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この事故を知ったのは昼休みに友人と昼食にでかけた広島焼の店内である。 ラジオで事故のことを話題にしていた。ニュースではないので事故詳細はわか らなかったが、「福知山線」「脱線」「通勤快速」というキーワードで、事故 地点を特定することができた。当方は道路には詳しいが鉄道は詳しくない。 それでもJR東西線(片福連絡線)のような大規模な都市計画には関心がある。 本当に詳しいのはJR東西線の建設に伴う北新地の国道2号の地下空間だが、 それはともかく福知山線の線路付け替えもこのプロジェクトの一環である。 ところで、福知山線の線路付け替え(線形変更)は、いくつかの段階を経て いる。(◆地図1を参照。) |
◆地図1 福知山線の線形。 |
福知山線は当初、東海道線と直行して尼崎港に直進するルートが本線だっ た。東海道線との亘り線は中央卸売市場を挟むかたちで上下線が分離するダイ ナミックな線形で立体交差になっていた。このころ福知山線は大阪と宝塚、播 但、山陰方面を結ぶメインルートではなかった。宝塚までは阪急線、播但方面 は播但線、山陰方面は新幹線で岡山から伯備線、京都から山陰線を利用してい た。宝塚までの阪急線以外は需要も少なく、大阪という大都市に接続していな がらめったに列車の走らないローカル線だった。1970年ころ宝塚にいとこ の家があったのでときどき出かけていたが、よく福知山線の線路上で遊んでい たのだ。 それから、福知山線の宝塚から三田にかけての武庫川渓谷区間の線形改良、 三田以南の複線化、全線電化により急速にメインルートへの地位が高まった。 尼崎港までの本線が廃止され、亘り線が本線扱いになった。このころは既存の 上下線が中央卸売市場を挟む線形をそのまま使用していた。 そして、国鉄からJRに変わり、JR東西線が開通することになり尼崎駅の 線路配置が複雑になってきた。下り線は特に変更せずそのまま使用できるが、 今回事故のあった上り線は現在の線形では尼崎駅の分岐(東海道線大阪方面と JR東西線北新地方面)へのアプローチ区間が確保できないため尼崎駅の西側 の東海道線との接続位置を西にずらす必要が出てきた。(◆地図1の「上り亘 り線」では東海道線との接続点が尼崎駅に近すぎるので、「下り亘り線」の敷 地を進行して、「新たな上り亘り線」を新設して東海道線と接続させる。 この線形変更は理解できるものであり、特に問題はないだろう。問題は事故 地点の線形である。事故地点は◆地図1の拡大図でも明らかだが、建物が元の 線路敷を残すように配置されている。本来の福知山線は伊丹方面からまっすぐ に直進するルートだった。それに上り方向については専用の亘り線が配置され ていた。それを下り線専用の亘り線に便乗するかたちで上り線の線路を付け替 えてしまった。 |
亘り線の線形変更模式図。 |
安易に線路を付け替えても問題はないのだろうか。事故地点以北(伊丹方面) からの線形はまっすぐで、かつての尼崎港方面への本線直通ならばトップスピー ドでも問題ないだろう。東海道線への亘り線はゆるい右カーブに至るが、カーブ は徐々にきつくなって東海道線との接続地点ではかなりきつい曲率半径になって いる。かなりきついカーブでも「徐々に」至れば問題は少ないのだ。そしてJR 東西線開通に関連して本来は下り線専用の線形に無理やり上り線を便乗させた。 しかもこの線形がいかにも本線のかたちになっている。この本線は見せかけで、 真の姿は亘り線なのだ。しかも上り線に関しては本来不適切な線形なのだ。 通勤快速が走る福地山線の区間で脱線事故が起こる可能性のあるのはここしかな いと思っていたら、ズバリ的中したので寒気がした。 線形の付け替えを模式化すると(◆図1)、当初本線が直交していて、亘り線 が配置されていたとする。次に直交する本線の一部が廃止になり亘り線を含む区 間が本線になったとする。亘り線を本線に昇格させるときに単に名目だけならば、 曲率半径はかつての亘り線分岐点で急激に変化することになる。これは机上の遊 びに過ぎないが、亘り線を含む新たな本線の4分割した点をスムージングさせる と(◆図1の右下の赤円を結ぶ細線)かつての分岐点を頂点としたわずかなふく らみが生じる。曲率半径をなめらかにさせるためには実際の線路でも徐々にカー ブをきつくするか、用地に余裕のない場合はカーブの反対方向に少し振ってから カーブに進入させなければならない。事故地点のケースでは伊丹からまっすぐに 進んで少なくとも名神高速道路をくぐるあたりではやや左にカーブさせてから事 故地点で大きく右にカーブさせる線形にすべきだろう。理想的には、◆図1の右 下の青点線のように十分な曲率半径が確保できれば問題はないが、事故地点付近 では用地確保は難しい。 事故後、マスコミはJR西日本バッシングばかりでなかなか線形のおかしさを 取り上げてくれない。事故後1週間を経て、国土交通省がJR東西線関連の線形 変更の調査に乗り出したのを知った。新聞の記事は小さく、TVは見逃したかも しれないがこのことに触れた話題に気づかなかった。マスコミや世間は線路には 関心がないのだろうか。確かに鉄道マニアは多く、この世界は成熟しているが、 線路に詳しい人は少ないようだ。線形が事故原因の真実に近づくかどうか不明だ が、少なくとも当方はJR西日本の労務管理の追求よりは近道と信じている。運 転士に自殺願望があれば別だが、とてもそのようには思えない。オーバーランで 焦りごまかそうとするのは「生きたい」と思う証拠である。 先日、関西ローカルの特番で線形のおかしさに触れたTV番組を観た。この番 組が全国ネットだったか確認していないが、東京で制作している全国ネットの ニュースは相変わらず(自分たちが得意で、大衆の関心を集めやすい(スポンサー が喜ぶ))JR西日本という絶対に訴訟されない半官半民の巨大組織のバッシン グしかしていない。運転士の責任を追及せずに労務管理の不備に罪をかぶせるの が正義と勘違いしているのではないか。いかにも左翼的思考の典型である。労務 管理が真因かもしれないが、原因が公開されるまではいろいろな視点で捉えるべ きだと思う。 1995年の阪神淡路大震災関連の報道で、東京のマスメディアは誤報の連発※、 しかも一切謝罪はしなかった。ふと、このことを思い出した。 ※誤報 マスコミの多くは自分たちで取材に行っているわけではないことがわかった。 某通信社が取材したネタを買って、それに自分たちでキャプションを追加してい るのだ。元ネタ(写真)の撮影情報が間違っていて、それをそのまま各マスコミ が報道したのだ。後に図書館で大阪のローカル新聞の縮刷版を見ると、同じ写真 でローカル新聞では正しい撮影箇所が記されていた。関西在住の多数の人は、一 目見れば特に道路に関心がなくてもその高架橋が「阪神高速道路」「国道171 号の立体交差」「ハーバーハイウエイ」のいずれかはわかるのだ。 |
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