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戦車ファンなら読め!!『機甲戦の理論と歴史』

( 陸戦研究家/神博行)

「ストラテジー選書10  機甲戦の理論と歴史」 葛原和三著 芙蓉書房出版刊

このような本は今まで機甲戦、戦車戦に関して出たことはあったろうか?。戦車 の本と言えば戦車という物に対しメカ関連の本しかないと言っても過言ではな い。だがこの本は違う、古代から現代までの「機甲戦」を理論的に述べ、各国の 戦略思想、教義、戦術、戦車の設計思想、機甲戦に影響を与えた人物まで解りや すく紹介している。

著者は旧陸軍で言えば「陸軍大学校」にあたる「陸上自衛隊幹部学校」の戦史教 官である。また生徒12期として15才から自衛隊に入隊し、3曹として戦車の 砲手も経験しながら苦学しながら夜間大学を卒業して一般幹部候補生出身の機甲 幹部である。戦車教導隊で小隊長となり、あの有名な「流星」のマーキングを考 案された人物としても知られている。 73戦車連隊で中隊長、11戦車大隊長の頃、神に「士魂戦史研究会」創設の命 を下したのも葛原大隊長であった。

その後防衛大教授、防衛研究所戦史部、幹部学校戦史教官と「戦史畑」を歩ま れ、世界的に知られる戦史研究家である。

機甲戦の専門家が日本にどのくらいいるだろうか?、日本には戦車に対しての戦 略思想は存在しないと言われる中、用兵とは何か?ドクトリンとは何か?解りや すく解説されている。私はこの本の中で最も注目したのが日本陸軍の項目である。 第一次世界大戦後に日本陸軍では騎兵不要論が巻き起こった。この論議は今の 「戦車不要論」にも通じるようなことであるが根本的には違う。騎兵に変わる新 兵器登場による騎兵の運用を戦車へ替える発想と、戦車に替わる物もなく「戦車 は必要ない」との発想は根本的に違うからだ。

騎兵はノモンハン事件でも騎兵は馬に乗れず(補給の関係で)自動車で騎兵のみ で戦闘に参加した、騎兵は既に過去の兵科となっていた。騎兵は機械化され機甲 職種が誕生した。騎兵の父秋山好古大将は最晩年に二人の騎兵出身の将軍二人の 見舞い行った時に「日露戦役では我が騎兵旅団が機関砲を持って居たので勝った のぢや。これからも新兵器など、終始能く気を付けて居らんにゃいかんよ」と 言った。この言葉をもっと早くから理解していたなら、断腸の思いで馬を捨てて でも戦車を導入し開発から運用まで第二次世界大戦までにはもう少しマシなこと になったのではないだろうか。

「機甲戦の理論と歴史」を読んでいていろんなことを考えさせられた。また自衛 隊の戦車部隊についても言及されているし、資料的価値も高い。戦車を知るには この本を読まず、どんな本があるのだと感じさせる本だ。戦車砲の技術的な話 だって、メカについての記述ではなく、深い意味を理論的に述べられてある。 ここまで戦車のことを書ける人物はいないだろう、戦車本としては画期的な文献 として将来まで「機甲戦の理論と歴史」抜きに語ることはできなくなった。恩師 でありかつての部下であった私はこの本を手にして何だかとても誇らしく思っ た。しかし、そんな関係だから褒め称えているのではない、それは読めば解る。 お世辞抜きで素晴らしい本なのだ。

どのくらい素晴らしい本なのかは読んで確認して欲しい、題名を見ると「ちょっ と難しいかな」なん て思うかも知れない。 それは私も思った、だが畏れることはない、解りやすく 解説してあるから戦史通でも満足し、全くの外漢でも読めるようになっているのだ。 戦車ファンなら読め!、読まないと後悔する、早く買わないと売り切れるぞ!?