通信アナリストの眼 INDEX


渡辺真由美のフリー・通信アナリストの眼




テロ時代の通信業界 1)
9月11日、世界貿易センタービルに収容されていたアメリカの電話会社、S社の電話交
換機が破壊された。電話交換機が破壊されたことにより、ニュ−ヨーク市内、市外、
アメリカ国外からニューヨークに電話が接続できなくなった。この緊急事態を受けて
KDDIを始めとするアメリカ国外の国際通信事業者は、ニューヨークにつながっている
回線を遮断した。アメリカの他の地域へは、迂回回線ルートを通じて呼を接続するこ
とは可能であったが、電話が通じにくい状況は1日中続き、また10月に入ってからも
通じにくい状態が生じた。

アメリカへの電話がかかりにくくなった9月11日だけで、国際通信事業者の営業収支
は1億円前後マイナスとなった。電話がかからなくなれば課金できず、収入が入って
こない。またお客様センターに入る利用者からの問い合わせに応じるために、各事業
者はできるだけの人を動員して24時間フル体制で鳴り止まない問い合わせの電話対応
にあたった。親族の安否を、お客様センターのオペレータに直接尋ねる痛ましい電話
も少なくなかった。そして通信事業者は対テロ臨時対応で、深夜割増賃金等の余分な
コストを背負うことになった。
幸い、アメリカとアフガニスタン以外では、ケーブル、衛星基地局といった伝送イン
フラは無傷であった。アフガニスタンとは電話がつながりにくく、当地への国際電話
は提供されない場合があるが、KDDIであれば接続できる可能性は大きい。現在、離島
や砂漠地帯といった電話未提供地域を除いて、国際電話は全世界で通じる状況であ
る。紛争地域がこれ以上拡大しないことを祈る。

平和が訪れ、そしてそれから問題となってくるのは、景気である。企業活動全般が停
滞する中で通信事業者の収入が減り、24時間365日有人稼動という重圧に耐えられな
くなるところが出てくるであろう。特に開発途上国では通信インフラの保守点検がお
ざなりになり、交換伝送設備が劣化し、電話がつながりにくくなることも考えられ
る。日本を発信した呼が海底ケーブルを通って無事に相手国の電話交換機に着信して
も、その国内の電話ケーブルが切れており、(あるいはケーブルが盗られた。。。途
上国ではよくあること)呼が相手先の電話までにはたどりつかない。KDDI、日本テレ
コム、NTTコミュニケーションズ、ケーブル&ワイヤレスIDCといった国際通信事業者
にとってこれは決して他人事ではない。いくら相手国の事情によるとは言っても、と
にかく電話がつながらなければ収入は減るのである。
(続く