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ある武道家から「イラク戦争最前線」の感想が送られてきた。 |
この本の著者には、イデオロギーも思想もなんにもない。戦争という現象に興味がある だけという。全く見たまま聞いたまま、スッポンポンが読者に伝わってくる。「恐るべ き」といっていいほど曇りがない。 物事を観察観測し、それを人に正確に伝えるのに、このように自らが無私、透明になっ て、しかも説得力ある情報をもたらすということが、どれくらいの努力、修練を要するも のであるかというのは、長年生きてきた私には、身に染みてわかる。これは武道の修練と 同じだ。 また、人間の盾の各人が次第に発砲音と着弾音さらには飛来音と飛去音を聞き分けられ るようになってゆく状態など、人間の順応性と極限状態の関係を実に詳細に観察してい る。こういうレポートによくありがちな「俺はベテランで平気だが、なんだ、あいつらの だらしなさは!」というくさみが著者にはまったくない。「まあ、そういうもんですね え」という冷静透明とは、一体この人は何百年生きてきたんだろうと思いたくなる、いわ ば武道達人の境地であろうか。 (実戦派武道家) |