「だから、そんな違反は認めないって言ってるんです」
「オービスだって一瞬の違反でも捕まえますよ」
「とにかく、一瞬のスピードオーバーには反論すると、
その調書に書いてください」
「そんな曖昧なことは書けない。52キロ出してないと思う、でいいでしょ」
「スピードオーバーしていたのが一瞬だと思うとは書けないのですか?」
「一瞬でも違反です。52キロに不満がある、でいいですね」
「書きたくないっていうんならいいですよ、それで」
「あなた、裁判で議論のように自己主張できると夢を抱いて
ませんか。裁判なんて、言われたことに答るだけでつまらないものですよ。
テレビドラマや映画のように夢を持って裁判なんかしたらがっかりしますよ」
「夢なんかないですけど、やるところまでやって法律の勉強させて
もらいますよ」
「まあ、まだ途中で略式裁判に逃げるという逃げ道もありますから、
もし気が変わったら、そういう終わり方もあります」
「だいたい、幹線道路で制限速度30キロなんて、絶対に認めたくないですね」
「そういう、将来の法律について言われても困ります」
「他に言う場はないですから、言いますよ。
30キロ制限が、現実的だと思いますか?」
「そういう問題ではない」
「いえ、そういう問題です。間違った法律には抵抗するべきでしょ」
「まあいいでしょう。では、次は、霞ヶ関から出頭要請があると
思います。そしたら出頭しますね」
「しますよ。罰金が惜しくて逃げてるわけではないですから」
「まあ、ムリだと思いますよ。弁護士費用とかもかかるしねぇ」
「金の問題ではないので、その分はしっかり勉強させてもらいますよ。
このまま引き下がったんでは納得できないので」
「裁判で負けても納得なんてできないのではないですか?」
「まあ、罰金たかだか1万円。ちゃんと法治国家の法律には従いますよ」
「では、ここに、ハンコ押してください。本裁判に進むという書類です」
「はい、これで、終わりですね。こごは受け取るものないんですね」
「はい、終わりです」
拇印を押すのはイヤだったので、印鑑を持っていっといてよかった。
これにて、検察区調室でのやり取りはおわった。
このあと、霞ヶ関から呼び出しが来たら「続き」を書きます。
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