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そして、2005年12月12日、今度は小泉首相自らが、国際的広 報活動に乗り出した。 その要約をご覧いただきたい。 。。。。。。。。。。。。。 『フィナンシャル・タイムズ』(英) 2005年12月12日付 −貧困撲滅のために、協力が必要だ 小泉純一郎・筆 今後数日間、WTOの加盟国150カ国近くの国の閣僚が香港で会議 を開き、2006年末までに終結を狙うドーハ・ラウンド交渉を推進す る。 このラウンドは成功させなければならない。 これは、潜在的に歴史的なラウンドになりうる。 このラウンドは貿易自由化のより野心的なレベルを狙っているだけ でなく、発展途上国を対等な受益者かつ参加者としてWTO体制に統合 することを強調しているからだ。 日本は、深く活発にこの目標にコミットしている。 それは、日本が世界第二の経済大国かつ最大の農産物輸入国であるか らだけでなく、日本が現在の経済的繁栄を、国際社会の開発援助や助言 に支えられつつ、第二次世界大戦後の多角的貿易体制と国内の構造改革 に負うからである。 貿易が開発を振興し、その開発が貿易を強めるような上昇スパイラル をつくることは、ちょうどかつての日本と同じく、今日の発展途上国の 利益にかなう。 後発途上国と、小規模で脆弱な経済にとって、とくにこの課題は急迫 し重要である。 これらの国々にとって比較的有利な農業の分野では、日本は輸出助成 金を控え、貿易を歪める国内援助をすでに大幅削減しており、さらに農 業改革とともに市場自由化を推進する。 過去10年間の発展途上国への援助総額において最大ドナーである 日本は、先週、新たに重要な開発パッケージを発表した。 このイニシアティブは、後発途上国の日本市場へのアクセスを大きく 改善するだろう。 そして、輸出可能な商品の生産に関する知識や技術を提供する。 この構想は、すでに東南アジアのいくつかの国に輸出されている。 タイの地方のプロジェクトでは、テキスタイル製品や工芸品が競争力 のある商品と定められ、国際市場への道を見つけている。 私たちは、アフリカの国々も同様の成功物語をつかめるよう、援助す るつもりだ。 私たちのイニシアティブは、輸送ネットワークの構築や、労働者の技 術向上のための交換プログラムも含む。 後発途上国の人々にとって大切なのは、生産から輸出までのサプラ イ・チェーンを含む、開発のオーナーシップである。 このように、後発途上国の人々は、このプロセスがもたらす付加価値 を享受するだろう。 日本は今後3年間で、このイニシアティブを実施するための貿易・生 産・流通関連のインフラ開発に100億ドル以上を割り当てる準備があ る。 さらに同時期、1万人以上の研修者と専門家の交換のための資金を拠 出する。 ほかの先進国や、先進途上国も、このようなイニシアティブを、独自 にかつ調整しながら導入し、貿易と開発を通じて共同で貧困を撲滅する ことを願う。 私は香港の閣僚のかたたちに、このようなコミットメントを宣言する ことを求める。そうすれば、ドーハ・ラウンド交渉に新鮮なモーメンタ ムが加わるだろう。 。。。。。。。。。。。。。 "気前のいい日本"を強調する小泉首相の寄稿だが、その効能やいかに? 以下、その直後開催された東アジアサミットの海外英文メディア報道 の一部の要旨を、のぞいてみよう。(中国と韓国のメディアは除く) まずは、小泉首相の寄稿を掲載した、世界的に発行されている英経済 紙の社説の要約。 首相の寄稿の2日後に、日本の評判は上がったかな? 。。。。。。。。。。。。。 『フィナンシャル・タイムズ』(英) 2005年12月14日付 −実のないアジアのサミット 中国と日本は、悪化する争いを解決するべきだ 本日、16カ国が参加してクアラルンプールで開催される、初の東ア ジアサミットは、かつては汎アジア・コミュニティーの先駆けとみなさ れ、地域で経済的に成功し、より積極的な姿勢を取る各国政府が祝賀す るものとされていた。 だが、もはやそうではない。 開会前から、この構想の提唱者であるマレーシアのマハティール前首 相が、オーストラリアとニュージーランドの参加に苦情を呈した。 一方、米国は、潜在的に重要なアジア太平洋の集いから締め出されて、 苛立った。 会議の枠組みに満足した数少ない国のひとつが、アジアにおける中国 の影響力がインドやオーストラリアの存在によって薄められることを 熱心に期待する、日本だ。 中国はこれを歓迎せず、マハティールのオリジナルのコンセプトを支 持している。 サミットが失敗あるいは実のないものとなり、無駄な外交努力と帰す だけでも、じゅうぶんに悪い状況だ。 だが、東アジアは、旧態依然よりさらに悪いものに直面している。 日本と中国の両国でナショナリズムが台頭し、中国政府が日本政府を 孤立させる運動を展開するなか、日中関係が急激に悪化しているのだ。 中国お得意の戦術は、靖国神社を参拝する小泉首相を攻撃することだ。 靖国神社には戦犯と戦没者が祭られており、今世紀前半に日本に侵略 されたアジアの国々にとっても、侮辱とされる。 問題解決のアウトラインは、誰の目にも明白だ。 日本の指導者たちは、日本の過去の侵略と関係のない新しい戦争追悼 施設を建てるか、すでに存在する中立的な戦没者の神社を参拝するべき だ。(注:千鳥が淵を指しているのかもしれない) 一方、中国は、日本の再三の謝罪を受け入れ、日本の首相との対話拒 否に終止符を打つべきだ。 EUの中心となっているフランスとドイツとは違い、中国と日本は第 二次世界大戦を克服したり、両国の経済的依存性を反映した政治的協力 関係を作り出すことに成功していない。 両国がこれを達成するまで、米国はマハティールの夢であるアジア統 合を恐れるにはあたらない。 また、アジア人は、彼らが誇れるコミュニティーのようなものを持つ こともない。 。。。。。。。。。。。。。 『ザ・ネイション』(タイ) 2005年12月15日付 −東アジアサミット:大きな力の競争はあるが、融合はなし 本日、東アジアサミットがクアラルンプールで発会する。 だが、皮肉なことに、アジアを融合しアジアの地域主義の産声を強調 するのではなく、中国と日本というこの地域の2つの大国の敵対が増強 し、両国間の争いが激化するにつれ、アジアを分裂させるかもしれない。 そればかりか、米国というファクターが東アジアに不気味に迫り、ア ジアの敵対を強めている。 過去数年間のインドの急速な台頭も、アセアン諸国に現実として突き つけられ、インドを何らかのかたちでアジアの地域統合の主流に置くこ とが必要となった。 とくに、おそらくアジアで上昇する中国政府の釣り合いを取るために、 米政府が世界の大国にすると誓ったインドも、アジアの地政学的未来に おいて枢要な役割を果たすことになるだろう。 興味深いことには、中国政府高官は、いつの日か米国が東アジアサミ ットに参加することを禁止しなかった。 とくにこの場合は、中国政府は特別に発言していないが、米政府の"釣 り合い"を取るために、おそらくロシア政府の参加も望むだろう。 だが、クアラルンプールの会議の真の障害は、疑いなく中日間の争い であり、サミットの不幸なハイライトとなりうる。 日本の小泉首相は、クアラルンプールでの中国のウェンチアパオ首相 との会談を希望している。 中国政府は、小泉首相が10月17日に再び靖国神社を参拝したので、 4月のバンドン会議50周年中に行われたジャカルタでの中日首脳会 談は無駄だった、と主張してきた。 さらに、慣例の中日韓首脳会議の開催も、多いに危ぶまれるようだ。 このように、アジアの大国(中国と日本)の間で経済的・商業的関係 が強化しているなか、その首脳が顔をあわせて話し合うことができない のは、今日の落ち着いた国際社会の潮流とは明らかに相容れない、アブ ノーマルな政治関係であり、事態は警戒を呼ぶ。 事実、この問題は、中国政府と日本政府のアジアでの将来的役割につ ての核心となっている。 現実に、中国政府と日本政府の関係が正常化しないかぎり、東アジア サミットとその未来が実質的にスタートする可能性は低く、アジアは不 幸にも分裂したままだろう。 結局のところ、とくにアジアでは、まだ経済よりも政治が重要なのだ。 東アジアサミットは結局、クアラルンプールでアジアの国々の同床異 夢を証明することにもなりかねない。 ヨーロッパとは違い、アジアの国々は、実質的に融合するのにもう一 世代ぐらい待たなければならないのかもしれない。 "ひとつのアジア"の建設というご立派な夢は、明らかに、米政府、 北京政府、日本政府、そしておそらくインド政府、ロシア政府という大 国間の敵対意識の犠牲となるだろう。 。。。。。。。。。。。。。 『ストレーツ・タイムズ』(シンガポール) 2005年12月15日付 −"小競り合い"の大きな影響 靖国問題が小泉につきまとい、3カ国首脳会談が延期に 4年近く前の2002年1月、シンガポールを訪れた日本の小泉首相 は、東アジア共同体構想を描いた。 だが、昨日のクアラルンプールでの東アジアサミット発会式で、この 日本の首相はそのイニシエティブを誇るどころか、ましてや祝うムード にもなかった。 小泉氏が2001年4月に首相に就任して以来、日本は地域リーダー としての地位を失い、台頭する中国がこの地位についた。 中国政府は、東アジア共同体の振興は、アセアン諸国+中国、韓国、 日本がリードすべきだと主張してきた。 というわけで、クアラルンプールでの小泉氏の主たる目標は、インド、 オーストラリア、ニュージーランドの支持を得て、東アジアサミットで の中国の影響力を薄めることにあった。 彼はまた、共同体への統合を推進するため、アセアンに対して75億 円の援助を発表し、アセアンとの関係強化を図った。 日本のメディアの報道は、東アジアサミット創立の重要性よりも、中 国と日本の地域リーダーシップをめぐる争いに焦点を当てている。 この競争は、小泉氏が例年、アジア諸国が日本の軍国主義のシンボル とみなしている靖国神社を参拝して中国を怒らせ続けることでできた 2国間の深い溝によって、複雑なものとなっている。 小泉首相は無念かもしれないが、彼はクアラルンプール滞在中ずっと 靖国問題につきまとわれた。 この問題のため、中国政府は、中日韓首脳会談を延期した。 そして火曜日には、アセアンのメンバー国から、日本と中国の争いで 地域が不安定になるという懸念が、小泉氏に押し寄せた。 彼は、靖国神社参拝の動機を中国と韓国が誤解していると主張したも のの、彼自身の妥協は示さなかった。 彼は、トップリーダーとの会談は実現しなくても、中国と韓国との関 係は最良だと主張する。 たとえば、彼はシンガポールの首相に、「指導者間の会談がなくても よい関係にあるということ自体、日本とこの二国の関係が強固であるこ とを示している」と語ったと伝えられた。 だが、中国と韓国にとっては、もちろん靖国問題は、ただの問題では ない。 小泉首相は、中国政府の苦言に応じるどころか、ただの「意見の相違」 として片づけることを好む。 日本政府と中国政府の口論にもかかわらず、日本の元外交官の田中均 氏は、これで東アジア共同体の創立が妨げられることはない、と楽観的 だ。 今週、田中氏は、日本で開催されたシンポジウムで、「この地域の国々 がこのような共通のビジョンを話し合えるということは、日本と他国の 問題解決の要因になるかもしれない」と語った。 だが、ベテラン・ニュースキャスターの筑紫哲也氏は、日本が抱える アジアの問題の要点を突いているかもしれない。 彼はクアラルンプールからの中継で、「過去において、日本のアジア における役割は、途上国を助けることだった。ある意味、日本はアジア に背を向けていた。日本が今後すべきことは、アジアに向き合うことだ」 と語った。 とはいえ、東アジアサミットの主導権に関する報道で、彼のような意 見は希だ。 おしなべて、日本ではサミット自体に対し、大して関心が集まらなか った。 昨日、日本は、建設スキャンダルの国会証人喚問に釘付けになった。 東アジアサミットの報道は、辛うじてニュース番組で取り上げられた 程度だった。 。。。。。。。。。。。。。 『ザ・グローブ・アンド・メール』(カナダ) 2005年12月21日付 −中日の溝が新しい東アジアのグループを危うくする 先週の、東アジアサミットの発会は、中国と日本の対話がなかったと いう事実以外は、支障なく行われた。 両国の一瞬の接触にして、クアラルンプールの会議そのものよりも大 きく報じられた事件は、小泉首相がサミットの宣言署名式で、中国のウ ェンチアパオ首相からペンを借りたことだった。 ホスト国のマレーシアのアブドラ首相までもが、「われわれが東アジ アの協力関係の支柱とみなしている日中関係で、分裂が進んでいること を懸念している。両国が関係を良好にすることが、重要だと信じる」と 述べた。 日本と、中国・韓国の不一致は、クアラルンプールでも明白だった。 過去6年間、この三国は、アセアン諸国との会議があるたびに、三カ 国首脳会談を開いてきた。 今年は、中国がこれをキャンセルした。 中国の外相は、その原因は、小泉首相が10月17日に、14人のA 級戦犯が250万人の戦没者とともに祭られている靖国神社を参拝し たことにあることを明らかにした。 小泉氏は、2001年の首相就任以来、毎年この神社を参拝してきた。 一番最近の参拝後、彼は「今日の平和は戦争で亡くなった方たちの犠 牲の上に成り立っていることを忘れてはならない」と述べ、自分の行動 を正当化した。 これは、日本が第二次世界大戦時に、犠牲者ではなく侵略者であるこ とを考えると、ちょっと理解しづらい。 真珠湾攻撃はいうまでもなく、朝鮮を植民地化し、中国を侵略し、東 南アジアの大半を占領したことを鑑みると、小泉氏は、日本の現在の平 和と繁栄は、これらの侵略行為によってのみ可能だった、と言っている ように聞こえる。 アジアで孤立した日本は、米国に接近してきた。 小泉氏は、日米同盟が強固であればあるほど、「中国と韓国とよい関 係をつくりやすくなる」と確信している、と発言した。 小泉氏は、悪い状況を乗り切ろうとして、中国と韓国との関係は最良 だと主張する。 彼は、シンガポールの首相に、「指導者間の会談がなくてもよい関係 にあるということ自体、日本とこの二国の関係が強固であることを示し ている」と語ったと伝えられた。 だが、中日関係を長期間、自動操縦に任せるのは危険だ。 靖国問題が解決されなければ、東アジアの未来もリスクを負うかもし れない。 。。。。。。。。。。。。。 尚、最後のカナダ紙の論評は、翌2005年12月22日に、マレー シアの『ニュー・ストレーツ・タイムズ』に転載された。 |
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