活動送られてきたグッズ(書籍以外)


軍事研究流・パールハーバーの楽しみ方

 

巨大試写会の様子東長崎機関的 試写の感想

(注: 文中の画像は、敬意を込めて映画「トラトラトラ」のパンフレットからのものです)

飲み食い軍事ジャーナリスト・大久保義信氏より。
大久保氏の著書「戦闘糧食の三ツ星を探せ」(光人社)
を片手に映画評を読むとまたいい。

そういえば、大久保さん、
「GON」という雑誌でも大活躍ですね。


以下・大久保氏よりの感想




 まず混乱させられるのが、アメリカの参戦前なのに、アメリカ陸軍の現役パイ
ロットが制服を着てバトル・オブ・ブリテンに参戦してしまうところ。実際は民
間のアメリカ人義勇兵が「イーグル・スコードロン」を編成していたわけだ。
 せっかく「空軍大戦略(バトル・オブ・ブリテン)」で描かれたレーダーとG
CIを用いたシステマティックな迎撃戦が、この映画では、田舎のヤクザの出入
りみたいな空中戦になっているのも、なんだかなあ。


 実機を登場させたスピットファイアの
型式が当時のものと違うってのは、僕的
には気になりませんでした。当該機がな
いんだから、仕方ないですな。そもそも、
これは真珠湾奇襲の場面でもそうだけれ
ど、CGを使って、しかも本当では
有り得ないメチャクチャな飛行シーンを
作ってしまった結果、現存するスピット
や零戦を出演させた意義がまったくなく
なってしまったように思う。

 ところで、撮影中の99式艦爆役の1機
が事 故で墜落しているんですが、カメ
ラマンの花井健朗さんが現地を訪ねた際、
片付けられた事故機を撮影していたのだ!

 その写真を見せていただいたのだが、
機体各所にある整備覚え書きの「日本語
モドキ」はなかなか微笑ましい。
とくに「零式艦爆(爆撃?)」って何? 
この写真は、発売中の別冊GON!・
04号の55ページに載ってます。
 次に例の、奇妙な作戦会議の場面で紹介される航空魚雷。雷撃機から投下後三
〇〜六〇b(以上)も沈降してしまう通常の航空魚雷は、水深一二b程度の真珠
湾では使えないってんで、沈度を抑えた91式魚雷改2型をベテラン・パイロット
に使わせて戦果をあげたの は、本当。

 でも映画で「この木製部品をつけて」とか言って魚雷尾部につけて見せている
のは框板(きょうばん)という、空中雷道、とくにそのピッチングを制御するた
めの尾部フィンである。沈降制御の要となったのは、魚雷後部両側面に付けられ
た、水平用ジャイロと連動する木製の空中安定舵なのだ。

 框板によって、落下中に頭部が上がったり尾部が上がったりするピッチング現
象は解決したものの、次に、空中雷道中の魚雷は無秩序にスピン(長軸方向に回
転)することが判明。スピンしながら着水すると、弾体が安定していないため舵
(尾部水中フィン)が効かず沈降度が増してしまうのである(90度回転した状態
で水中雷走を始めると横舵と縦舵が逆になって迷走したりもする)。

 そのスピンを、水中安定機に被せるように取り付けた空中安定舵で制御して解
決したわけ。着水の衝撃で飛散するのは、框板と同じである。
 次に予告編でも登場していた、水平爆撃する97式艦攻
から投下される99式80番5号(800s徹甲)爆弾。
 尾部の安全装置解除用風車がちゃんと回転していて感
心したのも束の間、あの風車を時限信管装置だと勘違い
しているようでガックリ。これは基地に投下された250s
爆弾もそうで、なんだかなあ。

「アリゾナ」への命中シーンでは、ドカドカッ、と艦内
を貫通して乗員の目の前で止まったので、これは「ウエ
ストバージニア」への着弾場面(同艦へ命中した800s
爆弾は、二発とも不発だった。もっとも弾薬庫を貫通す
る際に砲弾を誘爆させている)だと思って「ほう、やる
な」と感心していたら爆発してしまった。 

 いくら対艦用延期信管とはいえ、延期時間は約0.2秒で、
あんな に長い“待ち時間”があるわけではない。

 このように「オッ、よく出来てる」と一瞬思わせてお
いて、ガッカリさせられるので疲れること甚だしいのだ。
 執拗に海上のアメリカ軍将兵を機銃掃射するシーンもなんだかなぁ、である。
実際は、艦艇や格納庫、飛行機など割り振られた目標を攻撃するのに「忙しく
て」あんな事するヒマはなかったハズ。それに貧乏性の日本軍は、人間よりも兵
器類を狙う傾向もあったし。あえて考えるなら、あの機銃掃射場面は、古い地図
で目標選定をしてしまったがゆえに、教会やビアホールを攻撃しまくった史実の
別表現なのか…なんてことはないな。
〈こっからは箇条書にてゴメン〉

*真珠湾攻撃隊は、水杯なんか
交わしましたっけ? カミカゼ
特攻隊と勘違いしているようだ。

*:だいたい日本の空母の中で、
ロウソク点けて遺書を書くって
いったい…。
*山本五十六連合艦隊司令官が、
直々に空母部隊を率いているの
も変。(それにあのド下手な日
本語を聞くたびに、心が冷える
んですが)

***ちょっとおもしろいのは、
攻撃隊の発艦シ−ンで、アメリ
カの空母を前後逆にして日本空
母役にしていること。


つまり艦尾が艦首に、艦首が艦尾になり、“後向きに前進”していることになっ
て、CGの艦載機は艦尾側に向かって発進しているのだ。これで右舷が左舷に、
左舷が右舷になるので、唯一、艦橋が左舷側にあった「飛龍」か「赤城」を表現
したらしい。。


 でもそれなら、右舷にあるオリジナルの艦橋をCGで“切り取って”、左舷の
アングルド・デッキの上に張りつける方が、ずっと自然なのではないだろうか?
 もしかしたら、アメリカ海軍が「CGで“上塗り”するのはいいが、形をかえ
るのはイカン」とかいったのかも。


*ハワイには白人と黒人、おまけ的な日系兵士2名しか住んでいな いのか?

*ドゥリットル攻撃隊で、爆弾に日本海軍からメダルを付けて送り返すアイディ
アは、ドゥリットルのものではなくて、海軍のミッチャーの発案。しかしこんな
のを観せられて、アメリカ陸海軍の(史実を知る)人たちって、楽しいんだろう
か?

*アメリカ空母を発見したのは、100トン
そこそこの、徴発漁船哨 戒艇なのに、
なんか駆逐艦か軽巡洋艦のように描かれて
いて爆笑。結局、3〜4隻の哨戒艇が接触し
ているんだが、うち1隻(やっぱり 漁船改
造、94トン)は、25ミリ機関銃でドーント
レス1機を撃墜し ているんだから、立派な
ものである。

*ドゥリットル攻撃隊全機発進には、1時間
かかっている。それが ほんの数十秒で16機
が空中に。


*1番機(ドゥリットル機)、2番機は茨城県
沿岸から侵入、水戸市上空で南に転進したの
だが、茨城にあんな崖の海岸って、ないよう
な…。

ところで、水戸市南の上空でドゥリットル機
は、水戸飛行場を視察にきた東條英機首相の
乗る輸送機とすれ違っている。これなんか映
画的におもしろいエピソードなのになぁ。
あ、「パールハーバー」は歴史を描いた作品
ではなかったな。
*そもそもルーズベルトが、空母から陸軍の爆撃機を発艦させて東京を爆撃する
計画を知らされたのは、空母が日本に接近しつつある時で、つまり事後承認だっ
たのだ。たしかに“目に見える”反撃作戦実行を求めてはいたけれど。

*過剰なまでに凄まじい日本の対空砲火。東京を通り越して、ドイツまで行っち
またんじゃないか?
*発艦に時間がかかったため、後続機は
かなりの対空砲火を浴びたのは、事実。
でも全機が日本を脱出しているのに、
なんか、ほとんどが撃墜されたと思わせ
るような演出って狡い。

*不時着後、日本軍に反撃するシーンで
(ここからして史実を無視したデタラメ
なんだが)、日本の手榴弾はピンを抜い
ただけでは爆発しませんぜ。
*史実では、宣伝のために帰国を急がせたドゥリットルでさえ、帰還には空母発
進から1か月を要している。それが数日で帰ってきた ような描写には大笑い。

*捕虜になった8名のうち3名は、軍事裁判で死刑に処せられている。ノベライズ
本では「宣戦布告前の攻撃に比べて、首都攻撃が**」とかいっているけれど、
裁判の罪状は民間人を殺傷したことであって国際法上、正当性はある。まあ、日
本もすでに中国の都市を無差別爆撃していたんだけどもね。とにかくノベライズ
本も可笑しいということでした。
〈いちばんハラがたったシーン〉

 ルーズベルトが車椅子から立ってみせて
説得するところ。自分のハンデイキャップ
を盾に人を動かすのってハラ立つ。本当に
ああいうことしたんだろうか。


〈いちばん笑ったシーン〉

 ラスト近くのヒロインのモノローグ、
「アメリカは変わった…強くなった」。
子供じゃないんだから。ま、日本も子供の
国なんだけれど、ああいう事をテレもなく
言っちゃうってのはスゴイなあ。

〈教えてください〉

1:ヒロインの「赤色」という色の口紅は、当時っぽくていいとは思うんです
が、看護婦があんな濃い口紅をつけるもんなんでしょうか? アメリカ風俗史に
くわしい方、教えてください。

2:20年代の子供が、ケンカで「ドイツ野郎!」などと言うことが、あったので
しょうか? これもアメリカ風俗史にくわしい方、教えてください。
                          ではでは







 さらにドゥリットル隊の東京空襲でも、漁船改造の日本の哨戒艇が駆逐艦にな
っていたり、過剰なまでに激しい日本の対空砲火など、思わず笑ってしまいまし
た。やれやれ。



 ドゥリットル隊の東京空襲でも、漁船改造の哨戒艇が駆逐艦のように描写され
たり(100dの小舟じゃ絵にならないからだろう)、 ドイツ並みに激しい日本の
対空砲火など、内容ではなく派手さで勝負、という映画。