【はじめに】
当方が世界の諸都市の道路事情に関心を持ち始めたのは1970年ころである。当
時は、国内の高速道路は東名高速道路と名神高速道路により東京と大阪がかろうじて
直結されて、都市高速道路は東京と大阪のみで都心環状線から放射線の一部が開通し
ていたに過ぎない。高速道路黎明期だった。
欧米ではすでに高速道路網が全土に張り
めぐらされ、都市内にも細部まで網羅していた。ただし、都市内の高速道路は日本の
首都高速や阪神高速のようなかたちではなく、基本的には土工構造の都市間高速道路
の延長が都心まで連続しているかたちが多かった。これは、既成の市街地に後から高
速道路を取り付けたのではなく、最初に高速道路ありきで市街が後付けされたのであ
る。
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マンハッタンダウンタウンの航空画像。
(SpaceImaging WEBサイトから引用。)
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すべての欧米諸都市がこのようなかたちではない。日本の事情との相違を極めてお
おまかに表記したのである。ヨーロッパ諸都市の多くは市街地が既成だったため、都
心までは高速道路は進入していない。多くの大都市は、首都高速や阪神高速のない東
京や大阪のようなかたちになっている。それでも、1970年にはヨーロッパ全土の
都市間高速道路はほとんど開通していたので、これから拡大する傾向のある中小の都
市では、都市間高速道路が将来の都心を通過するケースがあった。
アメリカ(USAおよびカナダ南部)の都市の多くは、都市間高速道路が都心に進
入している。東海岸の諸都市以外は高速道路の結節点に新都心が後付けされたケース
が多い。そのため高度に市街化された現在ではとても新設できそうもない広大なジャ
ンクションが都心に存在している。
これは、日本国内における鉄道事情に似ている。
2003年10月1日に開業した新幹線品川駅はJRの広大な都心における遊休地に
建設された。ほかにはシオサイトや新宿南口など東京だけでも多くの箇所に広大な遊
休地が有効利用されている。アメリカの交通の歴史は、日本と同様に最初は鉄道だっ
た。都心に広大な鉄道用地を確保していた。モータリゼーションが日本より30年早
くやってきて、鉄道用地は道路や市街地に変換されてきた。現在は、さらに道路用地
が別の用途に変換されつつある。これは、道路の廃道というケースだけでなく、建設
頓挫や構造変更による地表空間の確保などいろいろなケースがある。
本報告では、アメリカの諸都市の道路事情の紹介として、東海岸最大の都市である
ニューヨーク市を取り上げた。ニューヨーク市は東海岸の諸都市を連絡する南北方向
の縦貫線とシカゴ方面(西方向)に連絡する東西方向の横断線の交点にあたる。高速
道路網はおおまかには3方向に伸びているが、周辺諸都市と連絡し、市内においても
各地を連絡しているので複雑なネットワークになっている。(◆地図1)
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◆地図1
ニューヨーク市の高速道路ネットワーク計画図。
(1973年)
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1973年のニューヨーク市内の高速道路網を見ると、おおむね格子状に整備され
ている。点線区間は当時計画中で未開通だったが、これらが完工すれば、ブルックリ
ン南部エリアを除いて市内全域がネットされる。
先述のように、このころから世界の諸都市の道路事情に関心を持つようになった。
ニューヨーク市の高速道路事情は、現在まで30年以上にわたってリアルタイムでそ
の進化を観察している。もちろん、歴史を調べることにより過去を知ることはできる
が。1973年以前は、戦時や恐慌など様々な要因で停滞期間があったが、おおむね
順調に高速道路ネットワークが構築されてきた。
計画区間には具体的に工事されてい
る区間や構想だけの区間、区画整理で用地確保を開始した区間など様々な区間が含ま
れるので、全体計画の総延長が定義しにくい。それでも、◆地図1の点線区間だけを
残していると考えれば90%以上は整備済ということになる。これまでの整備実績か
ら予測すると、遅くとも1980年代には、100%完工に至るはずである。ところ
が、2003年になってもほとんどが未着手のままである。
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◆地図2
ニューヨーク市(マンハッタン)の高速道路ネットワーク。
(2003年)
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◆地図2は、2003年のマンハッタンの高速道路路線図である。マンハッタンの
地理的な位置に精通していなくても、この路線図には違和感を覚えるはずである。地
図の青い部分は水域で、縦方向の水域の左側のハドソン川と右側のイースト川に挟ま
れたエリアがマンハッタンである。このような簡易な地図でも、マンハッタン内の稠
密な街路の格子が表記されている。
マンハッタン中央の緑がセントラルパークで、都
心はその南のブロック(57th)から最南端まで続く。このエリアは摩天楼が林立
し、世界で最も高度に市街化したエリアだが、なぜか高速道路が連続していない。マ
ンハッタンを横断する高速道路はない。中央部に495号が貫通していても良いので
はないだろうか。また、マンハッタンの外周を周回する高速道路の西半分が途切れて
いる。貫通ルートは既成市街地を抜けるので用地確保が難しいかもしれないが、周回
ルートが連続していないのはいかにも不自然である。
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