本の良いところは、著者の意図よりも読者の意向が優先される点である。テレビ、ラジオの類はオンタイムの場合は、発信側のスケジュールに合わせなければならない。たとえば10時まで用があったとしても、9時に始まる番組に合せて都合を変更するか、録画、録音のセッティングをすることになる。いずれにしても煩わしい。当方がこれらのメディアが苦手なのはこの一点につきる。情報はこちらの都合でチョイスし、こちらのスケュールで入手したい。活字メディアは、この条件を満たす。ただし、新聞、雑誌(定期刊行誌)の類は、鮮度が落ちると意味がないので、早めに食する必要がある。そのためスケジュールの変更が強いられる。当方はこれらについてもできる限り敬遠し、単行本化されてから読むようにしている。特に雑誌はほとんど読まない。連載ものにはまった場合、次週を待つのがたまらないのだ。これまでに何度かはまったことがあるが、複数の連載が千鳥式に終焉、開始を繰り返し、この雑誌から抜け出す機会になかなかめぐりあえない。
単行本は、週に10回くらいでかける各種書店で、適宜入手しておき、好きなときに着手することができる。着手時には主として装丁によりどのシチュエーションで読むか決める。文庫本は、外出時やトイレ、それにテレビで活用する。テレビというのは、CMや内容の薄い番組に遭遇したときに本に切り替えるためにセットしておく。このとき、内容をチェックして合理的な配置をめざす。ここでの内容とは、あらすじではない。外出用は、移動距離、移動時間により、区切りと量が十分か確認する。50分の通勤用ならば、30ページくらいで区切りがついていて、往復で120ページ以上は必要である。外出用は量だけでなく、質にもこだわる。本はファッションのひとつなので、あまりにもくだらないもの、はやりものは避けたい。「電車男」や「ホームレス中学生」では恥ずかしくて外出することができない。トイレ本は5ページくらいで区切りがついていれば、総量は特に気にしなくてもよい。テレビは判断が難しい。本来の目的であるCM飛ばしならばトイレ本と同じタイプが適切だが、番組本編がくだらない場合、全面的に本に切り替えることになるため、ある程度の量がほしい。5ページくらいで区切りがあって、総量で300ページくらいの作品は案外少ないのだ。
さて、今回取り上げた本である。「銀齢の果て」はちょっとやっかいな本だ。いつ、どこで読めばよいのか判断が難しい。未読で、読んでみたいと思う人には伝えない方がよいかもしれないが、一応記しておく。このような導入では一般的に作品の内容(主として結末)を記すことになるが、そうではない。この本には区切りがないのだ。全300ページに一切区切りがない。一気に読むか、無理やり自分で区切りをつけるしかない。しかし、後者はなかなか難しい。ストーリーもので作者は老練の名手である。作者の意図を超えた妥協がなければなかなか区切りはつけられないだろう。新潮文庫なので、紐がついているのだが、これを活用する機会は少ないと思われる。当方は一般的には時速60ページくらいで読むのだが、筒井氏の本はこれまでに100冊以上読んで慣れているので少しは早い。それでも300ページに4時間かかった。しかも運良く寝床だった。巻頭に目次らしきものが見つからなかったので、少し読んでみて区切りを見つけ、どのシチュエーションで読むか寝床で判断していて、出口が見つからないまま夜明けを迎えてしまったのだ。もし、チェックせずに外出したら目的地を通りすぎることになっただろう。トイレだったら、想像するだけで怖くなる。200ページを超えたあたりで、本のどこかにこのようなマニアックなトリックのばらしが記してあるかと気にしていたが、最後まで迷いのないストーリーが続いた。
もう一冊の「美人の日本語」は、粋な言語表現が365記されている。1日1つずつ読めるようになっている。日めくりカレンダーに記されているような教訓めいた内容ではなく、あるシチュエーションで使われる日本語で美しいものをチョイスしているだけである。作者が女性ということで、女性が使うのに適した言葉を選んでいる。まあ、内容はともかく1ページで完結していて、(当方は決してやらないが)いつどこから読んでも良いフォーマットである。少し読んで確認するまでもなくトイレ本である。内容が女性的で美しいのでいきなりトイレ本というのは作者に失礼かもしれないが、これは仕方がない。実は、この本は当初トイレ本だったが、100ページを超えたあたりでテレビ本にシフトした。これまでにトイレでのべ20日かけて100ページに至り、テレビ前でCM飛ばしによりなんとか150ページくらいに至った。そして、くだらない番組本編飛ばしで、一気に残りの200ページを突っ走った。いろいろなシチュエーションに耐え られる便利な本である。
以前から、本を入手するときにあらすじではなく、どのシチュエーションで読むのが適しているか、その判断材料になる数値が記されていると便利だと思っていた。総ページ数、重量、区切りまでの平均ページ数、活字の大きさ・・・。書店に行くと複数の本を入手する。そのまま近隣のスタバ、およびその類に出かけて、総ページ数、重量、区切りまでの平均ページ数、活字の大きさを確認して、ざっくりどのシチュエーションで読むか分類する。そして寝床で少し読んでみて最終判断をしている。科学はほとんどの作業が分類である。着目したものを合理的に分類することが科学である。これは本の科学なのか。いや、ただの病気だろう。 |