米)     2005年7月10日付
     −日本と中国、太平洋の小島で争う

  小さなほうは、ベッドぐらいのサイズで、2.9インチしか洋上に出
ていない。
  大きなほうは、おそらく小さな寝室ぐらいの面積で、辛うじて海面か
ら6.3インチ突き出ている。

  日本政府は、この西太平洋の2つの不毛な小島を洋上に保つために、
すでに6億ドルも費やした。

  だが、台風や地球温暖化よりも大きな潜在的脅威が、去年、訪れた。
中国が、沖ノ鳥を"岩"と呼び、日本の経済的かつ軍事的な重要水域
への排他的権利に異議を唱えたのだ。

  数十年前には、この海域には数個の小島があったが、1989年には、
わずか2個の小島が見えるだけになっていた。
  日本政府は2億8千万ドルを費やして、海面に小さく突き出した部分
を厚さ82フィートのコンクリートで囲んだ。
  そして、小さいほうの小島が、波に砕かれたコンクリートのかけらで
破損しないように、5千万ドルをかけて、チタン製ネットを被せた。

  また、国連海洋法条約の、「海水に囲まれていること」という島の条件
を満たすために、コンクリートの護岸には、(海水が直接小島に触れる
ように)スリットが設けられている。

  日本の他の領土問題のように、右翼がかった愛国的団体が主導的役割
を担って、沖の鳥に関する中国の主張をはねつけている。
  その団体、日本財団は、沖の鳥に灯台を設置する短期的プランや、有
孔虫を集めて島を大きくする長期的プランなどを立案した。
  日本政府は先月、レーダー、ヘリポート、さらに公式に沖の鳥の住所
を明記した銘版の設置を行った。

  石原慎太郎・東京都知事は、最近、沖の鳥に記者団を同行し、日の丸
を掲げた。
  彼は、「あれは島だよ。ちっちゃな島だ。領土だ。文句あるか」と述べ、
ニヤリと笑った。

  中国には、文句がある。
  中国は昨年、沖の鳥は国連海洋法条約上、島とみなされないと述べた。

  国連海洋法条約は、「島とは、自然に形成された、海水に囲まれた陸
地で、高潮時に海面上にあるもの」で、「人間の居住または、独自の経済
生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域を有しない」と定
めている。

  沖の鳥は、台湾と米軍基地のあるグアムの中間点という、軍事戦略上、
重要な位置にある。

  米政府は、日本政府の主張を支持している。
  しかし、2月に来日した当時米国務次官ジョン・ボルトン(の発言)
は、日本人を当惑させたに違いない。

  "沖の鳥島"と正しく発音できない米国人記者が、ボルトン氏に「オ
トコノシマ」について質問したところ、ボルトン氏は「あの岩」と発言。
  そして件の記者は、「そう、あの岩です」と言った。

  沖の鳥に人間が居住したことはなく、いまだに経済生活が営まれてい
ない。
  年に2回、沖の鳥で作業員が護岸の修復などに訪れるが、国土交通省
は、中国の"岩"宣言以来、年間予算を200万ドルから560万ドル
に引き上げた。

  中国に屈服することを怖れた日本財団は、昨秋、この問題に注目した。
  「誰かがやらないと、この国はズルズル引っ張って、何も決まりませ
ん」と、日本財団の沖の鳥プロジェクト担当の山田吉彦氏は語る。

  日本財団は、研究者と記者たちのチームを率いて、2度沖の鳥ツアー
を行っている。

  現在、日本財団は、予算100万ドルの灯台の建設を検討している。
  灯台があれば、船をガイドする経済活動につながるからだ。
  山田氏は、「政府ができないのなら、私どもにやらせてもらいたいと
いうお願いはしているところです」と語った。

  その他の提案として、ダイバーやエコツーリストに沖の鳥を公開する
というアイデアもある。
 日本財団の長光正純・常務理事は、珊瑚礁の国際的研究所と6500
フィートの滑走路の建設に乗り気だ。
さらに野心的なのは、有孔虫を集めて島の侵食を防ぎ、さらに島を成
長させるという提案だ。

  国土交通省の沖の鳥担当者、角湯克典氏は、「どういう提案なんです
かね」と述べた。
  彼は沖の鳥を訪れたことはないが、2月に現地に設置されたカメラを
通して、島のライブ映像を観ている。
  彼は、「ちょっとお答えしづらいですね」と言った。

  返答しづらい理由のひとつは、日本財団の歴史にある。
  日本財団は、第二次世界大戦の戦犯容疑者で、競艇のギャンブル帝国
を築いた笹川良一によって設立されたのだ。

  元東北文化学園大学教授の堀幸雄氏は、ナショナリスト的な団体と政
府は、協力的な関係を持つことが多いと指摘した。
  このような団体は、政府が公式に取り組みにくいプロジェクトを推進
することがよくある。

  中国との、もう一つの争いである尖閣諸島では、日本一の動員力を持
つ右翼団体の日本青年社が、27年前に灯台を建て、修復のために定期
的に現地を訪れていた。
  昨年、政府と日本青年社は交渉を始め、ついに今年、政府が灯台を引
き取った。

  沖の鳥についても、政府は日本財団に灯台を建てさせるかもしれない。
  政府がそのようなことをすれば、中国を過剰に刺激する可能性がある
からだ。

  長光氏は、「日本政府がなかなかやりづらいというか、任せていると
いうか、やってもらえればいいなあということをやっている面もありま
す」と語った。

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  沖の鳥をめぐる一連の動きをまとめた記事だが、日本の大手メディア
があまり触れない、右翼チックな団体と政府の関係を指摘しているのが
興味深い。

  思い起こせば、戦前の日本も、右翼が政府を引っ張っていったっけ。
  笹川良一氏なんて、その代表格だったもんね。

  2001年に海上保安庁が撃沈させた不審船も、なぜか日本財団が、
2003年に一般公開に踏み切ったし。

  また、ジョン・ボルトン氏の失言も、これで米国民の知るところとな
った!!
  『産経新聞』さ〜ん、先を越されてしまいましたよぉ〜!

    詳しくは、
	大手英米メディアの自衛隊報道
	  <番外編> 米政府のブイブイ対日メディア攻勢8 を参照


  ま、日本の大手メディアのエリート記者さんたちは、この記事に書か
れていることぐらいは先刻ご承知だと思うけど、どういうわけか、彼ら
の生活を支えている国民には、ちっとも教えてくれない。
われわれ一般国民としては、今後も海外メディアに注目していくしか
ないのかしらん。

続く