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「パンキシ渓谷のチェチェン人は大量の武器を保有し、
テロリスト養成キャンプを運営し、
麻薬・誘拐ビジネスと犯罪の温床となっている。
そしてここに、ウサマ・ビン・ラディン氏と関係した
アフガニスタンのテロ組織が流入した」
これは、今では米・露・グルジア共通の公式見解だ。
このうち私はいくつかの情報について、「その通りだ」と認めざるを得ない。
それは「大量の武器を保有していること」、
「麻薬・誘拐ビジネスの温床となっていること」の二つだ。
一つめに関していえば、これはチェチェン人が組織的に行っている。
彼らはロシアの軍事占領に対して抵抗しており、パンキシはその重要な後方基地だ。
米・露・グルジアが「テロリスト養成キャンプ」と呼ぶのは、恐らくこの写真のことだろう。
これはパンキシ渓谷にある射撃演習場だ。
彼らはロシア軍と闘うためにときどき村はずれの山の中で
こうして射撃の腕を磨いている。
やっていることは単調な射撃訓練で、
「テロ」のための特殊技術を磨いているわけではない。
二つめの「犯罪の温床」だが、これは事実にして真実に非ずという側面がある。
パンキシで発生した誘拐事件には、私のケースも含めて、
常にグルジア政府高官の関与が見え隠れしている。
実行者は多くの場合、チェチェン人だが、首謀者はグルジア政府そのものだ。
「犯罪の温床」は事実だが、正確に記すとなると、
「グルジアによる犯罪の温床」とせねばならないだろう。
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干草を刈り入れるチェチェン戦士たち。
99年の第二次チェチェン戦争勃発以来、
チェチェンからパンキシ渓谷に脱出した難民はおよそ8000人といわれる。
彼らの中の資産のあるものはこの渓谷に土地を買い、
農耕で自給自足の生活を送りつつ、
ロシアから故郷を取り戻す抵抗の準備を進めている。
生活と抵抗は一体と化しており、
武装勢力なのか、それとも難民なのかというカテゴライズは意味をなさない。
難民とはいっても、彼らはスロレオタイプ的な打ちひしがれた弱者ではない。
ぜんたい、世界一獰猛でマッチョなチェチェン民族はどう大袈裟にみても
「打ちひしがれて」見えることはない。
彼らの間ですら、「おれは難民だ」というセリフは
シャレとしてかなり笑いを取れるネタだ。
「そんなエラそうな難民はいやだ!」
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コーランを持つアゼルバイジャン人戦士タリクと井戸水を汲む子供。
外国人イスラム義勇兵もまた、パンキシには流入している。
チェチェン人はイスラム同胞からの救いの手として、彼らを歓迎している。
宗教的義務感に駆られて平穏な生活を捨て、敢えて命を懸けに来た彼らは、
否も応もなく故郷が戦場になったチェチェン人に比べても信仰心に篤く、
しばしばチェチェン人の信仰の手本になっている。
パンキシで彼らは村人たちと共同生活を送っている。
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チェチェン人の長老会議(シューラ)
ネクタイの男性はグルジア・チェチェン共和国のヒジル・アルダーモフ代表。
パンキシにグルジア政府の警察権や司法権は及んでおらず、
シャリーア(イスラム法)に基づいた自治が営まれている。
チェチェン政府のハムザート・ゲラエフ国防大臣と
アスランベック・アルサエフ内務大臣を中心に、
村の重要な決定事項は長老会議で決められる。
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シューラのご馳走にあずかる村の子どもたち。
アルダーモフ氏がいう。
「みんな食え。食え。こんなのは月に一度しかないぞ!」
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チェチェンの幼児と老人
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イスラム戦士たちの食事 −− 司令官の家で
食品はオランダ王室から送られたというコンデンスミルク、ニュージーランドの
イスラム団体の支援品の羊肉のかんづめ、小麦粉、砂糖はトルコのイスラム団体
の支援。グルジアのその他の地域よりも物資は豊富にある。
チェチェン戦争勃発以来、グルジアは恐らくロシアへの牽制から、
このチェチェン戦士たちを一貫して秘密裏に支援してきた。
しかし、911以降、その方針が変更された可能性がある。
グルジアはパンキシ渓谷に「テロリスト」がいるとして、
その掃討のために米軍の派遣を求めた。
しかし、それすらもグルジアの本心ではなく、
国際的地位をめぐって係争中のアブハジアに勢力を拡大したいグルジアが
チェチェン人をテロリストに祭り上げ、狂言回しに使ったらしい。
昨秋、チェチェン人はアブハジアに侵攻し、アブハジア軍と衝突した。
しかし、チェチェン人にもアブハジア人にも互いを敵とするいかなる理由もない。
アブハジアの背後にはCIS平和維持軍に名を借りたロシア軍が、
チェチェンの背後にはグルジア正規軍が、
そのさらに後方にはNATOと米国の思惑が、
それぞれ陰に日向に見え隠れする。
世界一の軍事大国アメリカとそれに対抗するロシア、
虎の威を借りてロシアを牽制したいグルジア、
それらの国の都合で翻弄されるチェチェンとアブハジア・・・・
ここには明確な力のピラミッド関係がある。
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