ヒマヒマバブル絶好調道の川柳・森川晃

東海北陸道の全通効果(広域編)10




【まとめ】
 近畿地方、東海地方と東北地方の高速道路ルートは、それぞれ北陸ルート、長野 
ルートが有利である。このルートを鉄道でたどってみる。京都、名古屋をそれぞれ平 
日の10:00に出発する。京都からは米原、金沢、直江津、長岡、新津と5回の乗 
り換えで22:50に会津若松に到着して、この日の移動を終える。名古屋からは、 
長野、直江津で乗り換えて、この先は京都発と同じ列車に乗り合せて、同じく22: 
50に会津若松に到着する。いずれも、その日のうちに仙台には到達することができ 
ない。
 京都、名古屋ともに新幹線を使って東京ルートをたどると、それぞれ14:37、 
13:37に仙台に到着する。各駅で経由地を指定せずに仙台1枚と告げて切符を購 
入すれば、間違いなく東京ルートになる。もちろん、鉄道においても東京ルートは遠 
回りになる。しかし、鉄道は線路の長さではなく、走行する列車の種類やダイヤで利 
便性が決まる。需要に応じた運用を行っているので、あらゆる移動において短絡ルー 
トをたどるわけではない。京都、名古屋から東京へ向かう旅客数と仙台へ向かう数に 
は圧倒的な差異があるので、この運用は仕方がないだろう。

 高速道路も需要に応じて整備されているが、ネットワーク化により利用形態の選択 
肢が広がってきた。微妙な差異ではあるが、利用区間によっては思わぬ短絡ルートも 
表れてきた。先述の鉄道ルートでネックになっているのが、新潟から郡山までの磐越 
西線である。快速列車が少なく、普通列車の本数も少ない。この路線に並行する磐越 
自動車道も単体での需要はそれほど多くない。しかし、接続する東北自動車道や北陸 
自動車道と組み合わせれば新たな短絡ルートを発生させる。

 単体で需要の見込めない高速道路の建設は無駄な投資ということで、批判の対象に 
される。今後の道路建設事業において単体で不採算の路線は、新設だけでなく、既設 
路線の改良(フル化)などにおいてもスムースには進まなくなるだろう。さすがに廃 
道は考えにくいが、長期通行止めに至るような自然災害に見舞われた場合には、絶対 
に廃道にならないとは言えない。

 鉄道も全国各地に線路を張り巡らせてネットワーク化しているが、実際には先述の 
ように走行する列車やダイヤに支配されている。路線図を見て短絡ルートを見つけて 
も、本当に便利なルートは遠回りを強いられることがある。新潟から郡山までは磐越 
西線が短絡ルートだが、大宮乗換えで新幹線を乗り継ぐ方が便利である。先述の京 
都、名古屋から仙台までの移動においても、新潟には17:29に到着する。ここか 
ら上越新幹線で大宮まで、さらに東北新幹線に乗り換えれば22:03に仙台に到着 
する。何とかこの日のうちに目的地に到着できるが、これでは何のために新潟経由に 
したのかわからない。最初から東京ルートをたどるよりも料金も高くなる。

 高速道路は単調だが、これはどの路線も同じような規格ということである。したが 
って、大抵のケースでは短絡ルートをたどるのが有利である。ところが、今回まとめ 
たように、距離、時間、料金により短絡ルートは微妙でわかりにくい。季節や曜日、 
特定の日付などによる交通渋滞に起因する遅延の影響も大きい。それでも、何らかの 
かたちで利用車に伝達できれば参考になるはずである。道路利用の起終点は様々で、 
固定化した表示板では、すべての利用車に有効な情報が伝達できない。カーナビゲー 
ションシステムやWEBサイト(JHのハイウエイナビゲータ)で確認することがで 
きる。いずれもIT技術の応用で、カーテレマティックスに帰着するものである。こ 
の方面における情報伝達は確かに有効だが、それだけではなかなか固定概念を払拭す 
ることはできない。

 名古屋と仙台の間には定期夜行高速バスが運行されている。ルートは中央自動車道 
で東京を経て東北自動車道に至る。短絡ルートの長野ルートはたどらない。所要時間 
は運転手交代や休憩などを含めて10時間である。東京ルートの平日昼間の休憩なし 
における所要時間は9時間48分である。長野ルートが8時間57分なので、休憩を 
含めても50分くらいは早くなるはずである。通行料金も安くなる。定期バスの運行 
には免許が必要で、簡単にはルートを変更できない。磐越自動車道全通以前から運行 
されてきた路線なので仕方がないのかもしれない。ほかにも何らかの都合があって敢 
えて遠回りの東京ルートを選択しているのだろう。長野ルートで合理化することを薦 
めているわけではないが、ほかの利用車も定期バスに従う必要はない。

 高速バスのルートが固定概念によって規定されたとは思わないが、東京に停車しな 
いアクセスにおいて、深夜でも遅延に至る交通渋滞が発生する可能性の高い首都高速 
を通過させるのはいかにも不合理である。逆に首都高速から見れば、必然性のないア 
クセスである。

 鉄道利用者のほとんどは距離の短絡ルートではなく、所要時間の短絡ルートやダイ 
ヤの過密なルートを選択する。点から点への速やかな移動を求めているのだ。高速道 
路も利用目的は同様だろう。しかし、鉄道は列車の運行を提供しているのであって、 
線路を提供しているわけではない。利用車は切符に記された列車に乗れば良いだけで 
ある。ルートに関心があるのはあくまでも趣味の分野であり必然ではない。航空機は 
さらにルートに関心のある人は少ないだろう。都市部上空を避けるために驚くほど遠 
回りをしているケースも多いが、地理上の関心は空港の位置くらいである。

 道路利用者は自身で有利なルートを選択しなければならない。地理の勘所が試され 
るのである。ところが、これはなかなか難しいようだ。カーテレマティックスは勘所 
をアシストする有効な手段の一つだろう。しかし、これだけでは不十分である。
完璧 
なシステムは容易には思いつかないが、何らかの手段で地理に関心を持ってもらえる 
ような社会環境を整備すべきだろう。かつて、消費税が存在していなかったころは、 
どのような買い物をしても精算時の金額はわかっていた。つり銭がいらないように丁 
度の金額を支払うことも容易だった。つり銭が必要なケースでも、そのつり銭がいく 
らになるのかわかっていた。わかっているのが当たり前だったのだ。今は精算金額を 
告げられる前に丁度の金額を準備している人は少ないだろう。1円単位まで丁度の金 
額を商品といっしょにレジで手渡したら、怪しまれるとは言わないが、変わった人と 
思われてしまう。社会環境が暗算という技術、暗算への関心を封印したのだ。これは 
逆効果の例である。地理に関心を持つような社会環境が何らかのかたちで整備されれ 
ばよいと思うが、果たしてどのような手段があるのだろうか。