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「帝都・東京」

(2008.10 森川 晃)

「帝都・東京」別冊宝島編集部編 宝島SUGOI文庫

 東京に神秘性を見出そうとする切り口にはいろいろなパターンがある。
秋庭俊氏は地下に何かが埋まっていると言う。荒俣宏氏は平将門の怨霊に守られていると言う。陰陽道においても寺社の配置の意味づけを強調する。

このように東京の都市計画にはさまざまなかたちで都市伝説が存在する。いつの時代においても都市計画は合理性を基調としているはずなのだが、東京に関しては時代を経るとある種の神格化めいた変化を遂げる。これは大阪や名古屋、エキゾチックな横浜や神戸にもほとんど見られない傾向である。

悲惨な消滅から再起した広島、長崎こそ神格化されてもよさそうなものだが、都市計画そのものへの都市伝説は聞いたことがない。東京は首都であり、容易に中を覗けない国家機密に関わる施設があり、皇居の存在も神秘化に拍車をかけているのだろうか。


 ところで、東京の都市計画における伝説は、大きく分けると下記のようになる。

(1)明治以前の寺社の配置に関するもの。
(2)明治以降の道路、鉄道など公共交通インフラの整備に関するもの。
(3)明治以降の皇室関連施設を含む公共施設や大規模民間施設の配置に関するもの。


 いすれも公的団体が設置を企画するものばかりである。(3)は民間施設を含むが、大規模な区画整理事業の一環として実施されるので、公的団体が企画したと言える。純然たる民間主導の施設については、施工前に十分なマーケティング調査をして、オープン前には派手な宣伝で利用者を募るはずである。そのため企画から施工中、それにオープン後も多くの人に見守られることになる。そのため神秘性は少ない。

しかし、公的施設となれば宣伝の必要なない。秘密にするつもりはないが、敢えて宣伝する必要もない。積極的に調べれば存在理由は明確なのだが、それは多くの人には面倒だろう。面倒なので想像する。憶測が広まって伝説になる。時代を経て、ますます理由がわからなくなり、伝説が神格化される。このあたりが、東京の公的施設への奇妙な話の成立ではないだろうか。

 最近では公的施設でも談合などの不正を防止するため、それなりに宣伝するようになり、神秘性が抑えられている。建築物や鉄道はマニアを含め多くの人が関心を持っている。しかし、道路はなかなか関心の的にはならない。当方はなぜか道路には詳しいので、明治以降のすべての道路に神秘性は見出せない。いずれも当時の確固たる理由と予算と技術に基づいて設置されているのだ。中には政治的な理由でルートが曲げられたり、何らかのイベントにより施工優先順位が大きく変更されたり、さまざまなイレギュラーケースがある。道路はマスコミもほとんど取り上げないので予定外のアクションがあれば伝説が生まれる要因になりやすい。

 この本では、いろいろな伝説を端的に記している。伝説ガイダンスとしてうまくまとまっている。一つの伝説をいきなり追求すると、その人の世界にはまってしまうかもしれない。その前に、ガイダンスで概要をおさえておくと、深入りしても冷静に読み物として楽しむことができるだろう。

ただ、ガイダンスの段階で笑わないでほしい。なんとか笑いを堪えて、なにか気になる伝説を見つけ、深入りしてマニアの世界を楽しんでほしい。皇居、靖国神社、明治神宮、それに高尾の武蔵野御陵を結ぶ都営新宿線、京王線の線形への意味づけについては、ほかの本でも読んだことがあるが、地図を見ていて気づいたのだろう。地形や土地利用を無視して何でもまっすぐ結べばよいと思っているようだ。このカラクリに気づいてから、さらに靖国通りの計画経緯、都営新宿線の計画経緯、京王線の歴史まで調べると当方のような都市計画マニアになってしまうので注意してほしい。