2001年9月11日。かつて数々の怪獣やヒーローたちの決戦の場であった四角い画面に、
史上最大の破壊映像が飛び込んできた。旅客機の自爆攻撃を受けて燃え上がる世界貿易センタ
ーは、ハリウッド映画『インデペンデンス・デイ』を彷彿とさせた。しかし、これはフィクシ
ョンではない。正真正銘の現実! フィクションの世界では、このような大破壊の後に「正義
の報復」やら「正義の反撃」が続くのが定番である。はたして、ブッシュ米大統領は、『イン
デペンデンス・デイ』さながらに、「正義」を掲げてテロ制裁を宣言した。
その瞬間、どこからか、「ノンマルトは人間より強くないんだ! 攻撃をやめてよ!」とい
う悲痛な叫びが聞こえてきた。それは、『ウルトラセブン』の「ノンマルトの使者」というエ
ピソードに登場する少年の言葉だった。この作品は、人類の正義を根底から覆す、恐るべき物
語であった。
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ある日、海底開発センターの船上基地、シーホース号が突如爆発炎上した。事件の直前には、
謎の少年が、海岸で休暇を過ごしていたウルトラ警備隊のアンヌに、シーホース号の作業中止
を訴えていた。さらに、海底開発センターの生存者が、少年を目撃していたことが判明。事件
後も、地球防衛軍に少年からの警告電話があった。「海底はノンマルトのものなんだ」と。ダ
ンとアンヌは、少年の捜索に向かう。だが、ダンは困惑していた。彼の故郷のM78星雲では、
地球人のことを「ノンマルト」と呼んでいたのだ!
2人が少年と出会った海岸に行くと、岩の上でオカリナを吹く少年の姿があった。少年は
「真市」と名乗り、アンヌに衝撃的な話をする。ノンマルトは人類より前から地球に住んでい
る先住民で、人類に海に追いやらてしまった。実は人類は侵略者で、今、ノンマルトから海底
をも奪おうとしている。海底開発を中止しないと、ノンマルトが反撃に出る、というのだ。だ
が、海底は人類の貴重な資源だと主張するアンヌとは話が噛み合わず、真市は海に飛び込み、
姿を消す。
少年は、その後もノンマルトの意向をウルトラ警備隊に伝え続けた。しかし、要求に応じな
い人類に対し、ついにノンマルトが地上攻撃を始め、セブンとウルトラ警備隊は、ノンマルト
を殲滅してしまう。
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こともあろうに、私は直感的に、ノンマルトとタリバンを重ね合わせてしまったのである!
無数の犠牲者を出している現実の事件と、子供だましの絵空事を混同するなど、不謹慎きわま
りない行為であることは、承知している。しかし、考えれば考えるほど、現実とこの物語の構
図が、一致してしまうのだ。
まず、タリバンはイスラムの民である。いうまでもなく、イスラム文化は、欧米文化よりず
〜っと歴史が古く、かつては地上に君臨していた。欧米人なんて、未開の野蛮人にすぎなかっ
たのだ。ノンマルトも、人類以前に栄えた先住民である。しかも、今回の戦争の舞台となった
アフガンは、現在計画中の天然ガス・パイプラインの通過地点として重要視されている。この
へんも、豊富な海底資源を我がものにしようとする人類と、米国の思惑が微妙に重なる。さら
に、いつもは正義の味方とされるセブンとウルトラ警備隊が、このエピソードでは自省のない
非情な自己中心主義者として描かれている。この点も、常に正義を掲げ、世界の警察官を自任
し、しかも過去の経緯を一切無視して今回のテロを「自由への挑戦」と決めつける米国と、ピ
ッタリ合致するではないか!
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このエピソードで、一番グサグサくるのは、アンヌと真市の対話である。海を背景に、アン
ヌは岩の上に立つ真市を見上げながら、会話を交わす。そして、「人間はズルい。いつだって
自分勝手なんだ。ノンマルトを海からも追いやろうとするなんて」という真市の必死の説得に
対して、こう言い放つのだ。「私は人間だから人間の味方よ。真市くんもそんなことを言うべ
きじゃないわ」。ふだんはとても優しいアンヌが、こんな残酷なことを言うなんて! おまけ
に、真市の登場シーンに流れる、もの悲しいオカリナのBGMが、胸を締めつける。米国同時
多発テロ後、対米支援を検討していた日本政府に対し、アーミテージ米国務副長官が”Show
the flag”という言葉を投げかけたと報じられた時、このアンヌの非情な言葉を思い出さずに
はいられなかった。 (続く)
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