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<感想2>
ハイライトは、身柄拘束される直前の数十分間だ。「戻ったほうがいい」と考え
たところで相棒が「捕まってもいい」と前進を促す。身分をごまかしつつ進む不
安。中央分離帯でUターン引き返しができなくなったときの嫌な雰囲気。危険地
帯への入口って、こんなものかな。
そして、やはり、その入口では、人間はなんとなくそのことを察知するものだと
いうことを感じる。しかし、ここで引き返して無事バグダッドに戻ったとした
ら、「あの雰囲気が危険との境界線だったんだ」ということには気づかなかった
かもしれない。
(ヒューロイカ)
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<感想1>
日ごろの丹念な取材を思わせる細かい報告だ。数あるイラク戦争関連本の中で、こんなにイラクで
生活している人たちの言葉が溢れているものはないだろう。いろんな人に訊いているだけでなく、
同じ人に再会しての定点観測的な変化を追っている。コツコツと話を聴いているからこそ、したた
かなイラク人が外国人に対して、そう簡単に本音を話してくれるわけではないことも痛感している。
これは、要領よく報道されやすい材料を拾っているプロが、最後まで気付かないことなのだろう。
「本当のところ、どうなんだろう?」と証言を集めて検証して掘り下げる調査取材や、日常生活に
関するデータを丁寧に記録し続けてやっとネタとする。地味で地道な取材こそ安田純平の真骨頂。
派手さやアイドル化へ驀進しているようにみえるジャーナリストが目立つ中で、異彩を放っている。
過去の拘束や、クラスター爆弾の五味さん、今村くんのロケット砲についてのエピソードも出てく
る。また、イラク戦争取材のために退社した信濃毎日での戦いにけっこうページが割かれていて、
テンションも高い。この章は、イラク現地だけじゃなくて、日本の(反戦デモや政府の動き以外の)
反応のある断面を描き出しているようで面白い。
この本を読んで、2004年4月15日〜17日の拘束事件についての日本での騒ぎを振り返ると
違うものが見えてくると思う。そして、彼がなぜ現場にこだわるのか、もう疑問に思わなくなって
いるだろう。
安田氏は、今度はイラクを再訪しなかったらバッシングされそうだ。
(ドローン)
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