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かくして国際平和会議は盛大に幕を開いた。まるであの惨劇が嘘 のように、快晴の空に万国旗が舞う。会場前には、科特隊の手によっ て、ジャミラの墓碑が建てられた。フランス語で「人類の夢と科学 の発展のために死んだ戦士の魂、ここに眠る」と刻まれた銘文を、 のぞき込む科特隊員たち。同僚たちが立ち去った後も、イデはその 場を離れることができない。彼は太陽に背を向けながら、吐き捨て るように言う。「犠牲者はいつもこうだ、文句だけは美しいけれど……」 憤然と立ち尽くすイデ。そこへ、いくつもの音が交錯する。万国 旗のはためき、同僚たちのかけ声、そして最後に、あの、胸を締め つけるようなジャミラの断末魔の叫び……。 |
「人類の進歩」や「平和」の陰に潜む欺瞞と、自らの社会的立場 と、犠牲者の悲劇の狭間に、突き落とされたイデ。このラスト・シ ーンを見る度に、たとえようもないやりきれなさに襲われてしまう。 そして、慰霊という行為に、空しささえ覚えるのだ。いうまでもな く、人類は常に犠牲者をつくり出してきた。そして、われわれ自身 も、いつ犠牲者になるかわからない状況に生きている。なのに、犠 牲者の痛みは忘れ去られがちだ。しかも、時間の経過や込み入った 事情によって、犠牲者が加害者に転じてしまうことがある。人類の 犠牲者ジャミラは怪獣と化し、人類を襲う加害者となる。そして 「平和」の名の下に抹殺されるのだ。イデの心の葛藤とジャミラの 悲愴な最期を、痛々しいまでに執拗に描き出したこの作品は、人類 の愚かで悲しい習性と、現実世界の酷く悲惨な不条理をデフォルメ して見せつける。 |
さらに特筆すべきは、このエピソードでは、正義の象徴とされる ウルトラマンが、感情のない破壊兵器のように描写されていること だ。ウルトラマンに変身する主役のハヤタ隊員も、きわめて影が薄 い。対照的に、ジャミラはあまりに人間的だ。怨念を募らせ、感情 のままに暴れ、イデの叫びに怯む。赤ん坊の泣き声のような悲鳴を 上げ、だだをこねるように身もだえしながら絶命するジャミラ。よ く、人は年を取ると赤ん坊になるといわれるが、ジャミラは人間の 本性をさらけ出したような怪獣である。 |
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