ヒマヒマなんとなく感想文|

荒唐無稽の書籍群

(2008.6 森川 晃)

「次の超大国は中国だとロックフェラーが決めた下[技術・諜報]篇」ウィクター・ソーン 5次元文庫
「次の超大国は中国だとロックフェラーが決めた 上[謀略・金融]篇」ウィクター・ソーン 5次元文庫
「私が出会った宇宙人たち伝説のコンタクティ30年間の記録」ハリー・古田 5次元文庫
「闇の世界金融の超不都合な真実」菊川征司 5次元文庫
「9・11テロの超不都合な真実闇の世界金融が仕組んだ世紀の大犯罪」菊川征司 5次元文庫
「竹内文書 世界を一つにする地球最古の聖典」高坂和導 5次元文庫
「聖徳太子秘文「未来記」開封」飛鳥昭雄,山下智 5次元文庫

 荒唐無稽という代名詞がぴったりの書籍群はいつの時代においても存在している。人は想像することが好きだし、フィクションが娯楽のひとつであり、語り伝 えるかたちから本への移行においてもスムースにその世界は引き継がれた。その後、映像がマスメディアの主流になってきてもここで取り上げたような特異な世 界はリアリティを欠く子供だましの表現しかできない。CGを使っても滑稽さが強調されるだけである。それでも映像化は行われているが、いずれも娯楽作品に なってしまう。一連のスピルバーグ作品を真実とは思わないだろう。

 ところで、特異フィクションの分野にはやや勘違いした固定読者がいる。決して大きなコミュニティではないが、何人かの作家の生計をたてるには十分な規模 である。適度な大きさのコミュニティと言える。このような世界では、映像よりも本が知的と考える人が多い。本は事実を認識させる以外に想像させるきっかけ がつまっているからだ。元々はっきりしない世界を理解するには想像は欠かせないので、本というメディアは格好である。

 これらの本は大衆に迎合する必要のない世界で流通するので、安価で入手できるよう文庫化されることは稀である。ある種の新興宗教の本のようだ。おおむね 単行本のまま文芸でも雑学でもないエンターテインメントのコーナーに置かれることが多い。数十名の作者と数社の出版社と固定読者で需給は満たされるのだ。 当方はこの世界に属するものではないが、活字なら何でも受け入れるので、少しは読んでみたい。

しかし、高価な単行本を入手するのもきついし、なにより本の 選別が容易ではない。どの分野の本でもやはり比較検討してよいものを選びたい。5次元文庫はなにかと都合がよい。徳間文庫から派生したものだが、同じ フォーマットで同じ分野の本を集めているので横並びで比較できる。派手な装丁や、作者、発行年月日、それに価格に惑わされることなくこの世界に侵入するこ とができる。


 それぞれの作品について感想を記すという辛らつな要求には答えにくいが、数冊まとめて読むとこの世界の雰囲気は実感できる。オウム事件で学歴秀才がこの 世界に深入りして人生を変えてしまったことをマスコミはおもしろおかしく批判していたことがある。しかし、マスコミはこれらの本を読んだことがあったのだ ろうか。おそらくそんな暇はなかっただろう。十把一絡げにこの分野を悪のきっかけに仕立てたように思う。結末はフィクションでも導入は事実が多く、それな りに現在の国際情勢を正しく分析しているものも少なくない。また、科学的に正しいことを記していることも少なくない。

マスコミに携わる人は圧倒的に文系の 人が多いので科学的認識には疎い。宇宙船が大気圏を離脱する速度を論理的に説明することすら危ういと思う。もしかしたら天動説すら説明できないのでは。5 次元文庫の読者は当方のようにちょっと訪問した人以外は、かなり社会、科学に詳しい人だと思う。これらの知識から何らかのファンタジーを導く過程で無理が 生じているにすぎない。ベースとなる知識は一般的な分量よりも多いだろう。むしろ、知識の薄いマスコミの人が本の一部を 読んで間に受ける方が危ない。


 このように擁護めいたことを記したが、やはりこの手の本の醍醐味は、どのあたりから論理が怪しくなるか、そのあたりを見つけることである。「私が出会っ た宇宙人たち」はさすがに1ページ目から無理があるが、ほかは途中まではノンフィクションである。あまり揶揄すると怒られそうなのでこれ以上は記さない が、活字エンターテインメントとしてはまあユニークな世界で、それなりに持続できると信じている。

出来合いのものだけを受け入れることが多くなった現在の マスメディアの世界で、想像を必須とする貴重な分野である。結末は荒唐無稽でも、読後何も想像させない本よりは価値がある。また、本を離れてしまった人に 想像を含む本の利点に気づいてもらうには丁度よいかもしれない。子供のころ、テレビからUFOや宇宙人、徳川埋蔵金、スプーン曲げなどを知った。これらは テレビ局の都合で(視聴率が稼げるときだけ)製作されるため、こちらの関心を満足させてもらえない。本ならば、飽きるまで追求できる。そして、飽きるほど 想像することができる。想像は大切な人格のひとつである。