一般的には、ダイナミックなトンネル区間に関心があるようだ。トンネルをメイン
とする視点での報告書は数多い。決して奇をてらっているわけではないが、本報告で
は人吉(仮)ICについてまとめた。
繰り返しになるが、九州自動車道は全通して使命を果たす。沿線に高速道路需要の
ない八代ICとえびのICの間はなおさら全通が悲願である。肥後トンネルは何とか
貫通させて人吉までは開通できたが、その先の加久藤トンネルの工期はまだ数年は余
計にかかる。人吉とえびのの間だけが残ってしまった。※2
ところで、この区間には一般国道221号(飫肥街道)が通じている。高規格道路
ではないが、当時の水準では整備された一般道路にあたる。この国道のキャパシティ
が大きいので、加久藤トンネルを後回しにした感も有る。加久藤峠はトンネルで通過
しているが、九州自動車道よりも高い標高590メートルに設置されたので、トンネ
ル前後では200メートルほどの垂直移動が強いられる。前後ともにダイナミックな
ループ区間を有している。
この区間の通過時間は32分である。九州自動車道の通過時間は17分。これは、
普通車両の標準時間なので、坂路に弱い大型車では、さらに多くなる。もちろん、九
州自動車道の17分は、大型車でも17分である。時間だけをみれば大した短縮には
つながらないかもしれないが、高速道路のインターチェンジでの出入りのロスタイム
も加算しなければならない。また、一般道路での市街地通過は定時性においてネック
になる。
さて、この区間には市街地はあるのだろうか。人吉ICは、人吉市の北側に位置し
ていて南のえびの方面へは市街地を通過しなければならない。えびのICはえびの市
の北側に位置しているので、北の人吉方面へは何のネックもなく加久藤峠越えルート
に達する。
※2 八代ICとえびのICの間の交通需要
八代ICとえびのICの区間60.8キロには人吉ICしかない。人吉IC前後の
交通量は次の通りである。
八代ICと人吉ICの間が20176台/日、人吉ICとえびのICの間が148
11台。人吉ICの利用は7440台。人吉ICの方向別利用台数は、八代方面が6
403台、えびの方面が1037台。つまり、八代IC方面から走行してきた車両の
31.7%が人吉ICで降りる。逆に、えびの方面から走行してきた車両の7.0%
が人吉ICで降りる。八代ICからえびのICへ通して利用する(人吉ICを通過す
る)車両は13773台で、八代方面からの68.3%、えびの方面からの93.0%
にあたる。距離の長い区間の途中にあるインターチェンジにしては、通過比率が高
い。八代からえびの、さらに鹿児島、宮崎まで全通していなければ九州自動車道の能
力は発揮できないと言える。
なお、交通量のデータは2002年12月のものである。
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◆画像1
人吉市蟹作町
九州自動車道上り線人吉南BS(バスストップ)本線合流部。
画面左側には並走するJR肥薩線の掘割を越えて、川上哲治記念球場がある。
(2002年10月22日、著者撮影)
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九州自動車道は人吉からえびのまで通じるのだから、人吉ICから人吉市を迂回し
て南に向かう。つまり九州自動車道を利用すれば人吉市は迂回できる。ところが、人
吉市の南側にはインターチェンジがない。計画通りの区間開通では人吉ICとえびの
ICの間を残すと、通過車両が人吉市街を通過することになる。通過車両は、国道2
21号(飫肥街道)を利用するが、人吉ICから221号までは球磨川に適当な橋梁
がないため市街を迂回することができない。現在の人吉ICの通過交通量(1377
3台)が、そのまま閑静な市街地になだれ込むことになる。大型車が24時間爆走す
るのである。
ところで、九州自動車道の加久藤峠越え区間の人吉側は人吉盆地を数キロ進んで、
難工事の山岳区間に突入する。つまり、球磨川を越えて、人吉市南側の221号の山
岳区間手前までは容易に高速道路を作ることができる。九州自動車道のルートは22
1号とは交差しないが、交差する国道219号(横谷越え)が2キロ程度で連絡して
いる。
そこで、人吉ICからえびの方面へ4.2キロ進んだ人吉市七地町地内の219号
交差箇所まで先行開通させて、ここに人吉(仮)ICを設けた。JH九州の発表資料
では、人吉(仮)ICまでの4.2キロは開通延長としてクレジットされていない。
あくまでも暫定のサービス開通区間なのである。ここには料金所も設置されていな
い。正規の人吉ICの本線に料金所も設け、仮ICまで通過する車両と人吉IC利用
車両を同じ区間を利用したものとして取り扱っている。そのため、人吉ICの仮IC
方面へのアプローチランプが閉鎖されていた。(人吉ICと人吉(仮)ICの区間だ
けを利用することはできない。)
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九州自動車道の八代ICと人吉ICまで(正確には人吉(仮)ICまで)の開通記事。
(1989年11月発行「高速道路と自動車」(高速道路調査会)から引用。)
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人吉(仮)ICから2キロほど西に219号を進むと、南に221号が分岐するT
字路に達する。この区間の沿線には何もない。もちろん、221号はえびのICまで
山岳ルートで何もない。距離で通過時間が想定できる一般国道の区間である。もちろ
ん、人吉市街地は全く通過しない。
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◆図1
1991年発行九州自動車道リーフレットから人吉付近を抜粋引用。
公式発表の開通延長には、人吉ICと仮ICの距離は記載されていないが、この道
路施設協会発行のリーフレットには「4.2」と距離が記載してある。
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◆図2
1995年発行九州自動車道リーフレットから人吉付近を抜粋引用。
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仮ICの構造はシンプルで、219号とT字の平面交差である。219号から見れ
ば、注意しないと間違えて高速に入りそうである。しかし、入ってしまうと八代IC
まで42.7キロも出口がないので、往復で90キロも走らなければならない。1時
間以上も悔しい思いをするはめになる。
1989年12月7日に八代ICから人吉(仮)ICまで開通した。そして、19
95年7月27日にえびのICまで開通した。つまり、人吉(仮)ICが存在したの
は、その間の約5年半である。取材時(2002年10月22日)は、仮ICが撤去
されてから7年以上経ていた。元々シンプルな構造だったので、ほとんどの施設は高
速本線に閉じ込められてしまったが、219号へのランプの一部が少し残っていた。
(◆画像2、3)
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◆画像2
人吉市七地町
九州自動車道上り線、矢黒BP(R219)オーバークロス部。
(2002年10月22日、著者撮影)
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◆画像3
人吉市七地町
九州自動車道上り線、人吉(仮)IC跡。
画面左側の本線ガードレール外側にもう一つ坂路のガードレールが見える。この坂
路が人吉(仮)ICのランプである。
(2002年10月22日、著者撮影)
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高速道路の開通経緯をよく調べてみると、暫定開通を多数みつけることができる。
ほとんどが、工費のかかるインターチェンジを開通している方向のランプだけを施工
したり、ランプそのものを施工せず本線に料金所を設けてそのまま一般道路へ接続さ
せたりしている。工費を抑えるための都合が多いが、なかには人吉のケースにように
利便性を少しでもよくするためのケースもある。それでも、4.2キロもサービス区
間を暫定開通させることは珍しい。
今後は(すでに)都市間高速道路以外に高規格幹線道路、地域高規格道路が開通
し、さらに運用が複雑になる。様々な形態の暫定開通が発生する(発生している)。
それらは全通時には消えてしまうシステムである。記憶だけでなく記録もあまり残ら
ない。当報告はある意味残したい記録をまとめたものである。
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