ロシア、 語られない戦争 (アスキー新書)
チェチェンゲリラ部隊によるアブハジア侵攻作戦に従軍した常岡浩介氏の本。
チェチェンやイングーシでの戦争のことや、リトビネンコ暗殺のことなども出て
くるが、圧倒的に価値が高いのは、アブハジア侵攻作戦への従軍記だ。ほとんど
の戦争屋ジャーナリストは、すでに「・・・・で戦争が始まった、始まりそう
だ」と日本にいてもわかる情報を元に、現場へは単なる確認作業をしにいくもの
ばかりだが、アブハジア戦争は、現地へ行ったことによって発見した戦争だ。
本書のアブハジア戦争は、勃発後も、当事国以外ではまともに報じられていな
い戦争で、そのときに現地へ入っていた常岡浩介自身も、その時点で初めて知っ
た戦争である。1980年代までのジャーナリズムは、このような「知られざる
戦争」を知らせることが高く評価されていたが、最近は、「みんなの知ってる有
名な戦争を見に、ボクも行ってきたよ」と表現するほうが、ワーワーキャー
キャー騒いでもらえ商売にもなる。つまり、軽薄なほうがジャーナリズムはうま
くいく。
常岡浩介は後日、昨今のそんなジャーナリスト業に愛想を尽かして帯電話業者
となった。チェチェンの難民村やアブハジア最前線から、どのようにして情報を
世界に発信するかという試行錯誤から、携帯電話という通信技術にほれ込んだの
だという。そして、現在は、ナイジェリア駐在の日本企業商社マンである。
ジャーナリスト業なんかに身を置いていては、ものごとの表面しか見えず、事の
真髄は見えないということを実感した人生選択だろう。アブハジア戦争従軍も、
もし彼が単なる一流ジャーナリストだったら、実現しなかった。
(加藤健二郎) |