『フィナンシャル・タイムズ』(英) 2004年7月21日
−日本の派遣隊、慎重にイラクの土を踏む
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サマワ郊外の鉄道の駅の近く、第二次世界大戦後初めて戦闘地域
に派遣された日本の軍隊は、地元イラク人から広い支持を得ていた。
ところが、当初のもの珍しさが消えると、彼らのやり方が批判さ
れるようになった。
ムサンナ州は、おそらくイラクで最も平穏な州で、しかも(フセ
イン政権の)バース党から35年間見放されてきた。
サマワの住民は、高速道路建設や住宅整備まで、日本に期待しが
ちである。
日本の高度な技術を歓迎し、道路建設や水田復旧を期待している
シーア派の指導者は、「日本人には、客人として来てもらった……わ
れわれが彼らを守る」と語る。
しかしながら、米国のNGOで働くカルダン・ラシドは、日本人
は地元の優先事項を無視して、住民とろくに相談もせずに勝手に事
を進める、と語る。
入札過程にもほとんど無頓着なので、地元の請負業者にいいよう
にされているという。
「日本人自身はそうではないが、彼らの支援事業が腐敗し始めてい
る。人々は、プロジェクトがきちんと遂行されていないことに気づ
き始めた。いずれにせよ、日本人の責任だ」とラシドは語る。
彼は、自衛隊を守っているオランダ軍のほうを高く評価している。
オランダ軍は、4月に暴動が起こった時、迅速に対応した。
4月には、日本人ジャーナリストや人道支援家5人が誘拐され、
解放された。5月には日本人ジャーナリスト2人が、殺害された。
だが、自衛隊のスポークスマンのナカシマ・カズオ3佐によれば、
1月の展開以来、日本の兵士が負傷したり、あるいは、発砲したこ
とはない。
彼は、日本の活動規模が地味であることを自覚している。そして、
彼らの活動は日本の法律によって、給水や医療、インフラ復旧に限
定されていると語るが、日本軍がムサンナ州でどれほどの金を使っ
ているのかは、明らかにしない。(注:自衛隊の不透明性を指摘)
自衛隊イラク派遣は、日本が石油に関心があるからではないかと
いう疑いもある。
ただ、自衛隊はこのような問題には関わっておらず、ナカシマ3
佐はもっと凡庸な問題を指摘する。
「日本社会は非常に時間に厳しい。彼ら(イラク人)は時間どおりに
来ないことがあるので、アポの時間を早めに設定しています。われ
われは、現地に適応しようと努力しているのです」。
。。。。。。。。。。。。。。
『ニューヨーク・タイムズ』(米) 2004年10月6日
−一発の発砲もなく、イラクを進む日本の兵士たち
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宿営地を出る日本の車両は、まるで東京のショールームから抜け
出したばかりのように、ピカピカだ。
他国軍の車両のような、へこみや汚れがない。メンテナンスが行
き届いているからかもしれないし、治安悪化のせいで宿営地内に閉
じこもりがちになったからかもしれない。
戦後日本初の紛争中の国における任務は7ヵ月を経過したが、陸
上自衛隊は、まだ一発も発砲していない。
軍隊としての存在は小さいものの、このイラクでの任務は、憲法
改正や、自衛隊を正式に軍隊に変える動きなど、日本の変化を大き
く後押しするものである。
最近の国連総会で、小泉首相は、自衛隊イラク派遣を引き合いに
出して、日本の安全保障理事会の常任理事国入りを求めた。
日本の司令官たちは、イラクで最も安全な場所のひとつであるサ
マワを自衛隊の派遣先に選んだ。
外国人がレストランで食事できる、希有な街だ。
しかしながら、宿営地が攻撃されたこともある。
そして、派遣隊員の中から一人でも死者が出ようものなら、日本
の国内世論が派遣反対に振れる可能性もある。
今年前半、日本政府は、イラクで誘拐された日本の民間人を、日
本のイラクにおける役割を複雑にしたと批判した。
サマワでは、役人も一般人も、日本の復興支援に対する失望を口
にする。
ムサンナ州知事は、小泉首相に苦情の書簡を送ったと語った。
自衛隊の群長、松村五郎1佐は、日本の支援は非常に注意深くて
技量も優れており、地元の人々からもそのような評価を受けている、
と語った。
しかし、総合病院の医師は、発電所や浄水所、街全体を網羅する
下水システムを建設するものと思っていた。
最近、自衛隊に校舎を修復してもらった女子校の教師も、「今、学
校はきれいになったが、街の他の場所では、何も大したことをやっ
ていない」と言う。
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日本政府にとっては、この任務は、日本の国際的な地位を向上さ
せるためのものだ。湾岸戦争の際には、日本はカネしか出さないと、
米国でバカにされた。
というわけで、日本は去年、イラクで自衛隊が非戦闘活動を行え
るように、特別法を成立させた。
自衛隊のイラク派遣はブッシュ大統領を喜ばせたが、サマワの住
民の不満が募るにつれ、彼らの自衛隊に対する目も変わってきた。
最近、自衛隊は米軍の秘密基地を建設しているのだという、根拠
のない噂まで広まった。
電化製品店の店主は、「本当は、彼らは米軍のイラク占領を助けて
いるんだろう」と語った。
シーア派のサドル師の組織の地元代表も、「日本も米国に占領され、
広島で惨事を被った」ので、自衛隊を肯定的に見てきたが、「この土
地の人々をほとんど助けないので、今、彼らが人道支援部隊なのか、
軍隊なのか、改めて吟味しているところだ」と言った。
日本は、現地のテレビや新聞を通じて、自衛隊が非戦闘部隊であ
ると宣伝してきた。また、米国主導の軍事キャンペーンと関連づけ
られないよう細心の注意を払い、たとえば、他国軍と一緒にいると
ころを目撃されないように努めてきた。
翻って東京では、日本政府は、米国との軍事的な結びつきを深め
ている。
日本は米国主導の弾道ミサイル防衛構想に参加しているが、その
開発・製作段階では、武器輸出三原則が覆ることになろう。
さらに日本国内では、憲法9条や自衛隊の定義などを含む、憲法
改正へのコンセンサスが形成されつつある。
米国は、日本により大きな軍事的責任を負うよう、迫っている。
8月にはパウエル国務長官が、憲法9条を改正しなければ日本は
国連安保理の常任理事国としての役割を果たせないだろう、と発言。
ムサンナ教育大学の教授は、日本がサマワに小さな部隊を送って、
米国との絆に留意しなければならないことに理解を示しながらも、
「……私たちを忘れないでほしい。彼らは最近、めったに宿営地を離
れない。……日本の部隊は大きな仕事をする必要がある。彼らがこ
こを離れた後も、長く記憶に残るような。発電所や下水道システム、
あるいは地下鉄などの建設でもいい」。
。。。。。。。。。。。。。
ここまで読むと、サマワでは2月下旬の時点から、早くも自衛隊
に対する不満が出ていたことがわかる。
4紙とも一貫して現地住民の失望を伝えているが、何も大手英米
紙が結託して自衛隊を辱めているわけではない。
批判慣れしていない日本人は、外国が日本を批判すると、陰謀説
を唱えがちだが、これらのうち3紙は米国ではライバル紙同士で、
さらに大手英紙までこう伝えているのだから、感情移入することな
く客観的に自衛隊を捉えると、大方こんな状況なのだろう。
ちなみに『ニューヨーク・タイムズ』(米)は、同じサマワからオ
ランダ軍についても報じている。米軍とは対照的な、彼らのソフト
な手法を伝えた記事で、米軍にとっては耳が痛い内容だろう。
ご参考までに、この記事の要点もご紹介する。
日本では、自衛隊も同様のアプローチを取っていると報じられて
いるが、前出の海外紙報道を見ても、どうやら実際には宿営地に閉
じこもりがちなようだ。
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