ヒマヒマなんとなく感想文|

「逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録/幻冬舎 」

(加藤健二郎 2011.3)


「逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録」市橋達也 幻冬舎

「最近の若者は弱い」という認識は大きな間違いだと考えを改めた。今の日本の若者 には、強さを発揮する場面が与えられてないだけ。「ここまで追い詰められても、 ちゃんと職に就いて生きていける」ということを実証した希望を与えてくれた本。ま だまだ俺も負けてられんぞって。

 追い詰められれば日本の若者も、ここまで、能力を発揮する。計画性もなくサバイ バル能力もなかった市橋達也氏が、「捕まりたくない」という原動力だけで、社会や 自然環境に適応してゆく能力を身につけてゆき、逃亡者としての勘や素早い決断力を も身につけてゆく。逃げ切るための根性も凄いもんだ。その根性が肉体を野生的に強 くしたようだ、しかも、たった数日間で強い野生になってしまったようで、これは やっぱ人間という動物の底力も凄い。市橋氏が片足はだしで逃げ出したのは2月の冬。

 本文中の、ピンときたひと言は「過去の自分の実績とは無関係な生き方をするこ と」だ。市橋氏は、論理的に考えてそれをやったのではなく、直感によって、そうい う方向へ転がっていった。だから、警察も足取りをまったくつかめなかった。  さて、自分に当てはめた場合、「過去の自分の実績とは無関係な生き方をするこ と」ってなんだろう?

土建業界ダメ。山中サバイバルもダメ。大都会もダメ。国外逃亡も軍事関係もダメ。 いろいろなことやってきてしまったツケがまわってきたなあ。世の中にデータを残し てきてしまった人間の弱味だ。

市橋氏が姿をくらませたのは、逃亡を助ける他人や組織を1つも持っていなかったこ とだろう。整形手術が唯一、それといえるかな。だから、そこが落とし穴になった。  現代の日本で、2年7ヶ月間とはいえ、こんなふうにちゃんと職業と収入を得ての 生き方が可能だということを思うと、実名で堂々と職探しをできる健康人が失業して いたり生活費に困っているのは、ただの甘えなのだろう。そして、サバイバルを売り 物にしてきたつもりのカトケンも、市橋達也ほど強くなれないかもしれない、という かなりの敗北感。

そんな私には、この本から学んだことが、まっとうな人生やってる人の数十倍以上あったかも。

「悪いことをした」という自覚のある人は、自分の置かれた苦しい環境に寛容になれ たりする。これは、「自分はいつも正しい」と自信もって生きてこれた人には想像に にくいことらしい。