ヒマヒマなんとなく感想文|

「男たちの大和/YAMATO」


(加藤健二郎 2005.12)

男たちの大和/YAMATO
戦後60年記念作品
製作総指揮/高岩淡 広瀬道貞
製作/角川春樹
監督・脚本/佐藤純彌
原作/辺見じゅん「決定版 男たちの大和〈上〉〈下〉

出演/反町隆史 中村獅堂 仲代達矢 鈴木京香 他

私が戦艦大和についての書籍から強く印象に残っているものがいくつかあるのだが、その点はことごとく外されていたような気もする。

まず、戦艦大和を建造していた技術者たちの夢と誇りに満ちた物語。そして戦艦大和建造における機密保持ゲーム。

そして、レイテ海戦に向けた猛訓練。そのとき大和を含む日本海軍の主力艦隊は、油田のあるブルネイを拠点にしていて、石油をふんだんに使えたものだから、かなり緻密でハードな訓練を繰り返していた。
 襲ってくる米軍急降下爆撃機に対する組織的な射撃方法と、爆弾を回避する操舵方法をコンビネーション化した訓練もしていた。魚雷を発射する雷撃機編隊と、爆弾を投下する爆撃機編隊が目標の軍艦を挟むように突っ込んできた場合の回避方法と弾幕の張り方。これら猛訓練と研究を重ねるうちに、対空戦闘に対する自信がついてきたと記している元大和乗員もいる。

 映画の中では、このような頭脳プレイ的な訓練のシーンや、訓練の蓄積から、乗員たちが戦術的スキルアップしてゆく過程には触れていなかった。こういう流れも、映画で表すにはいいシーンに思えるのだが。

で、結果を先にいってしまうと、このシビアな訓練の成果はぜんぜん発揮されず、無念にやられまくっていくわけだが、これがまた日本軍らしくて美しくていいって感動する人も多いんじゃないかな。 涙ちょちょぎれるシーン作れるよ。

映画中に、レイテ海戦のシーンはあったが私が好きなシーンがなぜか全面削除。
レイテ海戦といえば、戦艦大和を旗艦とする艦隊司令官による命令違反、独断退却がある。日本人的な心を持つ人は、こういう命令違反をした指揮官を罰することも批判することもせず「彼も苦しんで考え抜いた末の決断だよ」と美しいできごとにしてしまった。つまり、日本男児の美しさを表現する上で、この命令違反独断退却もなかなか良い材料だと思うのだが・・。

そして、レイテ海戦のハイライト、戦艦大和を含む日本艦隊が米空母部隊を攻撃し、空母「ガンビアベイ」を撃沈したときの戦いが削除されていた。この空母は、逃げながら雷撃機を発進させては大和のほうへ魚雷を放ってきたり、護衛の米駆逐艦も頑張ったため、実は日本艦隊はうまく追撃ができなかった。このシーンなんて、大和の主砲もガンガン発砲するわけだしおもしろいと思うんだが、なぜか完全削除されていた。

で、現実には、大和の砲弾はほとんど命中せず、他の戦艦や重巡洋艦の砲弾が戦果を上げたらしいんだけど、それは戦後に明らかになることなので、映画の中では、大和乗員が歓喜に満ちていてもいいだろう。なんで、この歓喜に満ちたシーンも完全削除にしたのだろうか。映画界ってよくわからない。

映画の中では大和が最後の出撃ということで沖縄へ行くことを末端の水兵ばかりでなく、呉の一般庶民たちも知っていた。たぶん、真実もそんなもんだったろう。日本人が軍事作戦の機密にまったく無頓着なことがよくわかるね。ミッウェー海戦のときも、同じような機密漏洩をやりまくってたのである。

戦艦大和の沖縄行きは決死の特攻かどうか。無駄死に作戦かとかいわれている。
レイテ海戦で、独断命令違反の退却をしたツケがここでまわってきて、特攻させられるハメになったのかな。戦艦大和は同じでも、指揮してた人間は違うので、別の人間が責任取らされるわけだ。

ちなみに、大和最後の戦いで、大和が食らったのは、魚雷10発と爆弾5発。
戦艦大和、こんなもんで沈んでしまうものなのである。また、400発以上といわれる爆弾、魚雷が向かってきたわけだが、その中で15発の命中弾しか食らわなかった大和の機敏な動きなんかも映画的にはいいと思うんだが、映画の中では、この操舵テクニックはほとんど注目されていない。戦艦大和は、ただでかいだけでなく、機動性もバツグンだったんだけど、そういうイメージは伝えられなかったね。

現在の海上自衛隊も、操艦テクニックではレベルが高いというプライドを持っているわけで、日本海軍魂を表現するためには、大和の操艦テクニックの素晴らしさも映画の中に入れても良かったんじゃないかな。


以下の図のように、左舷に集中攻撃されている。片側を重点的にやるのは、船を転覆しやすくするためである。こういう命中箇所データを頭の隅に置いたうえで、映画の戦闘シーンを観ると、より楽しめるでしょう。戦争というのは、アクションと感情だけではなく、戦略戦術もそこそこは大事なんですよって。


続く