ヒマヒマバブル絶好調道の川柳・森川晃

新規高速道路建設と交通量の関係 4



【建設費の経年変化】

首都高速道路、阪神高速道路の各年度の建設費(データ)



首都高速道路、阪神高速道路の各年度の建設費(グラフ)

 1991年以降に投じられた建設費について記す。この費用は、あくまでも新規の 
路線建設費で、維持費、経費は含まない。簡単に言えば、交通量の減少に比例して費 
用は減少している。首都高速、阪神高速ともにピーク時の3分の1くらいになってい 
る。驚くべき規模の縮小である。公共投資の性格として、建設すべき区間がなくなれ 
ば投資はなくなるが、そういうわけではない。建設費用を抑え、将来の開通ペースは 
遅くなるが、建設すべき区間はまだまだ多く残されている。

 高速道路建設慎重派の方は、この事実をご存知なのだろうか。先述のように高速道 
路の建設には10年以上の年月がかかる。不景気の時代に無駄な開通をさせているの 
ではなく、好景気のときに建設を進めてきた区間がやっと開通したのである。今は建 
設費を抑えているので、今後好景気がやってきてもなかなか必要な区間が開通しない 
ことになる。1970年代に提起されたウォーターフロント開発は、1980年代に 
着工し1990年代に開通した(湾岸線)。1980年代に提起されたジオフロント 
開発は、1990年代に着工し2000年代後半の開通を目指している(中央環状新 
宿線、品川線)。ウォーターフロント開発は、工事期間がバブル景気と重なった。ま 
た、既存市街地には関係のない更地での施工のため建設は計画通り進行した。ところ 
が、ジオフロントは工事期間中に景気低迷期に突入した。

 トンネル技術は革新してい 
るが、大深度地下の高速道路建設は前例のない大工事である。工事期間を短縮させる 
材料は何もない。2000年代後半という予定の延期は必至と思われる。(新宿線だ 
けは、ぎりぎり2000年代に間に合うような気がするが、未着工の品川線はまず間 
に合わないだろう。品川線推進派の石原都政の間に全面着工しておかなければ、永遠 
に開通しない可能性もある。)

 
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首都高速(6)向島線、(9)深川線
箱崎JCT
1998年3月10日改良
ボトルネック対策の一環として、
6号下り線左側から9号下り線へ
の亘り線が追加された。
(「高速道路と自動車」(高速道路調査会
 1998年4月発行)から引用
冒頭で述べたように首都高速の交通量は、1991年以降ほとんど増えていない。 
これは、1991年以降の開通延長に交通通量が追随していないということである。 
ところで、高速道路は開通までには10年以上かかる。つまり、1991年以降の開 
通区間は、1980年代の好景気の時期に着手されたもので、決して1991年以降 
に巨費を投じて急造したものではない。1991年以降の建設費は年々少なくなって 
いるのです。1991年から2002年まで2兆2901億を投じているが、ピーク 
の1994年は2949億、2002年は1274億である。ピーク時の水準で建設 
費を投じていれば、2002年までに3兆2400億に達する。差し引きすると、こ 
の12年間で約1兆円分の投資を抑えたことになる。

 阪神高速も同様に約1兆円を抑えている(阪神淡路大震災復旧の3500億は除 
外)。高速道路の建設推移は、その年次の建設費だけでみれば世相にリアルタイムに 
反映している。目に見える「開通」だけを見ていれば、開通までの10年以上の歳月 
が見えなくなり誤解を招くことになる。現在は建設不況である。首都高速、阪神高速 
の抑えた分だけで2兆円なのだから当然である。日本道路公団について今回は調査対 
象にしていないが、同様の傾向であることは想像できる。規模が大きいので、抑えた 
金額は相当なものだろう。

 公共投資は莫大な費用がかかる。規模が大きいほど工期は長くなる。建設費用は、着 
工時にすべてを準備するのではなく各年次で予算を確保して、その予算内でできると 
ころまで工事を進める。工期を10年とすれば、10回の予算確保がスムースに行わ 
なければ、予定通りの完工には至らない。しかも、10年後に十分な需要がなければ 
ならない。首都高速の場合は、完工までの10年間に既存区間が破綻しないように保 
守(ボトルネック対策)も行わなければならない。この対策が新規建設区間以上の効 
果を発揮することもあるかもしれない。かといって、安易に巨費を投じた新規建設を 
頓挫させることが得策とは思えない。

 国鉄が民営化されてJRに変わるとき、全国各地の新規建設区間をフリーズさせた。 
その残骸は今でも各地で見ることができる。高速道路でこのようなみじめな結末は迎 
えてほしくない。交通需要の多い首都高速ではこうした悲劇が生じるとは思えない 
が、構造が複雑な都市高速道路は建設費用がきわめて高いので、交通需要がなければ 
収支は案外地方のローカル高速道路と変わらない。1キロ10億のローカル高速道路と 
1キロ500億の首都高速では、50倍の交通需要がなければ、ローカル高速道路に 
劣るのである。この観点で首都高速を路線ごとに分析してみたら、湾岸線の本牧以南 
は、道東自動車道よりも採算性が低いかもしれないな。

 当方は、高速道路の建設には基本的に賛成である。また、高速道路の価値もわかって 
いるつもりなので、高速料金を高いと思ったことはない。建設費についてはもちろん 
データは手元にあるがあまり触れたことはない。あくまでも高速道路の交通分析やデ 
ザインだけに関心を持っていた。今回は、民営化を控えて「金」絡みの記事が一般の 
新聞やテレビでも頻繁に見られるようになり、これらの多くが誤解を招くような編集 
になっているので、敢えて「解説」をする意味を含めてまとめてみた。機会があれ 
ば、今回とは別の視点から建設費について触れてみたいと思う。