ヒマヒマバブル絶好調道の川柳・森川晃

交通量解析から、来日要人の動きもわかる



 2009年8月末日の政権交代により高速道路の通行料金が無料になる可能性
がでてきた。それ以前に、同年3月から順次かたちを変えてETC限定の通行料
金割引が実施されている。これは、数年前から全国各地で実施されている
「ETC社会実験」の集大成と言えるかもしれない。社会実験は対象エリアが狭
く、多くはレジャー利用への利便性ではなく、平日の通勤時間帯における一般道
路の渋滞解消を目的としていた。そのため短距離利用が多く、自然なかたちでの
適用はおおむね地元の車両だった。

 狭いエリアにおける社会実験とは別に、全国共通での条件も設定されるように
なった。深夜割引、通勤時間帯割引である。後者は、各地で実施された通勤時間
帯における社会実験を束ねたと言える。大都市近郊区間を除き、全国共通で
100キロ以内の利用に限り、毎日6時から9時、17時から20時までが半額
になる。現在は100キロを超えても100キロまでの区間は半額になってい
る。これは、100キロ以内での利用にすべくインターチェンジを一旦出てから
入り直す車両が多くなったせいだろう。民意が規制を解除させたのである。

 また、深夜割引は、0時から4時までの時間帯にかかる利用で3割引の期間が
長かったが、現在は22時からの利用に拡張され、割引きは半額になった。大都
市近郊区間では、通勤割引は適用していないが、6時までの深夜利用は半額である。

 ETC限定割引の条件は複雑で、なかなか利用者にはわかりにくい。それでも
通勤時間帯割引と深夜割引はおおむね定着したと言える。
 そして、休日限定の普通車のみ最大1000円が適用された。

 当方は、交通量の統計資料を毎月欠かさず閲覧するようになって、そろそろ
30年になる。単なる数字の羅列であり、すべての数字を暗記しているわけもな
い。それでも、なんとなく前月との違い、前年との違いはわかる。違いを感じた
ら数値を比較し、なぜ違うようになったのか資料を引っ張り出して確認する。た
わいのない繰り返しだが、いろいろなことがわかる。違いの多くは新規の道路開
通による交通流動の変化に起因するが、自然災害や事故による通行止めの状況も
わかる。

 当方が閲覧しているのは、月ごとの全インターチェンジ間の平均交通量であ
る。1ヶ月以上の通行止めが続けば、交通量は0であり、すぐに気づくが、慣れ
てくると1日とか数時間の通行止めも見えてくる。これによりこの30年の自然
災害の規模と時期がわかる。集客の大きいイベントや連休に気づくこともある。
社員数万人の企業が移転するとか、娯楽施設の開設や閉鎖、近年は大都市郊外の
アウトレットモールの開設もわかる。要人来日による通行規制の影響もわかるの
で、つまり来日時期、場所もわかる。影響の度合いにより、要人の度合いもわか
る。要人の度合いというのは、どこの国の、どの地位の人が、何をしにきたのか
ということである。ウソのようだが、サミットクラスの数日におよぶ通行規制は
統計を見れば明確なのだ。

 道路はあくまで流通媒体である。一般的には道路に着目することはない。道路
を利用する「理由」が脚光を浴び、記憶されるものである。当方は世俗を遮断し
ているわけではないので、自然なかたちで「理由」の情報を入手している。しか
し、これらの多くは通り過ぎるだけで、整理したかたちで記憶されることはな
い。項目名と内容がぼんやりと散在しているのだ。この記憶にきちんと整理され
た交通量の統計資料をマージさせると、各項目に、位置、時期、規模というプラ
イマルキーが追加される。道路しか知らなくても、それなりに役に立つというこ
とだろうか。ただし、マージには時間がかかるし、そもそも道路しか関心がない
のでマージする気にならない。ということで、一般受けする知識人にはなること
はできない。

 さて、冒頭に記した通行料金割引は、高速道路の交通量に大きな影響をおよぼ
す。数年前から各地で実施されてきた社会実験と称する割引の影響については、
主催自治体からレポートが提出されている。当初は、道路の専門誌に掲載された
ものを読んでしたが、実験箇所数が多くなり、すべてを掲載できなくなり、掲載
できないものはインターネットからダウンロードするようにした。

 レポートは、実験目的を達成した体でまとまられている。一般道路の交通量は
少なくなり、目的地への到達時間が短くなり、その時間に単価を掛け合わせて成
果としている。ほかに、排出される二酸化炭素、煤塵の減少など環境への改善効
果もアピールしている。社会実験はあくまでも「実験」なので、実施期間は限定
されている。レポートは実施前の予測、中間報告、最終報告の3葉が基本である。

 最終報告後、再度実施されないケースもあれば、かたちを変えて再度実施され
ることもある。また、全国的に実施される実験に吸収されることもある。現在
は、ローカルな実験は少なくなり、全国共通の実験になってきている。そのせい
か、かつては実験結果に対して細かい対策が施されていたが、だんだん大雑把に
なってきた。最小対策で最大利益をあげるかたちから、利益を度外視した対策に
変わってきた。

 ローカルな実験が実施されてきた数年については、後日、交通量の統計資料を
見ても当方でも見逃すことがあるくらい影響は少なかったが、2009年3月以
降の全国レベルの壮大な実験は誰が見ても気づくほどの変化をもたらしてきてい
るのだ。前項で記したように、当方は30年間交通量を見てきて、勘所を身につ
けている。実は、それ以前の交通量についても統計資料をまとめて見ているの
で、都市間高速道路は1963年7月16日の名神高速道路(栗東ICと尼崎
ICの間の71.1キロ)、都市高速道路は1962年12月20日の首都高速
道路(京橋と芝浦の間の4.5キロ)の初開通以降、月毎の全区間の交通量を見
ている。

 暗記していなくても違いに気づくことができる。これにはカラクリがある。交
通量にはいくつかのパターンがある。月毎の交通量はどの年でも同じようなかた
ちで変わっている。さらに週毎に着目すれば、日曜から土曜までの交通量の変化
は明確である。時間に着目すれば、1日のうちどの時間帯に交通集中が発生する
か決まっているのだ。道路の構造変更(車線増など)、新規開通(迂回ルートの
追加)についても、これらの事業体からの交通量変化予測レポートを見ているの
で、結果を見る前に着目すべき箇所を絞っている。沿道の自治体から発信される
情報にも目を通している。これは交通需要を予測することに役立つ。つまり、多
くの支援情報により交通量の変化を事前に予測した状態で、当月の交通量に目を
通しているので、変化に気づくのはあたりまえで、むしろ目を通すのは変化を確
認するだけなのだ。そのせいか「発見」はほとんどない。

 しかし、2009年3月以降の高速道路の料金をめぐる一連の社会実験の交通
量への影響は、変化を見つける勘所に多大なる影響をおよぼすような気がする。
すでに、1962年以降、約50年の交通量変化の常識をくつがえす変化が見ら
れるようになってきた。大都市近郊、および東名高速道路、名神高速道路の交通
量は微増だが、地方都市間を結ぶ高速道路の交通量は想定外に増大している。高
速道路という社会資本が有効利用されてきて好ましい状況になってきたと言える
が、交通量の常識を見直しておかないと予測が難しくなってきた。当方にとって
は趣味の域を脱しない児戯にすぎないので問題はないが、高速道路の管理、運用
事業体にとっては一大事である。特に計画を司る事業体は、的確な予測ができな
ければ良好な社会資本追加には至らない。
そこで、これに続くレポートでは、2009年3月以前の交通量について簡単に
整理してみる。

続く