インフラ海外拠点イラク

<番外編>米政府の自衛隊サマワ派遣延長工作

(報告:常岡千恵子)


  今回から大手英米メディアの自衛隊報道をお伝えすると申し上げ
たが、最近、自衛隊サマワ派遣に関する、米政府の興味深い報道発
表を発見した。


 というわけで、今回は急遽番外編として、こちらの方をご紹介し
たい。


 まず最初に、日本の大手メディアも軽く報じた、2004年11
月8日に東京の米国大使館で行われたベーカー駐日米国大使の記者
懇談から、自衛隊サマワ派遣延長に関する発言を抜粋する。


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ベーカー駐日米国大使の記者懇談録    2004年11月8日
                                    東京の米国大使館にて


http://tokyo.usembassy.gov/e/p/tp-20041108-62.html


Q:2期目のブッシュ政権は、イラクにおいて、日本にどのような貢
献を期待しているか?(以下質問は要約)


米大使:それは日本が決めることだが、日本の自衛隊が(イラクに)
 留まり、人道支援を続けることを米国が強く望んでいるという事
 実は、秘密でも何でもない。この問題が論争を醸していることは
 承知しているが、日本が、自衛隊のイラクでの取り組みを進める
 ことを、私ももちろん望んでいる。


  日本は、自衛隊を派遣することで、大きな国際的声明を発した
 と思う。彼らは人道支援を果たし、とても賞賛されていると思う。
 継続できなかったら、残念だと思う。


Q:将来、日本のリーダーとなると思われる政治家の名前を挙げて
ほしい。


米大使:私の答えとしては、米国の政治家についてもそんなことは
 できないのに、日本の政治家ならなおさらだ。だが、ひとつの所
 見はある。


  私は多くの日本の官僚と政治家を知っている。非常に才能豊か
 な人々がいると実感しているが、とくに、政府の重要なポストに
 つくであろう、聡明な若き男女を多数見受ける。日本の将来は安
 泰だと思う。


Q:安倍(晋三)氏のことか?


米大使:確かに安倍氏も、その一人だ。しかし、他にもいる。
    先日、民主党の人たちと、このテーブルを囲んで、イラクの自
 衛隊について話し合ったが、私は率直に、彼らに考えを変えてく
 れと告げ、今あなたがたに話したような理由を挙げた。
   
  彼らは重要な人たちだし、私は彼らにこう語った。私は上院で
 多数派のリーダーとしてよりずっと長く、少数派のリーダーだっ
 たから、彼らの立場や反対する義務も理解できるが、自衛隊イラ
 ク派遣の延長は、政治的利益よりも重要な問題だから、考え直し
 てほしい、と。


Q:日本政府と自衛隊イラク派遣延長について協議しているか?
  来春、オランダ軍が撤退するが、自衛隊の安全確保についてどう
考えるか?


米大使:日本政府と自衛隊について協議したか? ご想像どおり、話
 をした。私だけでなく、米大使館の他の人間も(日本政府と)協
 議したが、その理由はこれが米国の政策だからだ。われわれは、
 日本の自衛隊が、中東地域の平和と安定のために、多大かつ勇敢
 な貢献を続けることを望む。


   オランダ軍が撤退の意志を表明したが、本当にそうなるか、ま
 ずは様子を見よう。いずれにせよ、日本の政策が、オランダの政
 策ではなく、日本自らが最良の国益とみなすものに、拠って立つ
 ことを疑ったことはない。


   だから、(オランダ軍の撤退は)重要な要因にはならないと考え
 る。他にも軍隊を撤退させる国が出てくるかもしれないが、撤退
 しない軍隊の数は多く、イラクに駐留する軍隊の大多数は留まり
 続けるだろう。


   繰り返すが、日本はイラクの平和と安定に大きく貢献しており、
 自衛隊は重要だと思う。
  派遣隊員数や人道支援という点からだけでなく、日本が世界の
 大国であり、人道目的のために自衛隊をイラクに派遣することで、
 世界の大国として責任を受け止めているという、シンボリックな
 意味からも重要なのだ。
   米国だけでなく、世界の他の国からも広く注目され、高く評価
 されていると思う。


   日本は、世界の外交のリーダーとなるべく運命づけられている。
 これは、われわれがこのテーブルに座っている事実と同じよう
 に、確実なことだ。
   それには、多くの責任と機会が伴う。


   たとえば、われわれは日本の(国連)安保理で常任理事国入り
 を支持している。
   これがいつ実現するかはわからないが、早晩、実現する。
   そうなれば、日本が世界の大国であることの、さらなる証とな
 る。
   私は、必ずしも軍事大国を意味していない。日本の軍事力は相
 当なものではあるが、外交や指導力、機会、海外援助、平和維持
 活動の見地からの大国を意味している。


   日本はすでに世界の大国としての役割を獲得した。これは、今
 後も続くであろうし、続くべきものだ。われわれ米国は拍手喝采
 を送る……そして、(日本が大役を果たすことが)適切であると考
 える。


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  さすがは外交官、立て板に水の社交辞令で、日本を持ち上げまく
っている。
ベーカー駐日米国大使の発言は、いわば米国政府の公式見解であ
る。


 お気づきのことと思うが、同じサマワが話題でも、これまでご紹
介してきた、大手英米紙の報道とは似ても似つかない。


  では、大手英米紙が、デタラメを報じていたのだろうか?
  お断りしておくが、前出の英米紙は、どれも英米国民の信頼厚い
一流紙ばかりである。


  欧米で良質とされるメディアは、決して政府の発表をそのまま垂
れ流しにはしない。
  そこには、納税者たる国民の代表として、政府を監視する姿勢が
うかがえる。


  ご参考までに付記すると、ベーカー駐日米国大使は、11月8日
に行われたこの記者懇談で、パウエル国務長官とアーミテージ国務
副長官が「すぐに政権を去ることはないだろう」と述べた。
  だが、実際には、パウエル長官は11月15日に辞意を正式発表、
アーミテージ副長官も、同15日に辞表を提出した。


  とはいえ、そのような公式の場でありながらも、米大使が日本政
府や野党に対して、自衛隊サマワ派遣延長を働きかけていると堂々
明言しているのには、感心!
  日本国民に、米政府の意向を知ってもらいたいからだろうか。


  とにかく、米政府が東京で派遣延長工作を行っていることは、確
かな様子。


 そんな中、11月16日、今度は米中央軍司令官が、問題のサマ
ワを直撃した。
  このニュースも、日本の大手メディアが軽く取り上げたが、面白
いディテールを拾ってみよう。



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米国務省:米軍インフォメーション・サービス・ニュース記事
2004年11月16日
     −イラクのサマワで、日本の兵士達が、アビゼイドを歓迎


http://www.defenselink.mil/news/Nov2004/n11162004_2004111608.html


 本日、日本の兵士たちが、サマワの宿営地で、米中央軍司令官・
陸軍大将ジョン・アビゼイドを温かく迎えた。
  サマワは、3日間の日程でイラク各地の連合軍を訪れているアビ
ゼイド米中央軍司令官の、最後の訪問先である。


  サマワの自衛隊の宿営地のスポークスマン、福元洋一2佐は、「将
軍をここ宿営地にお迎えでき、光栄に存じます。このご訪問のおか
げで、われわれの士気が揚がったと断言できます」と述べた。


  また、福元2佐は、「迫撃砲の攻撃はありましたが、当地ではさほ
ど深刻な脅威はございません。オランダ軍が、われわれのために非
常によく治安維持を行い、イラクの警察もわれわれの安全確保のた
めに働いてくれています」とも語った。


  福元2佐は、日本の兵士たちは任務の重要性を理解し、打ち込ん
でいると語り、さらに、日本の兵士が初めて多国籍軍の一部を務め
るという歴史的に意義深い任務だと付け加えた。


  アビゼイドは、日本の兵士達が、連合軍のパートナーとして、同
盟軍として、評価されていると語った。


  アビゼイドは、「日本軍は……非常にプロフェッショナルで、整然
とした、世界有数の有能な軍隊である。彼らは、防衛的な役割のみ
を果たすために組織されたが、今回(の展開)は、海外における重
要任務に軍事的に関わるという、彼らにとってたいへん重要なステ
ップである。われわれは彼らがこの地にいることを歓迎し、彼らが
われわれのチームの一員であることを嬉しく思う」と語った。


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  うーん、この時期に米中央軍司令官に訪問されては、自衛隊も「こ
れから撤収します」とは言えまい。


 この報道発表も、サマワの自衛隊に対する米政府の公式見解であ
り、美辞麗句のやり取りが記されているが、アビゼイド司令官が、
サマワの展開が自衛隊にとって「重要なステップ」と語っていること
は、注目に値する。
 次のステップとは、何なのだろう? 将来的に自衛隊のさらなる海
外活動を期待する米政府の本音が、垣間見える。


  それにしても、ベーカー米大使が東京で日本の国連安保理常任理
事国入りをチラつかせたかと思えば、アビゼイド司令官がサマワで
自衛隊のさらなる国際任務を示唆し、阿吽の呼吸で日本政府に迫っ
ているところが、ニクいねえ。


  川口前外相いわく、「そこに山があるから」登りつめたくてしょう
がない、憧れの常任理事国! ああ、うれし恥ずかし一等国!
 その夢の常任理事国にしてもらえるようなことを囁かれれば、日
本政府も、グラグラ来ちゃうに違いない。


  ところで、日本とイラクの間に何となく目を向けると、最近注目
を浴びている中国と、もうひとつの大国、インドが横たわっている。


  日本ではあまり知られていないが(これも日本のメディアの怠慢
か)、このところ欧米は、アジアの大国として台頭しつつあるインド
に熱い視線を送っている。
  数字に強く、英語が通じるインド人は、世界のIT企業で引っ張
りだこで、インドの経済成長も目覚しい。
  欧米では、将来のアジアの二大大国は、中国とインドだとする報
道も少なくない。


 わが国の『平成16年版防衛白書』の69ページにも、インドの
対中関係改善や、軍事大国ぶりが記されている。
 さらに、同じく70ページには、ブッシュ政権下の米国との軍事
交流が活発化し、とくに弾道ミサイル防衛に関する対話の拡大や、
原子力の平和利用、宇宙開発、ハイテク関連貿易における協力の拡
大に合意した、とある。


 そして、ロシアと友好関係を築き、アフガンを掌中に収めた米国
は、あたかも中国包囲網を敷くかのように、現在インドに熱烈な秋
波を送っている。


  そのインドのニューデリーで、2004年11月6日、驚くべき
事件が起こった。


http://www.hindu.com/2004/11/07/stories/2004110715601000.htm


 こともあろうに、冷戦時代のインド批判の急先鋒、キッシンジャ
―元米国務長官が、インドの国連安保理常任理事国入りを支持した
のだ!
  彼は、インドを「世界の大国」、その仇敵パキスタンを「地域プレイ
ヤー」と呼び、「もし中国と日本が国連安保理(常任理事国)に入る
なら、インドを除外するのはおかしい」と述べ、インドのメディアを
沸かせた。


  米政府は、2004年9月に常任理事国入りを目指すと表明した
ばかりの核保有国のインドに対しても、非公式ながら、日本と同じ
ようなアプローチを仕掛けているのだ!


  世界唯一の超大国とはいえ、米国に2つの国を常任理事国にする
力があるんだろうか?
  そこで、ベーカー駐日米国大使の発言を注意深く読むと、日本の
常任理事国入りを支持するとは述べているが、国連改革を推し進め
るとは一言も言っていない。


  他方、米政府の戦略として明確なのは、日本に"集団的自衛権の
行使"を望んでいることだ。


  2000年10月、現米国務副長官のアーミテージは、いわゆる
『アーミテージ報告書』を発表し、来るべきブッシュ政権の対日政
策の基本方針を示した。

  そこには、日本が集団的自衛権を行使できないことが、日米同盟
の足かせとなっている、と明記されている。
 一応、その選択は日本国民に委ねる、とはしているが。
 
 また、日本を英国のような同盟国にしたい、そのためには米国は
尖閣諸島も含む日本の防衛に努めることを再度表明するべきだ、自
衛隊と米軍との結びつきを強化する、日本がPKOで他国の負担と
ならないように完全参加できるようにしなければならない、ミサイ
ル防衛の協力を拡大する、などとも記されている。

 ただし、日本を常任理事国にするとは書いていない。


http://www.jiaponline.org/specialreports/

↑以前は無料で入手できるサイトがあったけど、今はJIAPとい
うリサーチ・センターが会員以外に有料で配布している。
アーミテージのケチ!


  4年前の報告書発表当時は、その内容は夢物語のような気がした
が、9.11を経て、今や実現まであと一歩、という感じだ。
 不気味なことに、事態は報告書のシナリオ通りに動いているよう
に見える。


  はたして米国は、本気で日本を常任理事国にしてくれるつもりな
のか、それとも日本に"集団的自衛権の行使"を解禁させて、もっ
と自衛隊を利用しやすくするために"常任理事国"をチラつかせて
いるのか、その真意やいかに?


  いずれにせよ、米戦略、恐るべし!である。


続く