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続く『帝国の逆襲』(1980年)では、反乱軍の苦闘が描かれる。そして、苦 境に陥ったハン・ソロとレイアの間に、恋が芽生える。ならず者と高貴なプリ ンセスの組み合わせは、月並みではあるが、いかにも自由の国アメリカを思わ せる展開だ。 しかし、この作品で最も注目すべきは、サーガの基軸である、フォースの奥 義が語られることだろう。 ルークは単身、ジェダイの師であるヨーダを訪れ、教えを乞う。ヨーダはル ークに特訓を施し、その過程で、フォースとは何かを説く。フォースとは全生 命体に流れ、宇宙全体を結び付けるエネルギーのことで、ジェダイは、これを 感じながら自在に操ることができる。平静な心で、知恵と防衛のために用いる べき力で、決して怒り、恐れ、憎しみに身を任せてはならない。もし、負の感 情に負ければ、暗黒面に落ちて二度と抜け出すことができない。 |
ヨーダは、仙人とこびとを混ぜたような、一見コミカルな、年老いた小さな キャラクターで、霧の濃い原始林で細々と隠遁生活を送っている。だが、その 外観とは裏腹に、実は強大なフォースの持ち主であり、偉大なる戦士なのだ。 彼の教えは深く、荘厳で、禅や武士道を連想させる。”ジェダイ”という言葉 が”時代劇”から生まれ、ジェダイが”ライトセイバー”と呼ばれる光の剣を 武器とすること、ヨーダがブロークン英語を話すことからしても、米国人のイ メージする、”東洋の神秘”的な武術をベースにしたコンセプトだといえよう。 むろん、所詮は大衆娯楽作品なので、かなり俗物化されてはいるものの、ヨ ーダとジェダイの存在は、ある種の崇高な精神性さえ感じられた。 また、帝国軍の指導者ダース・ヴェイダーは、秀でた能力を持ちながらも、 暗黒面に落ちてしまった元ジェダイ騎士であった。この作品では、彼とルーク の意外な関係が明らかにされる。ルークとの対決のさなか、ヴェイダーが、自 分こそは彼の父だと告げるのだ。激しく動揺するルークを、ヴェイダーは暗黒 面へ引きずり込もうと誘いかけるが、ルークは父を振り切り、命からがら逃亡 する。 |
『帝国の逆襲』は、サーガの中で、最もシリアスでストイックな人間ドラマ に仕上がっている。お互いに反発しあいながらも、引きつけられるレイアとハ ン、暗黒面の誘惑に抵抗するルークの心の動きを、細やかに表現していた。 特筆すべきは、前作で監督を務めたルーカスが、本作では自分の本領をフル に発揮するために、恩師のアーヴィン・カーシュナーを監督に迎え、自らは製 作総指揮に集中したことだ。己の限界を知り、作品の質を最優先したこの謙虚 な英断は、文字どおりこの映画の精神を実践したような行為だった。 なお、特撮の分野では、日中の雪原や曇り空など、きわめて合成が困難な明 るい背景に、ごく自然に戦闘機や兵器等をはめ込んで、再び、当時においては 驚異的な技を披露した。 背景が明るいと、どうしても合成のラインが目だってしまう。それまでは、 合成カットといえば、ラインが目だたない、宇宙空間などの暗い背景をバック にしたシーンが主流だった。白っぽい背景をバックに、これほど完成度の高い 合成に成功したのは、映画史上初めてだった。 |
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