名神高速道路の今須改良は高速道路の線形改良の先駆けとなった。一般道路の線形
改良は当方が把握できないほど各地で行われているが、開通直後の高速道路での適用
は相当画期的である。高速道路の線形改良は、例は少ないがこの後に何箇所かで実施
された。最近では、中央自動車道の談合坂SA付近の拡幅に伴うカーブ除去が実施さ
れたが、これは事故ではなく慢性的な交通渋滞を契機としている。
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<<< 画像6
今須カーブのほぼ中間地点から
関ヶ原側をのぞむ。
高速道路は、ここから小さなピーク区間を
越えて現道区間に至っていた。
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今須カーブを含む今須川横断区間の盛り土は完全に撤去されている。今須川両岸は
水田地帯であるが、旧線跡は荒地であり活用されていない。特に日本道路公団のプ
レートは見当たらないのが、民間へ売却されたかどうか不明である。どのみち、経費
をかけて土地改良すべき箇所とも思えない。
事故契機の線形改良は、東名高速道路の日本坂トンネルで実施された。下り線のトン
ネル新設、および上り線の旧下り線トンネル利用による7車線化で、正確には線形改
良とは言えないかもしれない。それでも下り線においては、若干カーブがゆるくなっ
ているので、これを含めても良いのではないだろうか。
日本坂トンネル火災事故は、1979年7月11日に発生した。死者7名、焼失車
両173台という多大なる被害を引き起こし、下り線トンネルは使用不能になった。
静岡IC?焼津IC間の通行止めから、上り線トンネルでの交互通行を経て、下り線
トンネルは復活した。しかし、それは暫定対応で、抜本対策として路線の切り替えが
検討された。それにより、1998年3月27日に下り線トンネルが開通した。
トンネル延長は旧下り線の2173mから2555mへと400mほど長くなった。
事故から18年8ヶ月たっている。
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<<< 画像7
米原側から今須川横断区間をのぞむ。
今須川横断構造物は、全く残っていない。
築堤に若干の橋台跡が見られるが、
高速道路廃止以降に河川改修が行われたようだ。
盛り土区間は、盛り土そのものは撤去されて
いるが、土地はそのまま残っている。
跡地に若干の簡易舗装が残っているが、これは
高速道路本線の舗装跡ではないでしょう。
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現在、高速道路建設への風当たりが強い。新規建設区間の設定が難しくなるだけで
なく、建設中区間の凍結さえ実施されそうである。そのあたりの事情はともかくとし
て、今後はメンテナンスの時期になることは間違いない。道路先進国の欧米では、す
でに30年前から新規建設には慎重になり、既存の社会資本の有効活用に重きをおい
ている。アジア諸国は欧米に遅れて、鉄道から自動車への交通革命が進行中で、中
国、韓国、タイでは高速道路新設ラッシュである。日本は、東北自動車道から九州自
動車道までの骨格が開通した時点で、ラッシュはすでに終えている。採算の取りにく
い横断道路建設を進めて、あたかもラッシュを継続しているような振りをしているが、
これは大きな判断ミスである。横断道路建設に全面的に反対しているのではない。
既存区間の保守(改良)も横断道路建設と同じ配分にした方が、欧米のやり方に近い
ということです。もしかしたら常に新規建設に重きをおく日本独自の行政が正解かも
しれないが、世界に前例はないし、鉄道時代にこのやり方を進めて全国各地に建設途
上で投げ出した未成線を生み出した。道路は鉄道に比べて路盤の幅員が広い。未成線
が自然に戻るには、鉄道以上に時間がかかる。つまり、恥は末代まで残ってしまう。
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<<< 画像8
今須カーブの米原側アプローチ区間跡をのぞむ。
盛り土区間の原型は残されているが、
やや削られて低くなっている。
正面の建物は、旧線跡が民間に売却されて建て
られたものである。
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谷山地区は山際を切り取って高速道路を建設している。線形では、今須カーブから
関ヶ原トンネルを抜けて滋賀県までがほぼ直線になっている。今須改良区間(現道)
の新設により、関ヶ原から滋賀県境までがゆるいS字カーブになった。
世論では、税金の無駄だとか、政治家とゼネコンの癒着とか、政治経済面で批判し
ている。当方は、いずれも専門ではないので多くは語れない。未成線跡地は、現地に
行かなくても国土地理院発行の地形図で容易に見つけられる。世界中の誰でも閲覧で
きる公式の記録にあまり(地図の)読者を惑わせるみっともないものを残してほしく
ないと思う。
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<<< 画像9
今須改良区間の米原側起点をのぞむ。
右側にのびるのが改良区間(現道)で、
左側が旧線跡である。
現道の高さに建てられているのは
日本道路公団の管理施設で、
旧線跡の建物は画像8で触れた民間の建物である。
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【所見】
現地取材中、茂みに入って旧線跡を歩いていたら、足元に何か絡みつくものがあっ
た。ヘビだった。当方は特にヘビが得意ではないし、本当ならば驚くべきだったのだ
が案外平気だった。道路に関わる取材中は夢中なので気にならなかったとも考えられ
るが、さすがに跡地では気持ちがのんびりしている。当方よりもヘビの方が、跡地の
雰囲気に馴染んでいると考えてしまった。実は跡地の取材は初めてである。工事区間
や交通量の多い開通区間などの埃っぽいところでの良い意味での緊張感は全くない。
たまには、このような癒し効果のある取材も良いものだ。
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<<< 画像10
現道の今須トンネル米原口。
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