ヒマヒマバブル絶好調道の川柳・森川晃

九州自動車道の暫定開通経緯1



 都市間高速道路の使命は、文字通り都市間を短絡直結させることである。現在(2 
003年)では、多数回の部分開通を経てほとんどの縦貫自動車道が開通し、その使 
命は果たしている。それでも部分開通期間には、少しでも利便性を高めるために様々 
な形態の暫定開通を実施していた。本報告では、その形態の一つを紹介する。
 九州自動車道(関門橋を含む)は、1971年から1995年にかけて21回の部 
分開通を経て全通した。

◆表1
 九州自動車道の開通経緯一覧。
 おおむね用地買収の済んだ順に開通しているが、次の2区間はある意味予定通り遅 
れて開通した。
(1)小倉東ICと八幡ICの間
(2)人吉ICとえびのICの間
 いずれも、現在では未開通だったころが思い出せないくらいに重交通を担ってい 
る。(1)は、門司ICから八幡ICまでは北九州高速4号で代用できるため無理に 
予算を計上せずに好機を待ったと考えられる。ところが(2)は、堀切峠越の長大ト 
ンネル区間が存在による技術的な問題があった。堀切峠はあまり聞かないかもしれな 
いので、本報告では通称名の加久藤峠と記す。

 加久藤峠は熊本県と鹿児島県の県境に位置する720メートルに位置する。この 
ルートは熊本市から鹿児島市への短絡ルートで、国鉄鹿児島本線も当初はこのルート 
を経ていた。鉄道線は長大トンネルを掘削せず、スイッチバックやループを経る構造 
である。確かに海岸ルートより距離は短いが、蒸気機関車の時代では速達性を確保す 
るためのネックになった。その後、海岸ルートが開通し、こちらが鹿児島本線になり 
ほとんどの優等列車は海岸ルートを経るようになった。さらに本線は電化されたが、 
旧鹿児島本線である肥薩線は非電化単線のローカル線になってしまった。

 高速道路の計画がもちあがったとき、当時のメインルートだった海岸ルートを進む 
か、距離の短絡ルートである山岳ルートを進むかで天秤にかけられた。既存の一般国 
道3号も海岸ルートだった。山岳ルートは、加久藤峠越えの技術的な問題だけでな 
く、沿線での需要が見込めないという大きな不利があった。海岸ルートは水俣、川 
内、串木野など需要が存在したが、山岳ルートでは八代から鹿児島市までは大きな需 
要は存在しない。ところが、ここでルートを確定させる案件が飛び込んできた。宮崎 
県への利便性である。鉄道建設時には福岡との連絡において宮崎は鹿児島に大きく水 
を分けられた。福岡への最速ルートは鹿児島経由という極めて屈辱的な大回りを強い 
られた。高速道路では、このような理不尽な大回りが生じないよう山岳ルートでえび 
の市から宮崎市へ一気に短絡させる宮崎自動車道の建設を推進した。当時は鹿児島と 
宮崎で別々に高速道路を建設する余裕がなかったので、加久藤越えで、宮崎と鹿児島 
の双方を連絡することに決定した。
 先述のように、山岳ルートには沿線に需要が少ない。これは宮崎までの区間でも同 
様である。鹿児島県も宮崎県も海岸に都市が点在しているのだ。したがって、できる 
だけ早く全線開通させて海岸の鹿児島市、宮崎市に達しなければ高速道路の使命は果 
たせない。

 九州自動車道人吉からえびのまでの路線図。
(加久藤トンネル前後区間の路線図。)

◆地形図1 
 国道221号人吉ループの拡大図。
(国土地理院発行25000分の1地形図(「肥後大畑(南西)」「肥後大橋(南 
東)」から引用。)

◆地形図2
 国道221号霧の大橋の拡大図。
(国土地理院発行25000分の1地形図(「加久藤(北西)」から引用。)
 えびの市から鹿児島市、宮崎市までの区間は、八代市からえびの市までの区間に比 
べて緩やかな台地(シラス台地)を進むので建設は容易である。また沿線には用地収 
用が困難な市街地も見当たらない。1981年までに鹿児島市からえびの市までの九 
州自動車道、および宮崎自動車道の全線が開通した。この時点で鹿児島と宮崎は高速 
道路で結ばれたが、これは本来の使命ではない。それぞれの都市を福岡と直結させな 
ければならない。そのせいか、鹿児島と宮崎の区間は「π」字状に大回りしている。 
霧島の南側を経て都城に至る短絡ルートが適切である。※1
 八代から人吉までは急流河川で有名な球磨川沿いだけが平坦で、JR肥薩線、一般 
国道219号(人吉街道)ともに球磨川に沿っている。九州自動車道は高速道路なの 
で、曲折の多い川沿いはルートには不適切である。八代ICを過ぎてすぐ(南九州自 
動車道との八代JCT分岐直後)に人吉までの短絡ルートを経るべく山岳地帯に突入 
する。この区間は、6340メートルの肥後トンネルを含む長短19のトンネルが連 
続する。
 人吉ICからえびのICまでは加久藤トンネル1本だけで県境を貫通している。
 
※1 鹿児島と宮崎の短絡ルート
 このルートの一部には東九州自動車道(加治木JCTと末吉財部ICの間)が開通 
している。ところが、この高速道路は、鹿児島から霧島の南側を経て都城の西に位置 
する末吉町で大きく南に反れて志布志、日南を経て宮崎に至る。全通しても鹿児島と 
宮崎の短絡ルートにはならない。距離での短絡ルートを経るならば、鹿児島から末吉 
財部ICまで東九州道を経て、一般国道10号で都城市街を抜けて、都城ICで宮崎 
道に乗りなおすことになる。国道10号での不安定なロスタイムを考慮すれば、現状 
のえびのJCT経由を選択するのが一般的である。鹿児島と宮崎の間には高速道路需 
要はないのだろうか。

 人吉(仮)IC付近の位置図。

続く