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1954年11月3日。モノクロの大スクリーンに浮かび上がる「賛助 海 上保安庁」の白い文字。続いて東宝のロゴが画面一杯に広がり、地を揺るがさ んばかりの低い大音響が、ドーン……、ドーン……、ドーン……と静寂を破る。 そして、真っ黒い背景に極太の白いカタカナ3文字が現れたその時、この世の ものとは思えぬ鋭い咆哮が闇に轟いた……。日本最大の映画スターのデビュー 作が、世に放たれた瞬間である。 本邦初の怪獣映画『ゴジラ』は、その後シリーズ化され、世界中の子供たち を熱狂させた。海外での知名度たるや、いわゆる”国際派”映画人である黒澤 明や三船敏郎、大島渚、北野武など足元にも及ばない。”Godzilla”という言 葉が、日本を象徴する代名詞として、注釈抜きで新聞や雑誌の見出しに登場す るのだ! 近年は『ポケモン』、『千と千尋の神隠し』などジャパニメーショ ン(日本製アニメ)が世界を席巻しているが、これらの作品が今後半世紀もそ の名をとどめるかといえば、きわめて疑わしい。もっとも、怪獣映画自体も、 この間すっかり変貌し、お子様向きの娯楽作品として定着した。 |
しかしながら、実は元祖『ゴジラ』は、日本の危機を真正面から捕らえた、 超弩級の危機管理シミュレーションであった。そして現在にいたるまで、これ ほどのスケールと臨場感をもって危機を描いた日本映画はない、と断言できる。 それもそのはず、『ゴジラ』は、1954年に起こった現実の大事件をヒン トに生まれた作品なのだ。同年3月、日本の漁船・第五福竜丸が、米国がビキ ニ珊礁で行った水爆実験により被爆。わずか9年前に、世界で唯一、原爆の洗 礼を受けたばかりの日本国民に、大きな衝撃を与えた。度重なる原水爆実験で 被爆し現代に蘇った古代恐竜というゴジラの設定は、荒唐無稽ながら、当時の 日本人にとっては、身に迫る説得力を持っていたに相違ない。しかも、第五福 竜丸事件から8カ月足らずで、このような大作を製作・公開してしまう、柔軟 性と機動力! すっかり硬直してしまった今の日本映画界には、とてもじゃな いが真似のできない芸当だ。 |
当時の社会的背景に目を向けると、翌1955年に、国民一人当たりのGN Pが戦前の水準を回復し、『経済白書』が「もはや戦後ではない」と宣言。つ まり、1954年という時期は、戦後を引きずりながらも、日本が本格的経済 成長に向けて踏み出しかけた、激動の時代であった。国民も国際情勢に敏感で、 その半世紀後に、全世界の注目を集めている戦地と知らずに、ベツレヘムの聖 誕教会にノコノコ観光に出かける日本人が現れようとは、誰が予想しただろう! ちなみに、2002年4月半ばに欧米で最も注目された日本関連のニュースは、 政治スキャンダルでも有事法制でもなく、この日本人旅行者たちだったという。 |
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