チェ・ゲバラの人間性を重点的に描く映画かと思って観にいったら、意外に も、キューバ革命戦争での戦術や戦闘を主に描写した映画だった。いきなり、メキシコから船でキューバへ向かうシーンへと移る。アルゼンチン人のゲバラは、 中南米の旅をする途中での軽い気持ちで、キューバ革命に参加したという専門家 もいるが、そのへんの、ゲバラの心境変化については、わかりやすくは描かれていない。
さて、その戦闘面からみると、「えっ、キューバ革命の戦闘って、こんなに簡 単だったの?」と感じてしまうほど、政府軍は、ガタガタのボロボロで、キュー バの民心のほとんどは反政府であり、カストロとゲバラのゲリラ部隊は、するるっと都市部へ前進でき、独裁政権を倒す最後の詰めをしたというイメージに描 かれている。
それに引き換え、キューバ革命以降のチェ・ゲバラの革命人生は、ほとんどなに もうまくいっていない。アフリカへ渡って革命を普及しようとしても、ゲバラの 思想は受け入れられず失意の下にアフリカを離れ、ボリビアでは、戦いに勝てず 戦死する。つまり、第2作「チェ 39歳 別れの手紙」のほうが、英雄が実は人生うまくいってないという面を表していて、見ごたえあるのかもしれない。正直 言って、第1作「チェ 28歳の革命」は、スムーズすぎて、さらっと観終わってしまった。
というわけなので、革命国家ニカラグアに住んでいた東長崎機関員としてのラテンアメリカ文化圏から見た感想に移ろう。
チェ・ゲバラの愛称であるチェは、アルゼンチン訛りのスペイン語の語尾に使 われる特徴的な発音である。私の住んでいたニカラグアでは、「プェ」に相当す るので、もし、ゲバラがニカラグア人だったらプェ・ゲバラになったことにな る。それを考えると、映画の中で、ゲバラの喋るスペイン語の語尾に「チェ」と いうアルゼンチン訛りが入るとよりリアルでおもしろかったかもしれないが、そんなことしたら、チェという愛称に夢と憧れとロマンを持っているファンたちに とっては嬉しくないか。日本流に言えば、ずーずー弁の「ずー」みたいなもんだ から。
日本では、ゲバラ好きは、思想の壁を超えて多い。しかし、キューバが身近 だったニカラグアのような革命国家に住んでみると、ゲバラは必ずしも賞賛され ているわけではない。革命達成後のキューバが相変わらず不自由の多い貧乏国 だったことをおもうと、革命は達成できたけど、良い国づくりには成功していない。貧国キューバでずっと頑張るフィデロ・カストロに比べ、ゲバラは、夢とロ マンを追った男ということで、ゲバラは指導者としての評価がニカラグアでは低 かった。日本や欧米、中近東などの遠い地から見れば20世紀最大の英雄に見え ても、もっと身近な人たちにとっては複雑なようだ。ゲバラを好きではあるが絶 賛するほどの評価はしていなという感じ。しかし、こうして21世紀となり、 20世紀の革命戦争なんか過去の歴史となり、老人たちの青春の思い出となって しまえば、ラテンアメリカの人たちにとっても遠い出来事となり、美しい夢とロマンとして受け入れられるのかもしれない。
私は、ゲバラを含め革命家の生き方に特に敬意を感じたことはない。それは、 自分が元々建設エンジニアという作る側の人間だったからかも。革命というのは、国を作る行為ではなく壊す行為だとおもっている。しかし、革命家として、 あっちこっちのけしからん国を壊してまわるのは、生きかたとしてはおもしろい だろうな、という想像くらいはできる。あくまで個人の生きかたとして・・・、 である。でも、おもしろい生きかた楽しい生きかたをしている人には魅力があ る、ということかな。 |