今回の外環道西区間の大深度地下方式採用にあたり、建設を推進する側は用地確保
のための移転が少ないことを主張している。具体的には480戸である。建設に慎重
なグループは、同じ戸数一覧を見て2060戸も移転しなければならないと主張して
いる。両者とも東京都が発行した同じ一覧表の数値をプロットしているだけである。
決して間違ってはいない。条件さえきちんと記されていれば何ら問題はない。しか
し、いずれも東京外環自動車道という東京外郭環状線という複合道路の自動車専用部
だけにしか触れていない。専用部が大深度地下を採用しても(一般道路とのインター
チェンジを設置しても、設置しなくても)、一般道路部を建設するならば当初の予定
通り3010戸の移転が必要になる。
専用部だけで十分に役割を果たすだろうか。外環道の需要はそれほど軽く見られて
いるのだろうか。環状高速道路のネットワーク効果は絶大である。過剰供給と思える
ような高規格なものを準備しても開通してみるとそれでも不足だったりする。日本に
は完全なかたちでの環状高速道路がないので身近で確認することはできないが、世界
の大都市で最も幅員の広い(車線数の多い)道路を確認してみると、ほとんどが環状
道路である。日本でも、大阪で最大車線数を誇るのは最大で18車線(片側で一般部
側道3車線、一般部本線3車線、専用部3車線)の大阪中央環状線である。名古屋で
は最大ではないが名古屋環状2号は12車線(片側で一般部側道1、一般部本線3、専
用部2)である。福岡にも高規格の外環状道路の建設が進められている。
|
<<<
「東京外かく環状道路(関越道〜東名高速)の計画のたたき台」
(東京都のWEBサイトから引用。) PDF
|
東京の道路事情がほかの大都市に比べて著しく悪いのは、交通の分散がスムースに
行われていないからである。名古屋や札幌のように広幅員の道路を多数持つことがで
きなければ、環状道路で分散させることが効果的である。既存の少ない道路空間を有
効利用するには、流れやすい区間を選ぶことができるかどうかにかかってくる。一つ
はスムースな区間を判断するための情報で、一つはスムースな区間への容易な移動を
するすべである。かつて、東京は世界一渋滞の激しい都市だったが、首都高速が開通
してからはタイのバンコク市にその称号をゆずった。ところが、バンコクの首都高速
道路の建設が進み、現在はかなりスムースになってきている。首都高速を含めた総体
としての東京に、また世界一が戻ってきそうである。
東京外郭環状線は、計画当初の高規格のまま大深度地下方式採用を検討すべきでは
ないだろうか。専用部だけでなく一般部も全区間トンネルにするということです。先
行して専用部だけを一般道路とのインターチェンジなしで建設することには何ら問題
はないが、これで終りとせずにさらに計画を進めてほしい。
杉並区と練馬区に渡る環八通りの井荻区間は、長い間混雑区間として有名だった。
たった2キロの区間を通過するのに120分以上かかることもめずらしくなかった。
これは交差する西武新宿線の踏み切りに起因するもので、これを回避すべく一般道路
としては破格の長さのアンダーパスである井荻トンネル(1263メートル)が開通
した。井荻トンネルの開通により渋滞はかなり解消されたが、決してゼロにはならな
い。特に北行きは谷原交差点の左折(関越道方面)列に起因する渋滞を引き起こして
いる。
|
都市計画図(狛江市、調布市南部)の例。
(三鷹市のWEBサイトから引用。)
|
ところで、西武線踏み切りには井荻トンネルとは別にオーバーパスも設置された。
環八通りの通過車両とは別に地先道路としての環八通りの機能も改善され、当該地区
の交通流動は格段に良くなった。井荻トンネルにより通過車両を分離することがで
き、地元の安全も確保された。この井荻トンネルの例は、今回の外環道の地下方式採
用に似ているような気がする。井荻トンネルが外環道専用部で、通過車両を分離し地
元の安全を確保する。井荻オーバーパスが外環道一般部で、地元の交通流動を格段に
良くするということである。両者は一体になって最大効果を引き出すのではないだろ
うか。
ただし、現状の井荻トンネル北行きは先述の谷原ネックの渋滞でトンネルのかなり
手前(杉並区清水、四面道のすぐ北)からSTOPしていることが多い。そのため、井
荻トンネルを避け側道から地先道路としての環八区間を通過し、井荻オーバーパスを
経て井荻トンネル出口で合流する車両が目立つ。地元にとってはあまり歓迎できない
迂回だが、これも複合道路の効果の一つである。
【参考】
東京外環自動車道の西区間の概要については、東京都のWEBサイトで下記の資料
を閲覧していただきたい。詳細なルート図は掲載されていないが、縦断構造(道路断
面)をわかりやすく表記している。
なお、ルート図は各行政機関で「都市計画図」を入手していただければ理解できる
はずである。当方の手元には1979年の図面しかない。それでも西区間のルートが
大きく変更されたという話は聞いたことがないので、敢えて最新のものは入手せず本
報告をまとめた。機会があれば最新版を入手しておきたい。(公式WEBサイトで西
区間の都市計画図を閲覧することはできないが、個人サイトに引用画像を見つけるこ
とができる。結局、西区間すべての最新都市計画図をWEBで閲覧することができ
た。本報告では一部を転記している。個人サイトの画像転記は初めてだが、他意はな
いのでご容赦願いたい。
|