戦争・軍事 > 戦争・軍事東長崎外(国内)北海道

戦車兵神博行の自衛隊チェック87

(冬季の戦闘訓練)


『冬季迷彩の74式戦車』


 冬季迷彩の74式戦車、白い迷彩は顔パックのように剥がすことが出来る。しか
し薄く塗ると取り剥しが困難で汚なくなるので厚く塗る。
春先に剥がすがそれでも完全に剥がせない、すると訓練の暇潰しについつい剥が
すようになる、けっこう楽しい。

 戦車の冬になるとオイル交換とか冬に向けての準備で忙しくなる。
当然演習の装備も冬季装備となる、荷物が増えるし夏仕様のバラキューダも冬季
の白いバラキューダになるし個人の服装も冬季仕様になる。

 寒さ対策のために暖を取れるストーブとか個人で購入した装備も必要だ。 冬
季の訓練は個人でも防寒具に出費を強いられるのだ、なにせ戦車は暖房も冷房も
無い高級車なのだから、当然鉄の塊は冷凍庫のようにシバレルのだ、足が千切れ
そうに冷たい。
『第一戦車射場』


 冬になると当然エンジンのかかりが悪くなる、素人じゃエンジンはかからな
い、ベテランの技が必要だ、俺は得意だった。
戦車に個々個性がある、当然エンジンのかかりにも個性がある、絶対にかかりの
悪い戦車もある、そんな時は先にエンジンのかかった戦車から充電してもらう。
一番気を付けるのはバッテリーがあるかだ、メインスイッチを入れてスターター
を軽く回す、燃料をエンジンに送るためだ。

その時に電流計がプラスかマイナスか確認し、電圧があるのかも確認。
そしてバーナーを押しエンジンを暖める、真っ赤になるまで押し続け確認したら
ゆっくりスターターを回す、エンジンが回転しだす、ここで素人はアクセルを踏
みエンストさせてしまう。

すると電力が少なくなり次に挑戦する回数が減るのでしばらくメインスイッチを
切って待つのが基本、でもあせってすぐにエンジンを回すのが素人だ、あせりは
禁物だ。スターターを回しだしたら暫くエンジンの音に注目する、そしてここだ
と思った時ゆっくりアクセルを踏む、するとエンジンが段々回転してくる。それ
でもあせらずゆっくりアクセルを踏む、エンジンがかかり暫く高回転で回しアイ
ドリング調整をして暖気運転する。

 ベテランは何輛戦車のエンジンをかけれるか競争する、もちろんベテランはエ
ンジンのかかりにくい戦車の車番を熟知している。
『装填手』


 日米共同訓練で第29普通科連隊と米陸軍第25師団が冬季訓練を行った。私は
2度目となる日米共同訓練に参加した、前回も米陸軍25師団だった。25師団は
映画『プラトーン』に出てくる部隊だ、肩に稲妻の部隊章が付いている、ハワイ
駐屯の歴戦の部隊だ。

 その訓練で私の部隊は29戦闘団に配属になった、別の演習も含めて一か月以上
も冬の演習場で野営すると言う初めての経験もこの時した。
 我が戦車中隊が戦車射撃を行うことになった、もちろん実弾射撃だ。
しかし当時は跳弾の事故もあって粘着榴弾の射撃は自粛していたので若い装填手
は縮射装置による戦車射撃しか経験が無く実弾の装填経験が不足していた。
そのため7師団で鍛えられた古参陸士長の私に装填手の任務がやって来た。
『日米共同訓練での射撃』


 しかし問題は装填手だけにあった訳では無かった、二曹の砲手も極度の緊張を
していた、彼は元々偵察隊出身で新編の戦車中隊が出来た時転属して来た砲手
だった、つまり砲手として充分な経験は無い。
 気の良い真面目な人なので深刻な顔になっていた、以前夜間射撃で自信が無い
と戦車を降りたのを見たことがある、『そんなことが許されるのか?』と驚いた
経験があっただけに心配になった、代わりの人はいないのだ。 そんな時は装填
手が自信を付けさせるしか無い。
リラックスさせるのにエロ話をしたりするのがよく使う手だが、真面目な人なの
で考えた、そして自信満々で言った。
『粘着榴弾を装填』 


 『班長心配しなくても俺が込めた弾は絶対に命中します、大丈夫ですよ、その
ために古参の俺が装填手をやるんですから、絶対に大丈夫、班長は落ち着いて諸
元を入れて照準して射撃するだけでいいんです、そりゃ反対方向に照準されちゃ
無理だけど少々のずれは気合いで当てます、もし命中しなかったら俺のせいにし
ていいですよ』と言った。

砲手は力無く苦笑しながら『…期待してるわ』と言って黙ってしまった。 『砲
種粘着奥の台戦車』と車長の号令により、後部弾薬架から105mm粘着榴弾を閉鎖
器に叩き込む、装填スイッチを押して『装填よし』と叫ぶ。『撃て』『発射』と
砲手が叫ぶ、閉鎖器からいきよいよく薬莢が飛び出す。飛び出した薬莢は熱く素
手で触ると焼ける、昔触って指紋が薬莢に付いた。飛び出した薬莢は後部のバン
ドに当たり立ったりすると蹴飛ばして避ける次弾を素早く叩き込む

『装填よし』、『命中、撃ち方待て』の号令。
初弾が命中したようだ、良かった、ホッとした。
 夜、我がクルーの天幕に砲手達が集まり我が砲手を褒める『教導隊の砲手みた
いでしたよ』『初弾必中ですね凄いですよ、的に吸い込まれるように命中しまし
たね』と賞賛賛美を受けていた、ちらっとこっちを見た砲手が言った『装填手の
お陰だよ』無口な我が砲手が言った。
他の砲手はなんのこっちゃいと言う顔をしていた。
『射撃前の74戦車、上部の旗は緑』


 射撃の場合、弾を装填すると戦車に積んでいる三色旗を必ず掲げる。
弾を装填していない時は緑色、装填時は赤、故障はオレンジ、装填した状態で故
障は赤とオレンジである。
 この三色旗、別な用途でも使用される、操縦訓練で操縦手の頭を叩くのにも使
われるがあんまり叩くので折れることも…、操縦も命懸けだ。
誤解が無いように車長席から操縦手席までは遠いので旗でも届かない、よく勘違
いしている人に車長が操縦手への命令は足で蹴ってするのだろうと、旧軍の戦車
じゃありません、ランボーのように一人で動かし射撃も不可能。
『米軍の設営』


 米軍の共同訓練、以前経験した時は戦車連隊の戦闘団との一員だったせいもあ
り内容も濃く面白かった。2回目の訓練は29普通科連隊の配属で行ったので、米
軍との密接な訓練はそんなに多くは無かった。
 米軍が我が野営地近くに天幕を設営していたが、冬の設営は慣れていないのか
天幕の紐を持ったまましばらく佇んでいた、写真はその時の物である、とても寒
そうにしていたので声をかけた。

夜我が天幕に招待した、焼き肉やジンギスカンを鉄板に焼いて食べさせると我先
に食べていた、後日自分たちのコンバットレーションを大量に持って来た、彼等
は温食は無く携行食しか食べていないのだ、それから毎晩彼等は我が天幕を尋ね
て来た、我々は皆でお金を出し合い買い出しに行き食べさせた。
 彼等の天幕は我々より寒く暖もとりに来ていたのだ。

 米軍の冬装備は貸与品で訓練を終えると返納するらしい、ミッキーマウスブー
ツと彼等が言っていた防寒靴は半長靴の上から履く大きな靴で空気が入ってい
る、とても暖かいらしい、話ではシベリアでも使えるらしい。 スキーは装備し
ていなかった、あるのは大きな『かんじき』、形は自衛隊のと違い大きなテニス
ラケットみたいな物だった。

歩く速度も遅く自衛隊の冬季装備とは大きく違う、彼等は何かあると世界中に展
開する部隊だ、イラクのような熱砂地域もあれば極寒の地にも展開するのかも知
れない、熟練の技術が必要な装具では戦闘できない誰でも体力さえあれば使える
装具の方が実戦的なのかも知れない。

 この訓練で従軍牧師の予備役少佐が居たり、戦場体験豊富な軍曹にもあった、
軍曹の身体を見せて貰ったら銃弾で受けた傷があった。
 初めて日米訓練した時の兵隊はどうなったのかと思った、その訓練の後湾岸戦
争があったから、この軍曹もイラク戦争に従軍したのだろうか?。


 雪の無い時期の演習とは別に冬季の訓練は全く違う技術と能力が必要だ。夏期
の訓練検閲の他に冬季の訓練検閲もある、夏期も厳しいが冬季は寒さとの戦いで
もあるので厳しさも一層増す。
 服装も白いパーカーに頭から爪先まで白い偽装をする、靴下も厚めを履き防寒
大手を使う当然着込むから動きが鈍くなる。
 この時期の訓練頃から審判の幹部はカメラを携行し、写真を撮って後の講評に
使っていた。
 寒さを凌ぐには食べることだ、私はスルメを図嚢に入れ携行し戦車に乗車待機
したりして動けない時、食べたすると身体が暖まる。
自分で工夫しながら戦うのが冬の戦いだ。


 アキオは数人で引っ張る、アキオには荷物を積んだり負傷者を搬送したりす
る。4人一組になって息を合わせて引っ張る、チームワークが必要だ。
 冬季の戦技と言えばスキーだ、走るスキーだがゲレンデを滑る技術も必要だ。
北海道生れの私はスキーが上手とは言えないが滑るのはなんとかなる、しかし雪
の無い地域や、出身者の多い九州出身や北海道出身でもスケートの盛んな道東出
身者は慣れるまで大変だ。

 特に雪に慣れていない者は上達も遅い、そのため自衛隊では初めて北海道の冬
を過ごす新隊員と内地から転属して来た陸曹以上の隊員にスキーの基本教練から
始まり基本的のスキー訓練を行う新渡道(しんとどう)訓練を実施している。
 スキーの基本教練はスキーを付けたままの回れ右や右向け右なんてものからや
るのだが、スキー自体慣れていない者は四苦八苦スキーと格闘している、こうし
て冬の厳しさを身体に叩き込んで行くのだった。
 スキーを指導するのは『スキー記章』を付けた指導官が当たる。


 スキーで行軍する場合『スキー行進』と言う。
北海道の部隊ではスキー検定もある、検定官はスキー記章を付けた部隊指導官が
行う。
 冬季レンジャーの記章は『遊撃記章』と言うのがある。
冬季訓練でしか取得できない記章もあるのだ。

 戦車射撃には小隊射撃と言う種目もある、小隊長の指揮のもと小隊が一丸と
なって射撃するのだ。
チームワークが必要な射撃である、小隊集中射撃など練度の高い射撃を競うのが
戦車射撃競技会だ。
 単車射撃と違い皆の息が合わないといけない、射撃競技会は中々面白い、総合
火力演習でしか射撃を見学できないマニアやオタクにも開放したら良いのに、そ
うしたら総火演も混まないのに…無理か。

 冬の訓練は雪まつりや演習場の訓練枠、そしてスキー訓練との噛み合いで中々
できない。
 演習場だっていろんな部隊が毎日訓練しているから、演習場が使える訓練は優
先順位があるようで、自由に訓練できる訳では無い。
冬季の訓練は雪が無くては始まらない、雪が解けたら意味が無い、そんな中で雪
まつり期間中11師団は演習できない、雪像作りが忙しいからだ。
すると雪像制作が終わると一気に宿題をするように演習が始まる。
 冷戦時代ソ連軍と戦うことが無くて良かったね。

 戦車隊員の車長は拳銃を携行する、9mm拳銃だ。
たまに手入れが面倒なのでモデルガンを持って行く車長もいる、こちらの方が威
力がある、だって弾が出るもんBB弾だけど、拳銃には空砲無いもんね、自衛隊で
は片手で拳銃射撃する。

続く