活動ゴジラ・怪獣関連特撮ファン・常岡千恵子の怪獣史観+α

特撮ファン・常岡千恵子の怪獣史観

『ウルトラマン』・現想夢譚バージョン2002<4>



 かくして国際平和会議は盛大に幕を開いた。まるであの惨劇が嘘
のように、快晴の空に万国旗が舞う。会場前には、科特隊の手によっ
て、ジャミラの墓碑が建てられた。フランス語で「人類の夢と科学
の発展のために死んだ戦士の魂、ここに眠る」と刻まれた銘文を、
のぞき込む科特隊員たち。同僚たちが立ち去った後も、イデはその
場を離れることができない。彼は太陽に背を向けながら、吐き捨て
るように言う。「犠牲者はいつもこうだ、文句だけは美しいけれど……」 

 憤然と立ち尽くすイデ。そこへ、いくつもの音が交錯する。万国
旗のはためき、同僚たちのかけ声、そして最後に、あの、胸を締め
つけるようなジャミラの断末魔の叫び……。
 「人類の進歩」や「平和」の陰に潜む欺瞞と、自らの社会的立場
と、犠牲者の悲劇の狭間に、突き落とされたイデ。このラスト・シ
ーンを見る度に、たとえようもないやりきれなさに襲われてしまう。
そして、慰霊という行為に、空しささえ覚えるのだ。いうまでもな
く、人類は常に犠牲者をつくり出してきた。そして、われわれ自身
も、いつ犠牲者になるかわからない状況に生きている。なのに、犠
牲者の痛みは忘れ去られがちだ。しかも、時間の経過や込み入った 
事情によって、犠牲者が加害者に転じてしまうことがある。人類の
犠牲者ジャミラは怪獣と化し、人類を襲う加害者となる。そして
「平和」の名の下に抹殺されるのだ。イデの心の葛藤とジャミラの
悲愴な最期を、痛々しいまでに執拗に描き出したこの作品は、人類
の愚かで悲しい習性と、現実世界の酷く悲惨な不条理をデフォルメ
して見せつける。 
 さらに特筆すべきは、このエピソードでは、正義の象徴とされる
ウルトラマンが、感情のない破壊兵器のように描写されていること
だ。ウルトラマンに変身する主役のハヤタ隊員も、きわめて影が薄
い。対照的に、ジャミラはあまりに人間的だ。怨念を募らせ、感情
のままに暴れ、イデの叫びに怯む。赤ん坊の泣き声のような悲鳴を
上げ、だだをこねるように身もだえしながら絶命するジャミラ。よ
く、人は年を取ると赤ん坊になるといわれるが、ジャミラは人間の
本性をさらけ出したような怪獣である。

続く